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人生図書館

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小説書いてみました。
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#ショートショート

夫婦によく、間違えられる。

学生時代から、ずっとバイトをしているカフェ。
私は、そこの店主と、よく夫婦に間違えられる。
店主の大崎さんは、40代くらいなんだけども、とても若く見えるというのはあるかもしれない。
いや、私が老けて見えるだけなのかもしれない。

「親の顔より見た大崎さんの顔」というくらい、シフト入ってるからかもしれない。
大崎さんは、シレッとそこにいるような雰囲気の人で、長いこと一緒に働いてきたけど、そこまで踏み

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似てる

似てる

「お父さんに似てるね」

そう、言われるたび、心が苦しくなった。

「でしょ?僕の自慢の息子なんですよ」

”父さん”は、そう言ってくれる。
事実、誰よりも、下手したら母さんよりも、僕を可愛がってくれるのは確かではある。
だが、僕らの関係は、母さんが大好きな”同士”だ。

そう、血が繋がっていないんだ、僕らは。
確かに、義理の親子ではあるんだけども、そして僕のような存在を邪険に扱う人だって無数にい

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スーパー銭湯で

スーパー銭湯で

都会の夜は暗い。

星の明かりも見えない新月の日の露天風呂は、仕事終わりの強ばって痛いカラダを癒してくれる。

ふーっとチカラを抜いた、その時、目の前をツツーっと黄色いアヒル隊長が通りすぎていった。

「あーー!ぼくのアヒル」

甲高い声と共にはしゃぐ男児。四歳位か。

「こーら。騒ぐんじゃない。」

たしなめるお母さんは、私と同じ位の年の頃だった。

なんだか、私が選ばなかった未来、いや、選ばな

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私の恋の思い出。

私の恋の思い出。

若さ特有の、キラキラしたオーラと共にあらわれたあなたの、黒々とした髪と、躍動感溢れる瞳。

ユニクロにでも売ってそうなシンプルな紫のパーカーに、これまたシンプルな白いTシャツ、少し色落ちしたデニムに、プーマのスニーカー姿のあの頃のあなた。

実際の身長より高く大きくみえた、堂々とした俺様な空気にのまれて、私は、ただただ興奮するだけで、話しかけることすら出来なかった。

そんな、大人しすぎる黒髪が伸

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理解のない男

私の夫は 仕事に理解がない。

説明するのだが、ブログが収入源になることすら理解出来ていないのだ。

毎日毎日、複数記事を更新したいのに、夫が休みの日は、やれ子供をみろだの、やれなんだと話しかけては自分に注目を浴びさせようとする。

毎日毎日、記事を更新して、それを一年二年と何年も続けてはじめて収入源になるくらいのビューが得られる。

そんなものだと、やるしかないんだと、私は信じている。

だのに

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妻の連れ子

妻の連れ子

今日も 甘い一言を妻にささやく。

そんな甘い一時を 邪魔する存在がいる。

「オッサン、いつまでイケメン気取りなんだよ。ハゲチビなの自覚しろよな。」

妻の連れ子だ。もう中学二年生の男の子。
妻より大きくなった身体で、ソファーを占領しながら本を読みつつ発する一言、一言がかなりのダメージになる。

なぐっていい?

いいわけがないから、せめて壁を殴りたい。

しかし、そんなことをして妻をかなしませ

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帰省したくない。

帰省したくない。

もうすぐ連休。帰省ラッシュの季節。
だが、私は帰省したくない。

夫や子供たちに、いつ私の裏切りがバレるのだろうとヒヤヒヤさせられるからだ。

私の”恋人”は義理の兄。姉の婿にあたる。
このときばかりは彼に会いたくない。

姉夫婦は、美男美女のカップルで、いわゆるモテる人たち。

学校でも会社でも合コンでも一番人気の、高収入な彼を手に入れるために、ただでさえ美人の姉は美しさに磨きをかけ、料理を習い

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君を食わせられない僕

君を食わせられない僕

お客さまが満員で、立ち見が出てくる、今日の寄席。

目当ては僕じゃなくて、TVで大人気の今日のトリ。

僕は、目の前のお客さまをみつめながら、目の前にはいない君だけのために、マジックを披露する。

いつも、そうだった。

目の前に君がいても、いなくても。

僕の心に マジックをかけられるのは、君だけなんだ。

だからこそ、あの日別れを告げた。

しがない寄席小屋から、一生出れそうにないらしいから。

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僕の一生と家族

僕の一生と家族

産後、冷たくなる妻とよく言われているが、たぶん、里帰り出産なるものの罪だろう。

離れてしまえば、恋しくなるが、離れてしまえば、わかるものも、わかりあえない。

妻は、新婚のころはあんなに、好き好きと言ってくれたのに、今となっては、僕にでかけてほしいらしい。

そんな僕は、もう定年退職した身なので、出掛ける場所なぞ、もうどこにもない。

趣味も返上して、仕事の鬼となって励んだのは、他ならぬ家族のた

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雨の日でも

雨の日でも

営業の外まわりは 雨の日でも ある。

当たり前のことなんだけど、傘をさして歩く。

今日も、明日も。
営業に僕が向いている、なんてこれっぽちも思ったことはない。

だって、ノルマがどうとか言われても、一番になりたいとかまで、思えないんだから。

やっぱり、営業は向いてない。

アポなし外回りで、袖にされるたびにヘコむ僕は、やっぱり営業向きではない。

いつも、そう思うけど、もうこの年になると、そ

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春の陽気の中で。

春の陽気の中で。

とある河の土手。

流れる水は、もうあの頃みたいな綺麗さはないけども、野原の気持ちよさだけは、かわらない。

んー

服が汚れるのも構わずに、私は、ごろんと仰向けなった。

真っ青な空に、チチチ……とさえずる鳥たちが横切ったり、飛行機雲がすーっと一筋たちきってゆく。

何年ぶりだろうなぁ?

こんな風に青空を眺めるのは。

ここ数年は、幼い子供たちと格闘しながら、荒れ果てていく家の修繕作業にいそし

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