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君を食わせられない僕

お客さまが満員で、立ち見が出てくる、今日の寄席。

目当ては僕じゃなくて、TVで大人気の今日のトリ。

僕は、目の前のお客さまをみつめながら、目の前にはいない君だけのために、マジックを披露する。

いつも、そうだった。

目の前に君がいても、いなくても。

僕の心に マジックをかけられるのは、君だけなんだ。

だからこそ、あの日別れを告げた。

しがない寄席小屋から、一生出れそうにないらしいから。

次々同期は売れていく。
僕はもうマジックをはじめて十数年。

君と出会って、恋をして。
楽しかったら、それでよかったのは、若い頃だけ。

子供とか結婚とか。
そんなの、僕に求められても、答えられそうにないから。
あの日、僕から別れを告げた。

泣きそうな笑顔は、今でも忘れられない。

あれから何年たったんだろう?
今でも、君のためだけに 僕はマジックをかけ続けている。

遠くで 君の望む幸せを手に入れた君のために。

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