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私の恋の思い出。

若さ特有の、キラキラしたオーラと共にあらわれたあなたの、黒々とした髪と、躍動感溢れる瞳。

ユニクロにでも売ってそうなシンプルな紫のパーカーに、これまたシンプルな白いTシャツ、少し色落ちしたデニムに、プーマのスニーカー姿のあの頃のあなた。

実際の身長より高く大きくみえた、堂々とした俺様な空気にのまれて、私は、ただただ興奮するだけで、話しかけることすら出来なかった。

そんな、大人しすぎる黒髪が伸びっぱなしになっただけの、年相応なふわふわしたワンピースが好きで、安い古着のワンピースを似合いもしない癖に着ている、顔はというと中の下な私。

彼は、躍動感溢れる瞳を私に標準定めて見つめ、

「こんにちは、はじめまして。」

くしゃっとした、それでいて煌めいた笑顔で、私に話しかけてくれた。

「はっ……はじめましてっ………」

うわずった声で返すのが精一杯の私に、くすっと笑い、頭をポンポンとなでると、さっとパーカーのポケットから、紙切れを出して、私の小さな手に握らせた。

紙切れには、電話番号とメールアドレスが書いてあった。

早速、お返事しなきゃ、だけど、手が真っ赤になって動かない。自分では見えないけど、きっと顔も真っ赤だ。

どうしよう、どうしよう、こんなチャンス、つかまなきゃ、どうするよ?私、がんばれ。

渡されたメールアドレス宛てに、名前と電話番号を書いて、キュッと祈るように握りしめながらメールを送信した。

…………あれから、十数年。

私は、一介の主婦として、レジのパートに出ながら、可愛い息子と娘に恵まれ、2LDKのマンションに暮らしている。

すっかり産後太りしてしまった私には、もう、あの頃のような恋は縁遠い。

だけど、いいんだ。

「ただいま。」

すっかり頭髪も薄くなり、白髪混じりというより黒髪が混じった、くたびれたスーツ姿の男性が帰宅してきた。そう、私の夫だ。

「おかえりなさい。」

そう返す私の頬に彼は近づき、キュッと抱きしめる。
そして、スッと見つめあう。

どんなに、現実にくたびれても、躍動感溢れる瞳だけは、あの頃とかわらない。

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