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GUILTY&FAIRLY 『蒼 彼女と描く世界』 著 渡邊 薫    


「君はいつから、こうなる事を知っていたの?」


第一章  美しい世界

 

青とピンクのグラデーションの空、太陽が隠れている雲の隙間から、女神でも出てくるかのように美しい光が差し込み輝いていた。

吸い込まれそうなほど綺麗な空も、この世界では日常だった。

 

この世界は、人間と妖精が共存する世界だ。

空気はいつも澄み、木々は青々と茂り、白い建物に鮮やかな赤や青のドア。

統一された街並みをぐるりと囲む山々を流れる川は、川魚も泳いでいて綺麗だった。

人間が作り上げた建物と自然が調和する住みやすい場所だ。

 

大きな争い事もなく、平和な日々が続いていた。

そこへ、ふと、ため息が漏れる。

小さな白い建物、青のドア、その隣に並んで立つ木からだった。

妖精たちの家は小枝や葉っぱから出来ていて、木の上や、木の根っこ辺りに、そこ彼処にあった。

ため息が聞こえて来たのは、木の上の妖精の家からだった。

この家に住んでいるのは、妖精のリリー。

人間の男の手のひらほどの背丈で、薄いブルーの瞳に、白い肌、腰まである黄金に優しく輝くウェーブがかった髪。透き通るブルーの羽は、他の妖精よりもひとまわり大きい。

何の変哲もない日々に、リリーは飽き飽きしていた。

「ああ。つまらない」

妖精たちのする仕事は特にない。

生きているだけで良かった。

妖精たちの呼吸は、人間たちのそれと違い、吐き出す息は、花々を美しく咲き誇らせ、木々を青々と茂らせた。

人間の濁らせた空気も、妖精たちがただ息をするだけで美しく澄んだ空気にたちまち変わった。

妖精と共存するこの世界の自然は、みな生き生きとしていて色鮮やかだった。

リリーの日々の楽しみは、隣の小さな白い家に住むジャンの毎日を眺める事だった。

ジャンは、リリーとは真逆のサラサラとした黒髪、灰色の目をしていた。

ほっそりとしていて、どこか頼りなさそうな二十八歳の男だ。

ジャンの仕事はオーダーメイドの洋服作りで、自宅と兼用。

今日もデザインを考え、頭をわしわしと掻きながら机に向かっていた。

リリーは木の上にある自分の家から、窓辺にある机で仕事をしているジャンを今日も眺めていた。

リリーがジャンの家の隣の木に住もうと決めたのには理由がある。

フラフラと、どの木に住もうか飛び回っていた時に、ジャンが洋服のデッサンしているのを見かけた。

スッキリとしたシンプルな形のジャケットに沢山の切れ目が入っていて、中に着たシャツが見えるように描かれたその洋服は、洗練されていて遊び心があった。

毎日に退屈していたリリーは、そんなジャンの仕事に興味をそそられた。



『GUILTY & FAIRLY: 罪と妖精の物語 color』(渡邊 薫 著)

全てはある妖精に出会ったことから始まった。
これは、はたして単なる冒険の物語だろうか。

異世界への扉。パラレルワールドに飛び込むことが出来たなら、どうなるのだろう。
自分自身はどう感じ、どう行動していくのだろう。
あるはずがない。
凝り固まった頭では、決して覗くことのできない世界。 https://a.co/9on8mQd

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