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彼方なる南十字星

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舞台は高度成長期の九州熊本。3人のしがない高校生が、夢を誕生させ、夢を育み、夢を実現させて、大人として大きく成長していく。3人で叶える「自作ヨットで太平洋を渡り、南十字星を見にい…
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2021年4月の記事一覧

【第27話】船乗りとして… 『彼方なる南十字星』

【第27話】船乗りとして… 『彼方なる南十字星』

日本の高度成長期。自作ヨットを操り、命がけで太平洋を渡り、南十字星を見に行った3人の若者の実話にもとづく冒険物語。***

翌朝。

キャビンを出た。風は多少強いが、波は穏やかになりつつあった。

助かった。何とか台風を乗り切った。裕太の船酔いも治ったようだ。

40年後の現在に至っても、本物の時化を乗り切ったことを鮮明に思い出す。
船上から台風の目を見たシーマン(船乗り)は、ほとんどいまい。

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【第28話】日本人の誇り 『彼方なる南十字星』

【第28話】日本人の誇り 『彼方なる南十字星』

日本の高度成長期。自作ヨットを操り、命がけで太平洋を渡り、南十字星を見に行った3人の若者の実話にもとづく冒険物語。***

夜間航海はまだ不安はあるが、少しずつ慣れてきているようだ。

日本を離れて、そう日が経っていない夜だった。何やら飛行機の爆音が聞こえてきた。

「何だ?」
僕と翔一はキャビンから出る。ワッチ(当直)をしている裕太が、指差した方向を目を凝らして眺めていた。

真っ黒の空に、ピカ

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【第29話】強制接舷を切り抜けろ 『彼方なる南十字星』

【第29話】強制接舷を切り抜けろ 『彼方なる南十字星』

日本の高度成長期。自作ヨットを操り、命がけで太平洋を渡り、南十字星を見に行った3人の若者の実話にもとづく冒険物語。***

メルカトル図法というものを、聞いたことがあるだろう。

例えば、普段見る世界地図は、メルカトル図法で描かれている。
地球は丸いために、メルカトル地図で直線を引いた線が最短距離という訳ではない。

最短距離というと、地球儀で出発地と目的地を糸で結んだ線が最短距離ということになる

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【第30話】ニアミス! 『彼方なる南十字星』

【第30話】ニアミス! 『彼方なる南十字星』

日本の高度成長期。自作ヨットを操り、命がけで太平洋を渡り、南十字星を見に行った3人の若者の実話にもとづく冒険物語。***

太平洋横断も半ばに入り、かなり緯度が高くなった。曇りの日が多くなり、外でのワッチ(当直)は寒くて辛い。
時にホライズン号の周囲は濃い霧に覆われる。100メートル先までも見えない時も珍しくなかった。

どのみち霧で前が見えない。ワッチは、たまにコンパスを覗き込み、方向を確認する

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【第31話】大陸見ゆ! 『彼方なる南十字星』

【第31話】大陸見ゆ! 『彼方なる南十字星』

日本の高度成長期。自作ヨットを操り、命がけで太平洋を渡り、南十字星を見に行った3人の若者の実話にもとづく冒険物語。***

太平洋横断という長い航海も、終盤を迎えていた。

計算では、あと数日でアメリカ大陸をランドフォールするはずだ。

ニアミスした頃と比べるといくぶん気温も上がり、過ごしやすくなった。
いい天気が続いている。

ヨットは、つくづく天候の影響を受けやすい船だと思う。
天候を読み、天

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【第32話】船尾はためく日の丸 『彼方なる南十字星』

【第32話】船尾はためく日の丸 『彼方なる南十字星』

日本の高度成長期。自作ヨットを操り、命がけで太平洋を渡り、南十字星を見に行った3人の若者の実話にもとづく冒険物語。***

霧の中、僕たちは周囲を見回した。ところどころ漁船らしき船が見える。
双眼鏡で見ていると、遠くに灯台の明かりが確認できた。
点滅回数や速度を読み、日本から持ってきた古いチャート(海図)で、同じ灯質(光り方)を探したが見つからない。

「この辺りだと思うんだが、灯台が海図とマッチ

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【第33話】旅路の縁を想う 『彼方なる南十字星』

【第33話】旅路の縁を想う 『彼方なる南十字星』

日本の高度成長期。自作ヨットを操り、命がけで太平洋を渡り、南十字星を見に行った3人の若者の実話にもとづく冒険物語。***

僕たちは、桟橋に繋がれたホライズン号に戻った。海の上とは違う安堵感がある。その何とも言えない安堵感の中で、僕たちはしばらく静かにくつろいだ。

裕太は船首。奴はそこが定位置だ。好奇心が人一倍旺盛な、あいつらしいポジションだ。
翔一はキャビン。だぶん読書だろう。持ってきた小説を

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【第34話】ポートタウンゼントの出逢い 『彼方なる南十字星』

