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「介護books」 ① 介護未経験でも、介護者の気持ちを分かりたい人へ、おすすめの2冊

 今は、介護に幸いにもあまり縁がない状態だけど、それでも介護に関心はあって、もしできたら、家族介護者がどんな気持ちなのかを知りたいし、知っておきたいと思う人に、オススメの本を2冊あげさせていただきます。

『夜と霧』 ヴィクトール・E・フランクル

 いきなり、介護と関係なさそうな本で申し訳ないのですが、そして、もしかしたら、すでに読んだ方も多いと思われる、いわゆる「名著」です。
 ただ、この本を読んだ時、私は、介護中で個人的には気持ちとしては厳しい時期だったのですが、思った以上に、この感じはわかる、と共感してしまいました。

 第2次世界大戦中に、ナチスによって、ただユダヤ人というだけで、強制収容所に収容され、死のすぐそばで生き延びた心理学者であるフランクルが残した、貴重な記録です。その本を読んで、まったく関係のない、時代も違う、遠い東洋の介護者である自分自身が、「わかる」と思ってしまったのは、冷静に考えれば、それは不遜かもしれず、不謹慎かもしれません。

それでも、収容所の中で、「いつまで続くかわからない」状態に陥っていって、そのことによって、感情の動き自体がなくなっていく、といった描写が、とても身近に感じました。介護を始めてから、自分でもそれなりに介護関係の本を読んだり、記事を読んだりしましたが、その「いつまで続くかわからない」時間の中で、身動きがとれなくなっていく感じが、これほどまでにリアルに(当たり前ですが)描かれているものは、読んだことがありませんでした。そして、この感じが、周囲に、少しでも理解してもらえたら、介護をしていて、ちょっとでも楽になるのに、と感じました。



 そして、これも、その時は、自分が介護でかなり追いつめられていた時期のせいもあるのでしょうけど、この本を読んで、うらやましいなどと思ってしまったことまで、ありました。

 強制収容所から、解放された時、あまりにも一気に開放感になるので、急激に深海から浮上する際に起こる潜水病にたとえて、気をつけなければいけない、という指摘がされていました。それに対して、その大変さを頭で想像しながらも、反射的には、うらやましいと思ってしまいました。それは、失礼だったり、不謹慎だったりとも思いますが、介護の終わりは、介護をして来た人が亡くなるのだから、終わった時には、開放感と無縁なのも想像できました。だから、開放感があるのが、うらやましいと思ってしまったのです。

 そんな読み方は、たぶん邪道だとは思うのですが、この本の中に描かれた、ずっと続く拘束感を少しでも追体験もできる上に、どちらにしても、読む時に、かなり精神的な負荷がかかる内容でもあるのですが、それでも、大げさにいえば、人類であれば、やはり読んだ方がいい本でもあると思います。


「そうかもしれない」  耕治人

   次は、小説です。
 ただ、ほぼ事実と思われる内容だと思わせる作品です。

「天井から降る哀しい音」「どんなご縁で」「そうかもしれない」の3篇で、歳月を重ねていきます。

 結婚して、50年以上たった夫婦。妻が徐々に行動がおかしくなっていくのですが、認知症を疑いながらも、でも、やっぱり違うんじゃないか、歳をとっただけではないか、と揺れるような様子まで、繊細に描いています。それでも、残酷なまでに認知症が進んでいって、夫も病気になってしまいます。読んでいて、かなり切なく、悲しいですが、とても澄んだ印象が残る作品です。

 そんな時間の中で、夫は大騒ぎすることもなく、妻のことを、よくここまで、と思うくらい、きちんと介護を続けて、でも、認知症の症状は進んで行って、という話です。生活する中で、家族が認知症になっていて、起こる様々な出来事が、とてもリアルに思えます。

 夫は、いつ泣いても、おかしくないと読者は思うのですが、涙を流しません。それでも、ある時だけ、本当に堪えきれずに涙を流し続けるところも、確かに、このタイミングだろうな、と思えるところでした。

 しかも、3篇目の「そうかもしれない」が、作家の絶筆となってしまっているということも考え合わせれば、介護者の小説としてだけでなく、夫婦のつながりも含めて、書ききったとも言える、読むべき作品だと思います。


 今回は実用書というよりは、家族介護者の、その心境を想像できる作品をあげさせてもらいました。よろしかったら、読んでいただければ、と思います。


 次回は、介護books」②「介護が始まるかもしれない人へ。不安を(少しでも)減らすための4冊」ですご興味があれば、クリックして、読んでいただければ、うれしく思います。


 

 他にも介護に関して、いろいろと書いています。よろしかったら、読んでいただければ、幸いです。(それぞれクリックすると、リンクしています)


『介護時間』の光景① 「母娘」

『介護離職して、10年以上介護をしながら、50歳を超えて臨床心理士になった理由①』

『家族介護者の気持ち』 ①介護のはじまり・突然始まる混沌

介護の大変さを、少しでもやわらげる方法① 自然とふれる



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