精神科医、離島へ行く
皆さん、こんにちは。鹿冶梟介(かやほうすけ)です。
それにしても、暑いですね〜。
こんな日はクーラーの効いた部屋で、キンキン冷えたビールを飲みながら、ガリガリ君を喫食したいところです。
そして、さらに”涼"を求めるのであれば、夏の風物詩「ホラー」が必要ですよね?
ということで、今回紹介するのは、私が経験したちょっとした恐怖体験の話です。
本当に「ちょっとした」内容なので、あまり身構えず、気楽に読んでいただければ幸いです。
尚、プライバシー配慮のため、論旨を変えない程度に脚色しております。
【精神科医、夏バテする】
これは20年前の、茹だるような暑い夏の話だ。
世間が猛暑で喘いでいる最中、運が悪いことに精神科医が住むアパートのクーラーは故障していた。
管理会社に修理を依頼するが、修理を委託している業者も繁忙期のようで、「対応できるのはお盆を過ぎてから」という返事だった。
灼熱地獄から逃れるため、精神科医はなるべく大学病院の滞在時間を増やしていた。
余談だが、精神科医の所属する医局の先輩の中には、医局に住み込み、果ては現住所を「大学病院」として役所に届けたツワモノもいたそうだ。
流石にレジェンドと比肩する器ではないため、夜間は自宅での寝苦しい日々にひたすら耐えていた。
暑さと寝苦しさのせいか、精神科医の体力は徐々に奪われ、そのうち疲労感、食欲不振に苛まれるようになった。
そう…、いわゆる夏バテ状態に陥ったのだ。
水分以外は受け付けず、冴えない日々が続く…。
【精神科医、離島へ行く】
体調不良ではあったが、精神科医はある仕事を任されていた。
それは医局から依頼された離島での日当直であった。
精神科医がいる市から100kmほど離れた離島には公立の総合病院があり、医局人事で数年毎に医師が派遣されていた。
その医師が”夏休み”をとるため、医局の若手医師が代医として日当直を任されていた。
そして精神科医も一泊二日の日程で、離島病院に向かうことになった。
高速船に揺られ1時間、精神科医は初めてその離島に訪れた。
人口3万人の離島は夏場は海水浴やマリンスポーツで賑わう観光地である。
体調不良の精神科医は、余暇を楽しもうとする家族やカップルを横目に、肩身の狭い思いをしながら片道1時間のフェリーに揺られていた。
【精神科医、受け付けない】
離島に到着したのはお昼前だった。
フェリーから降りると、「〇〇大学病院 鹿冶梟介 先生」と書かれた紙を掲げる病院職員がすぐ目に入った。
「鹿冶先生ですね。お迎えに伺いました。こちらへどうぞ」
精神科医にとって、このような厚遇は人生で初めてであり、もっと喜ぶべき事であったろう。
しかし、離島に上陸してから病院へ着くまでの記憶は明確ではない。
精神科医は船酔いしていたため、病院職員の労いの言葉や、島の観光名所についての説明も耳に入らなかったのだ。
這う這うの体で、病院に到着すると、ピンクのナースウェアを着た年配の女性が出迎えた。
「先生、◯◯島へようこそ!遠くから、わざわざありがとうございます♪ まずは医師免許証と保険医登録票のコピーを預かりますね( ^∀^)/」
愛想の良いベテラン師長は、精神科医を案内する道すがら、早口で今日・明日の予定についてブリーフィングをはじめた。
看護師長の説明によると、到着したその日は病棟診察、翌日の午前は外来診察…、という予定であった。
「先生、応接室へどうぞ。お腹減ったでしょ!ちゃんとお弁当、用意してありますわよ〜♡ 何と、今日は鰻丼弁当ですよ〜〜(^_-)!」
そう言ってどこからともなく弁当とお茶の入った紙袋を持ってきた。
「え…、あぁ、ありがとうございます。でも...、実は船酔いしちゃって…。お茶だけもらおうかな…。」
精神科医は、船酔いのため、鰻丼弁当を受け付ける状態ではなかった。
「えぇぇ〜( ´Д`;)??」
ベテラン看護師は、露骨に残念そうな顔を見せた…。
【精神科医、気になる】
一休みした後、精神科医は手渡された白衣を纏い、案内されるまま精神科病棟へ向かう。
「とても古い病棟なので、びっくりする先生もいますが、よろしくお願いしますね…(^_^ ;)」
ベテラン看護師は申し訳なさそうに、分厚い鉄製の扉を「ギギギ...」と音を立てながら開けた。
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