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「介護時間」の光景㉓ 「アナウンス」と「おにぎりボックス」 8.27.

    今から、17年前のことです。

 古い話ですみませんが、母親が入院する病院へ毎日通っている頃です。「通い介護」(リンクあり)といっていい行為だったと思っています。家に帰ってきてからは、義母(妻の母)を、妻と一緒に介護をしていました。

 仕事もやめ、介護だけに専念する生活になって、4年くらいがたっていました。
 まったく先が見えないことは変わりがなかったのですが、ただ、今のことだけを考える癖がついてきたことで、不思議な余裕が出てきた頃だと思います。それは、母親の症状が安定してきた、という理由もありました。

2003年8月27日。

 この日は、母の病院に行く前に、弁護士に相談をしています。
 以前、母親が入院していた病院では、明らかな病状の見落としがあって症状が悪化したり、母親の状況で「とにかく困ります」と夜中にも呼び出され、母の個室の中で、私自身も、心房細動の発作を起こし、死ぬかもしれないことがありました。それが、2000年の頃でした。

 その様々な出来事の中でも、病院側は一切あやまることがなく、私の心臓の発作について気遣うこともなく、ただ、こちらが責められ続けたので、いつか、はっきりさせたいと思っていました。

 やっと、具体的に弁護士に相談ができるようになるまで、自分が発作を起こしてから3年くらいが必要でした。転院してから、病院によって、こんなに差があることを、初めて知りました。最初に通う病院が違っていたら、心臓の発作を起こしたり、仕事を辞めざるを得なかったり、もしくは、母親の現在さえ、変わっていたのではないか、と思うと、本当に取り返しのつかないような無念さに襲われたりしていました。

 この日は、午後に、地域の弁護士会が開催している有料の弁護士相談に行ったのですが、最初から、こんなことで訴えようと思うな、と言わんばかりの話が続きました。どうして、ここでも不快な思いをしなければいけないのか。まるで、取り調べのような口調でした。話の後半は、プロの相談の相手として、そういう態度は変ではないか、ということを伝えたら、最後の5分で、むきになりすぎた、という言葉が出て、医療関係の専門と思われる他の弁護士を紹介してくれました。

 自分も、専門家というものを、よく分かっていませんでした。
 素人は、何が大事か分からないので、その時に起こったことを、なるべく多くのデータとして伝えたら、専門家は、素人では気がつかない点も含めて拾い出し、そして、より正解を導き出してくれる、と思っていました。

 だけど、専門家は、その専門性の中におさまるように、整理して、提出しなければ、機能しないようでした。もちろん、もっと一流になれば、私が想像していたような専門家もいるのでしょうが、私のような、地位もお金もコネもない人間の前には、そんな専門家があらわれることがないのを、嫌というほど思い知らされるのは、もう少しあとのことでした。

 そんなことのあった日々のせいか、気持ちは妙にすさんでいたのかもしれません。
 この日は、その相談が終わってから、母親の病院へ行き、午後7時にいつものように病室を出ました。
 そのあとのことです。


アナウンス
 
 

 午後8時過ぎの東海道線。途中の駅で止まったまま、しばらく動かなくなった。
 「戸塚・横浜間で人身事故」。
  アナウンスが車内に流れる。
  それからも時々、説明が入った。
 「現在、搬出している、という情報が入りました」。
  さらに続いた。
 「現在、遺体を搬出しているという情報が入りました」。
  ここまで具体的なアナウンスは私にとっては初めてだった。
              
                    (2003年8月27日)


 その後、2007年に、母親は病院で亡くなりました。
 2018年の暮れに、義母が急に亡くなり、19年間の介護生活が、突然、終わりました。
 それから、1年半がたって、昼夜逆転になっていた生活のリズムが、少し日常的なものになってきました。


「おにぎりボックス」


 2020年8月27日。
 今日も暑い日でした。

 昼食は、ご近所の人にいただいたお赤飯を、妻がおにぎりにしてくれました。
 それで、初めて、買っておいた「おにぎりボックス」が、2つ揃って食卓に並びました。


 今年3月頃、コロナ禍がひどくなりつつあった時、妻のプレゼントを探して、マスクをして、駅ビルをうろうろしていました。そして、この記事の見出し画像の「おにぎりボックス」が目に入って、気になりました。それから、いろいろ見ても、そのイメージがずっとあって、また、そのショップに戻りました。

 あ、戻ってきてくれたんですね。
 といったことを、若い女性スタッフに言われ、そのボックスを、また見ていたら、「これ、ツィッターでも話題なんですよ」とも続けてくれた。そのことは、携帯もスマホも持っていないせいか、知らなかったが、話をしてくれる距離感を遠すぎず、近すぎずで、調整してくれて、ありがたいと思いました。

 結局、迷って、「ゴマ」のボックスを買いました。
 レジで、このボックスは、「コンビニのおにぎりも入るサイズなんです」と説明してくれた。サイズが小さめだと手作りしか入らないけど、少し大きめで、買ったおにぎりでも入ると分かれば、このボックスも購入しやすくなる。そんな思考を勝手に走らせて、「企画した人の頭もいいんですね」と感心もして、伝えたら、その言葉も柔らかく受けてくれて、ありがたいと思いました。

 妻は、喜んでくれました。
 次は、自分の分も買って、一緒に外でおにぎりでも食べられたら、楽しそうだと考えました。

 それから、少したったら、緊急事態宣言が発出され、その駅ビルも閉鎖された時期がありました。
 何ヶ月かたって、ショップが再開され、立ち寄ったら、たぶん、同じスタッフの方がいたようだったので、覚えているかどうかも分からないけど、妻が喜んでくれたこと、さらに、もう一つ買って、一緒に使いたいことを伝えて、自分のは「マメ」を買ってきました。

 それから、コロナ禍は続き、梅雨が長くなり、より外出できず、夏がやってきたら、やたらと暑くて、外へ出かけるには厳しい日々が続いています。

 そして、やっと、今日、おにぎりだから、というので、昼食の時に、妻が食卓に並べてくれました。

 家で「おにぎりボックス」で食べても、おいしかったし、楽しい時間になりました。

 
 少し前に、そのショップの前を通りかかったら、「おにぎりボックス」の種類が、さらに増えていました。



(他にも、介護のことを、いろいろと書いています↓。クリックして読んでいただければ、ありがたく思います)。

家族介護者の気持ち⑧「介護が終わっても、介護が続いているような感覚」

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