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GUILTY&FAIRLY 『蒼(あお) 彼女と描く世界』 著 渡邊 薫    

第八話  冒険への準備

 

「リリーが言っていたのって、この間洋服を注文してくれた、あのオリバーって人だよね」

「そうよ。すごく沢山の資料を持っていたの!」

「変わった服を注文すると思った。きっと森に出掛ける準備だったんだね」

「いつお洋服を取りに来るの?」

「仕上がった連絡も入れているし、そろそろ来る頃だと思うけど」

そう噂話をしていると、店のドアが開いた。

二人は、もしかして。と言う顔でドアの方を見た。

店に入って来たのは、オリバーではなく緑のジャケットを着たウィリアムだった。

「やあ、どうも」

二人は思わず。なんだ、違ったのか。という顔をした。

「また服を注文しに来たよ。とても周りから評判が良くってね。でも、ここの店の服はこれしか持っていなくてずっとこの服になってしまうからね」

ジャンに話しかけ終わるとリリーの方を見て、

「この店の近くに妖精の家があるのかい? 妖精が店の近くに家を作ると繁盛するって言うし、羨ましいね」

ウィリアムはリリーを興味深そうに、じーっと見つめた。

「……それにしても君は珍しい羽をしているね」

「私はリリー。どうぞよろしく」

「やあ、リリー。妖精はよく見かけるけれど、君ほど美しい妖精は初めてだ」

ウィリアムはジャンの方を向いて

「君が羨ましいよ」と言った。

「ははっ。でも、たしかに。リリーが来てから店は前より忙しくなったね。隣の木も短期間でかなり大きくなったし」

リリーは少し恥ずかしそうに俯いて笑った。

「ところで今日はどんなお洋服をご注文でしょうか。……髪型もまた変わりましたね。とても素敵です。髪型に合わせてシンプルな感じにしましょうか?」

「そうだね。君にお任せするよ。君はセンスが良い。いやぁ。それにしてもやっぱり黒髪が落ち着くよ。やっと、店の子が紹介してくれた所に行けて髪も好評なんだ」

鮮やかな緑に染まっていた髪は全て綺麗な黒髪になっていた。

シンプルに短く切られた髪はとてもウィリアムを爽やかに見せた。

リリーは、髪の話をしているウィリアムを見て、前の髪型を思い出してうっかり笑いそうになった。

ジャンは、何気ない会話のフリをしてウィリアムに尋ねた。

「そういえば、あの、この間偶然居合わせた、茶色い髪の、オリバーさんっていう方、ウィリアムさんのお店に最近来られました? ご注文のお品が仕上がったのですが、まだ取りに来られなくって」

「ああ、そういえば、先日沢山の予約注文をいただいたよ。うちのフルーツサンドが好きみたいで注文してその日はコーヒーだけ飲んで帰っていったよ。何やら、今は仕事が大詰めで忙しいと言っていたな。来たのは一昨日だったと思うね。……あんな事があったのにまた来てくれてほっとしているよ」

「……そうですか」

ジャンとリリーは目を合わせた。

ジャンはハッとして、

「ああ、ウィリアムさんはお洋服のご注文でしたよね」と注文用紙に記入し始めた。

「ああ、頼むよ。服のことはよく分からないからね。今回は上下セットで。前回はバラバラに注文して後悔したからね。今回は最初から両方頼むよ」

「わかりました。今回は、シンプルに流行りのグレーとかはどうですか?」

「うーん。あまり着た事がない色だけれど、流行りならそれにしてみようかな。僕は流行りという言葉に弱いからね」

「素敵に仕上げますよ。前と同じで後はお任せの方が宜しかったですか?」

「ああ、頼んだよ」

「また仕上がりましたらご連絡致しますね」

「……あ、そうだ。今回は少し柔らかい素材でお願いしたいな。今着ているのは、カッチリしているから、ちょっと違う雰囲気のも欲しいな」

「わかりました。柔らかく、動きやすいものにしますね」

注文を終えると、ウィリアムは機嫌良く帰って行った。

お店のテーブルに腰を掛けていたリリーは、残念そうに、

「オリバーじゃなかったね」と先程から思っていた事を口にした。

「君、そのオリバーにからかわれただけじゃない?」

二人は、なかなかオリバーが店に来ないので落ち着かなかった。

「とりあえず、私たちだけでも森へ行く準備をしておく? 私もジャンの準備を手伝うわ」

二人は奥の部屋で準備を始めた。 


「ジャン、これからよろしくね!」『GUILTY & FAIRLY: 罪と妖精の物語 color』(渡邊 薫 著)
全てはある妖精に出会ったことから始まった。
これは、はたして単なる冒険の物語だろうか。

異世界への扉。パラレルワールドに飛び込むことが出来たなら、どうなるのだろう。
自分自身はどう感じ、どう行動していくのだろう。
あるはずがない。
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