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「介護booksセレクト」⑲『母親の孤独から回復する 虐待のグループワーク実践に学ぶ』 村上靖彦

 いつも読んでくださっている方は、ありがとうございます。
 おかげで、こうして書き続けることができています。

 初めて読んでくださっている方は、見つけていただき、ありがとうございます。
 私は、臨床心理士/ 公認心理師越智誠(おちまこと)と申します。

「介護books セレクト」

 当初は、いろいろな環境や、様々な状況にいらっしゃる方々に向けて、「介護books」として、毎回、書籍を複数冊、紹介させていただいていました。

 その後、自分の能力や情報力の不足を感じ、毎回、複数冊の書籍の紹介ができないと思い、いったんは終了しました。

 それでも、広く紹介したいと思える本を読んだりすることもあり、今後は、一冊でも紹介したい本がある時は、お伝えしようと思い、このシリーズを「介護booksセレクト」として、復活し、継続することにしました。

 今回は、一見、高齢者介護とは、あまり関係なく思えるかもしれません。

 ただ、虐待への対応、ということで、実は、特に支援者の方々には、読んでいただきたいと思い、紹介させてもらうことにしました。


高齢者虐待防止法

 高齢者虐待防止法が施行されたのは、2006年でした。

高齢者虐待法とは、在宅や施設内において、高齢者の人権を無視して、身体的への暴行、心理的な外傷を与える行為、養護の著しい怠慢、財産の不当な処分等を行うことです。

高齢者虐待は、家庭内虐待と施設内虐待の二つに分離され、その種類には身体的虐待、心理的虐待、世話の放任、遺棄、性的虐待、経済的虐待があります。

 こうしたことは、それから10年以上経って、かなり「常識」として定着してきたように思います。ただ、こうした「虐待」とは何か?といったことを厳密に考えると、私もそうですが、介護を経験した人にとっては、もしかしたら、自分も虐待した時があるかもしれない、という思いになるのではないでしょうか。

高齢者虐待が起こる要因には介護者の負担がもっとも大きいとされますが、その背景には認知症や過去の人間関係など、様々な要因があると考えられます。

 また、日本の風土においては虐待に対する当事者の意識が低く、虐待そのものが表に出にくい状況があります。ミトンをつけることや4点柵で対応することなど身体拘束も高齢者虐待にあたります。

 高齢者虐待防止法ができ、虐待が起こる要因には「介護者の負担」が大きいとされています。

 それに関して、その負担をやわらげるために、介護保険による介護サービスを利用する事によって、物理的に介護する時間を減らす。といったことが、おそらくは専門家にも、すすめられると考えられますが、それ以外に、介護者を直接、支援するサービスなどは、増えたと聞いた記憶が、ほとんどありません。

 地域包括支援センターなどで行われる「介護相談」は、あくまでも、要介護者中心に、言ってみれば、主に、どのように有効なケアプランを組むか?といった話になっているような印象があります。(もちろん、さらに踏み込んだ相談と対応を行っている方もいらっしゃると思いますので、この辺りは違っていたら、すみません)

対策

 現状では、高齢者虐待を減らすための具体的で有効な対策が、なされていないように思います。それを示すように、施設も家庭でも、調査が始まった2006年が高齢者虐待の件数が最も少なく、それ以降、それを下回るような虐待件数になっていません。

令和3年度の市町村への高齢者虐待の相談・通報件数は、養介護施設従事者によるものが2,390件(前年度より293件、14.0%増加)、養護者によるものは36,378件(同604件、1.7%増加)でした。うち、高齢者虐待であると判断された件数は、養介護施設従事者等によるものが739件(同144件、24.2%増加)、養護者によるものは16,426件(同855件、4.9%減少)です。

 2021年度では、施設などでの虐待は739件。家庭では16、426件と発表されているので、今さらながら、特に家庭での虐待件数は、改めて多いと思います。

介護者相談

 家族による介護は、場合によっては、介護保険を利用することが難しい事もありえます。

 例えば、様々な事情によって、介護保険のサービスを利用できない場合や、介護保険の「改定」のたびに「サービス抑制」が進んでいくような現状では、介護負担を軽くするためのサービスを利用したくても増やせない、という家族介護者も少なくないと思われます。

 こうした場合、少しでも家族介護者の大変さを減らすためには、心理的な負担を減らすのが、まず考えるべきことのはずです。そういう面から、介護者の気持ちの部分に焦点を当てた相談が必要だと考え、私も、ある首都圏の区役所で、「介護者相談」を担当させていただき、10年目になります。

 行政の方々のご尽力もあり、相談窓口を利用していただく方々も多いのですが、それ以上に、潜在的な需要の多さもずっと感じています。

 こうした介護者の気持ちの部分をサポートできる相談窓口が、どの地域にも必要と思い、こうしたnoteだけではなく、介護や高齢者に関する話をさせていただく機会にも、なるべくお伝えするようにしてきました。