【第34話】ポートタウンゼントの出逢い 『彼方なる南十字星』

日本の高度成長期。自作ヨットを操り、命がけで太平洋を渡り、南十字星を見に行った3人の若者の実話にもとづく冒険物語。***

翌日。ビクトリアの新聞に、僕たちのことが写真付きで大きく掲載されていた。朝刊の見開き1/4サイズだ。

デュバルがニコニコしながら、持ってきてくれた。

すると、新聞を見た地元の住民が、次々とホライズン号に訪れた。
僕たちは一夜にして、人気者になった。新聞のパワーはすごい。

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【第35話】ブロンドのソフィア 『彼方なる南十字星』

【第35話】ブロンドのソフィア 『彼方なる南十字星』

日本の高度成長期。自作ヨットを操り、命がけで太平洋を渡り、南十字星を見に行った3人の若者の実話にもとづく冒険物語。***

城田先生との定時交信を済ませた。

シアトルの空は陽が傾きかけていた。今日も夕日がきれいだろう。
そんなことを考えながら、マイクさんのムスタングに乗って家に向かった。

20分ほど走っただろうか。シアトルの街を抜けて、住宅街に入った。
初めてみるアメリカの住宅街だ。

日本と

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【第36話】See you again… 『彼方なる南十字星』

【第36話】See you again… 『彼方なる南十字星』

日本の高度成長期。自作ヨットを操り、命がけで太平洋を渡り、南十字星を見に行った3人の若者の実話にもとづく冒険物語。***

ソフィアとの待ち合わせ時間は17時だ。僕は二人に、「ソフィアとデートなんだ。」と告げて、ホライズン号を出た。

裕太は、「そうか、楽しんで来いよ。」と言ってくれた。こいつは全てを察している。一方の翔一は、何事か飲み込めずにいるようだった。

7月のこの季節。夜のとばりは20時

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【第37話】魅惑の海を征き… 『彼方なる南十字星』

【第37話】魅惑の海を征き… 『彼方なる南十字星』

日本の高度成長期。自作ヨットを操り、命がけで太平洋を渡り、南十字星を見に行った3人の若者の実話にもとづく冒険物語。***

シアトルでの、もう一つのエピソードを話しておこう。

ショルショーヨットハーバーに停泊中、新聞記事を見た人たちがホライズン号に来た。実にいろんな人の訪問を受けた。

中でも、日本の大学に留学したことのある、デビットという若者がやって来た時の思い出は心に残っている。
デビットは

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【第38話】夜光虫のエールを受けて… 『彼方なる南十字星』

【第38話】夜光虫のエールを受けて… 『彼方なる南十字星』

日本の高度成長期。自作ヨットを操り、命がけで太平洋を渡り、南十字星を見に行った3人の若者の実話にもとづく冒険物語。***

翌日は、花火大会があるらしい。
「行ってみないか?」ロバートさんの誘いに、僕たちは小躍りした。

僕たちはシーガル号に乗せてもらい、会場に向かった。たくさんのマイボートが集結していて、みんなデッキで飲み、食べ、そして歌っている。本当に楽しそうだ。

バンクーバー。イングリッシ

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【第39話】港町の喧騒の中 『彼方なる南十字星』

【第39話】港町の喧騒の中 『彼方なる南十字星』

日本の高度成長期。自作ヨットを操り、命がけで太平洋を渡り、南十字星を見に行った3人の若者の実話にもとづく冒険物語。***

サンフランシスの中にあるフィッシャーマンズワーフは、直訳すると「漁師の波止場」である。

街中が活気に溢れて、数々の魚介類が水揚げされる港町であるが、一方でサンフランシスコの重要な観光地でもあるのだ。
水揚げ場の近くを通ると、魚介類の臭いが鼻を突く。

僕たちは、ケーブルカー

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【第40話】ワイルド・ジャイブ! 『彼方なる南十字星』

【第40話】ワイルド・ジャイブ! 『彼方なる南十字星』

日本の高度成長期。自作ヨットを操り、命がけで太平洋を渡り、南十字星を見に行った3人の若者の実話にもとづく冒険物語。***

翌朝、8時。ホライズン号は錨を上げ、ピア39を離れた。風は少し強いが、航行には問題なさそうだ。

よく晴れていた。ゴールデンゲートブリッジを再度くぐり、太平洋に出た。少し沖まで走り、南に舵をとった。

医学生のジムによると、裕太は口の中の裂傷(切り傷)以外は外傷がないというこ

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