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GUILTY&FAIRLY 『蒼(あお) 彼女と描く世界』 著 渡邊 薫    

第七話 説得

 

リリーは困っていた。

オリバーにはジャンが乗り気ではないことを言えなかった。

多分あのオリバーの雰囲気では、ジャンが乗り気ではないと言ってしまうと仲間には迎え入れてくれそうになかったからだ。

オリバーが洋服を取りにお店に来てしまう前に、ジャンをその気にさせておかないと、きっとこの話は駄目になってしまう。

リリーはなんとか説得させる方法を考えていた。

「だって……。ジャンも一緒じゃなきゃ嫌」

リリーには唯一の友達がジャンだった。

リリーにとっては、初めて仲良くなれた大切な存在だった。

羽が違うというだけで孤立していて、リリーには妖精界で心を許せる友達がいなかった。

 

リリーは、ブルーの羽を羽ばたかせながらジャンが不在にしている部屋で飛び回り、説得する方法を考えていた。

考えがまとまる前に、部屋のドアが開いた。

「リリー! なんでまた僕の家にいるの? 鍵閉めて出たと思うけど」

「お帰りなさい。ジャン。二階の奥の部屋の窓が開いたままになっていたから。お邪魔して待っていたの」

「君、最近来てなかったから、怒っているのかと思ったよ」

「怒ったりなんか、していないわ」

リリーは、にこりと口角をあげた。

「そうか。良かった。君があの森に急に行こうなんて言うからびっくりして。君が飛んで出て行ってしまって、寂しかったよ」

「……その、森の事なんだけど」

「何?」

「ジャンはあれから気になったりしてないかなぁ〜。なんて」

「森が? ははっ。最近その話を別の人ともしたばかりで、ま、そりゃあ気にならなくはないよ。異世界に通じる扉なんて。扉の先が本当に安全で、夢に見るような世界なら僕だって行ってみたいよ」

リリーは、ジャンの顔にずいっと近寄った。

「そうだよね!! あのね、ジャン実は——」

ジャンはリリーが続けて話す前に喋り出した。

「でも、正直、僕はそんな扉なんて無いと思っている。僕は現実主義だし。それに君みたいな妖精が行くならまだ分かるけれど、人間たちが自分の仕事を放り出して何処かに行ってしまうなんて。残された周りの人はどうなるの? 僕でさえ頼りにしてくれている人がこんなにいるのに、その人たちに迷惑かけてまで自分のやりたい事を追いかけたいとは思わない。そんな無責任な人にはなれないよ」

「でも、お洋服屋さんはまだ他にもあるし、人間たちは沢山いるわ。一人くらい冒険に出たって大丈夫じゃない?」

「僕じゃないと困る人だっているだろうし」

「確かにジャンの作るお洋服、私も、大好きよ。でも、ジャンのお洋服大好きな人達も、たまには違う人の所で作ってもらっても良いと思うの。きっと違う、新しい発見があるかもしれない」

「君は、僕なんていくらでも代わりはきくって言いたいの?」

「——そう言う事じゃなくって。私は一緒に居てくれるの、ジャンじゃないと嫌だし。でも、他の人達のために自分が気になっている冒険に出掛けられないなんて、残念だと思わない?」

「仕方ないよ。君たち妖精みたいに気楽じゃないんだよ。人間は。やらないといけない事なんて沢山あるし。気に掛けなきゃいけない人達だって沢山いる。その人達のためにも、一生懸命僕は服を作っているんだから。代わりに僕と同じように仕事をしてくれる人がいれば任せたいけれどね。そんな人ここにはいない。だから僕がやらないと。新しい事は、やってみたくても時間もないし出来ないよ。人間の生活は君が考えるほど単純じゃないよ。君は気楽だから何でもそんなに簡単に言えるんだろうけど」

「そんなの! 新しい事が出来ないのを人のせいにしているだけじゃない! 自分が居ないと世の中が回らないなんて、すごく傲慢な考え方よ! あなたがそこから居なくなって生み出すのは、他の人のチャンスよ! だからあなたはそんな無駄な考え事なんてしていないで、自分の冒険に出掛ければ良いの! 出掛ける勇気がないのを他の人のせいになんかしないで。カッコ悪い」

「別に、冒険に怖気付いている訳じゃない!」

「でも、行かないんだ。いつもの日常に飽き飽きしながら、変わるのが怖いからってしがみ付いているんだわ。ここなら安全だって。まあ、あなたは本気じゃなかったって事。ジャンはいつだって、このお店のように自分を求めて来てくれる人を待っているだけ。それで、ああ、毎日がもっと楽しくなればいいのに。って、文句を言うの」

「僕だって、本気だ! そりゃあ、やってみたいよ、新しい事も。冒険だって、怖くない! 行こうと思えば、行けるさ、いつだって!」

ジャンのその言葉を聞くと、リリーは天井まで飛び上がり、くるりと回って好奇心旺盛な笑顔で言った。

「じゃあ、出掛けよう! 自分の人生を遊ばないなんてつまんない! 一緒に行こう」

ジャンは、騙された、という顔をして小さな声で言った。

「君には敵わないな。分かったよ、行こう。一緒に」

リリーは嬉しそうに無邪気に笑った。

「冒険、楽しみね」

リリーの笑顔につられてジャンも笑った。

「そうだね」

 

——君に出会った時から、僕の運命は確かに変わり始めていたのかもしれない。



「ジャン、これからよろしくね!」『GUILTY & FAIRLY: 罪と妖精の物語 color』(渡邊 薫 著)
全てはある妖精に出会ったことから始まった。
これは、はたして単なる冒険の物語だろうか。

異世界への扉。パラレルワールドに飛び込むことが出来たなら、どうなるのだろう。
自分自身はどう感じ、どう行動していくのだろう。
あるはずがない。
凝り固まった頭では、決して覗くことのできない世界。 https://a.co/9on8mQd
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