 それでも、私自身の説得力不足などもあって、(もちろん自分一人の力で、なんとかなるものでないのは理解していますが)、介護に関わってから20年以上が経ちますが、こうした介護者のため、と焦点を絞った相談窓口は、ほとんど増加していません。

 それでも、介護者のこころの問題に焦点を当てた、個別の相談窓口は、どの地域にも必要だという思いも、変わりません。


(私が担当しているわけではありませんが、こうした心理士(師)が担当しているような相談窓口↓は、どの自治体でも開設してもらえたら、と思っています)。


 そんなことを改めて思い起こしたのは、児童虐待に関する本を読み、実施するには繊細で大変な努力と工夫が必要ですが、その虐待への対策の有効な実践を知ったからでした。


『母親の孤独から回復する 虐待のグループワーク実践から学ぶ』 村上靖彦

 まず、重要なのは、児童虐待が、どのようにして発生するのか?という見極めだと思いました。

 子育てをしていく上で困難を感じる人はたくさんいる。その困難の原因は「虐待を行った」とされる人や家族関係の葛藤だけに由来するものではなく、貧困や差別のように社会全体に拡がるものである。たしかに虐待は親の側の「力の誤用」だが、しかし何らかの理由で親はそのような行為へと追い込まれているのだ。このことを表現するために、本書では「虐待へと追い込まれた親」という表現を多用している。親の回復とは、追い込まれた受動的な状態から主体的に人生を生きる方向へ変化し、その中で力の誤用がなくなることだろう。

もちろん、虐待を受けた人のほとんどは大人になってから自分もそれを繰り返すことはない。しかし、問題が生じた少数の人は、母親になった「今、現在」も困難な状況にいることが多い。貧困やDVといった状況の中で追いつめられることが虐待の要因となる。逆に言うと、安定した環境の中で支えをもっている人には、ほとんどの場合、問題は起きない。一つ目の大きな分岐点になっているのはその点だ。

 二つ目の分岐点は、安全な環境の中で過去と直面したことがあるかどうかである。自分の過去の傷に気づいている人は、我を忘れて手が出るということはない。すでに直面した人は虐待をしないし、虐待をした人も直面していく中でしなくなる。

 ここで問題になるのは、決してめずらしくはない貧困である。 

つまり、虐待行動は親のSOSでもあり、それに応答しないかぎり虐待はやまないだろう。

 高齢者虐待と、こうした児童虐待の場合とは、違いもあると思われますし、それについては、まだ詳細に語れる資格も能力もないのですが、この書籍の中で、著者が表現している「虐待へと追い込まれた親」を、「虐待へと追い込まれた介護者」と置き換えると、かなりしっくりくるのではないかと思いました。

 そうした見極めは、この書籍で紹介されているグループワークにも共有されている考えだと感じましたし、それがあるからこそ、この実践がより有効になっているのではないか、と思いました。

 このグループワークは、匿名性の高い当事者の集まりなのですが、訓練され経験も積んだファシリテーターが、虐待に関する正確な理解と対応と共に、控え目な姿勢を崩すことなく関わる事によって、参加者にとって有効な時間になっていると思われました。

別の見方をすると、実は虐待に追い込まれた母親の回復において問題になっているのは虐待ではなく孤立であり、暴力やネグレクトを停止することが支援の表の目的ではあるとしても、本当のところは途切れた回路をつなぎ直すことが問われている。そして、回復すべきつながりは、子どもや家族との関係だけでなく、例えば体や自然とのつながり、場所とのつながりも含んでいる。 

虐待は親を責めることで解決するわけではない。社会のさまざまな問題のひずみが、いちばん弱いポイントである子どものところでついに表面化した現象が虐待であり、しかも虐待行動そのものも、困難な生活の中で親が生き残るために格闘している姿の一部である。さらに虐待を止める手段があるということは、「虐待の連鎖」と呼ぶことで逃れられない運命であるかのように固定してしまうラベリングが適切でないことも示している(ファシリテーターは、私にこのことを何度も強調していた)。  

 家族介護者でも「虐待に追い込まれた」場合は、やはり、孤立に関しても、焦点をあて、おそらくは「途切れた回路をつなぎ直すことが問われている」のだと思います。

 その具体的な方法については、私自身も、「介護者相談」の場で、孤立を少しでも防ぐために、理解を含めての対応を心がけてはいるのですが、その相談窓口を増やす努力を(とても微力ですが)続けるとともに、他にも、どのような方法が、高齢者虐待に追い込まれた介護者に対して、少しでも有効な対策になるかどうか。それについては、もっと考えて、わずかずつでも実行していきたいと思いました。


 そんなふうに改めて思えたのは、この書籍を読んだからでもあります。

 もし、支援にかかわる方でしたら、この実践を具体的に知っていただくためにも、全体を通して読むことを、おすすめします。



(こちらは↓、電子書籍版です)。



(他にも介護について、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでいただければ、うれしく思います)。




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