岩本薫

モノ書き。ひなびた温泉研究所ショチョー、著書「つげ義春が夢見た、ひなびた温泉の甘美な世…

岩本薫

モノ書き。ひなびた温泉研究所ショチョー、著書「つげ義春が夢見た、ひなびた温泉の甘美な世界」「東京休日端っこ散歩」「真夏の温泉」「日本百ひな泉」「ヘンな名湯」シリーズ、「ひなびた温泉パラダイス」「戦国武将が愛した名湯・秘湯」好評発売中!

記事一覧

これも世界の現実

ズシリと重い本だった(あ、重さじゃありませんよ、読後感がです)。 アメリカとメキシコの国境を目指して命懸けの逃避行をする大量の移民たち。でも、誰も自ら望んで移民に…

岩本薫
3か月前

それは「わたし」がつくったのではなく、「何者」かがつくったもの=マックス・エルンストの場合。

マックス・エルンストのコラージュが、他のシュルレアリストのコラージュと比べて突出しているのは、コラージュの制作過程がまったく違うから。 普通は画家の主観に基づい…

岩本薫
3か月前
1

まさかの大統領! えー? 私がですか?!

読み応えがありましたねぇ、この本、「まさかの大統領/ハリー・S・トルーマンと世界を変えた四カ月」。 トルーマン大統領っていうと今でこそ有能な大統領だったっていう…

岩本薫
3か月前

火星人が見た景色

写真は火星探査機「キュリオシティ」が撮影した火星の夕陽。そう、火星から見た夕陽は青い。ということは、察しのよい方ならもうおわかりのように朝日もまた青い。その代わ…

岩本薫
4か月前
2

みんなが“知らなかったマルクス”を知れ!斎藤幸平氏「ゼロからの「資本論」」

トマ・ピケティが「21世紀の資本」で18世紀まで遡って膨大なデータを分析して「資本主義は自然発生的に格差を生み出し、それを広げ続けている」という“事実”を明らかにし…

岩本薫
5か月前

エドワード・ホッパー、『コンパートメントCカー』

エドワード・ホッパー、『コンパートメントCカー』。 ホッパーが憧れた列車のイメージは、風景を一直線に横切っていく列車のイメージだった。永遠に変わらないような車窓の…

岩本薫
9か月前
1

ジャック・デリダ/脱構築

ジャック・デリダっていえば、今や現代思想における難解な哲学者の代表選手みたいになっていて、その著作は膨大。それを読むのは知的興奮に満ちた刺激でありながらも、かな…

岩本薫
9か月前
1

今、現代科学で最もセンセーショナルでぶっ飛んだ心脳論はいつ誕生するのか?

2020年にノーベル物理学賞を受賞したロジャー・ペンローズは物理学界の超スーパースター。ノーベル物理学賞の対象となったのは彼のブラックホールに関する理論研究だったけ…

岩本薫
11か月前
4

坂本龍一の遺作「12」を聴いて

坂本龍一の遺作となった「12」。4月に予約して、ようやく手元に届く。教授が最後の闘病生活の中で日記を書くように音のスケッチを録音したものから12のスケッチを収録。な…

岩本薫
11か月前
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これも世界の現実

ズシリと重い本だった(あ、重さじゃありませんよ、読後感がです)。
アメリカとメキシコの国境を目指して命懸けの逃避行をする大量の移民たち。でも、誰も自ら望んで移民になりたいなんて思う人はいない。「去りたくて去るのではない。暴力と貧困に追い出されるのだ」とは、そんな移民のひとりが放った言葉。暴力といってもそれは耐えるとか耐えられないとか、そういうレベルではなく、一瞬で射殺されるレベル。ギャングや麻薬カ

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それは「わたし」がつくったのではなく、「何者」かがつくったもの=マックス・エルンストの場合。

それは「わたし」がつくったのではなく、「何者」かがつくったもの=マックス・エルンストの場合。

マックス・エルンストのコラージュが、他のシュルレアリストのコラージュと比べて突出しているのは、コラージュの制作過程がまったく違うから。
普通は画家の主観に基づいて幻想的なコラージュがつくられる。つまり「私」がつくっている。
ところがエルンストの場合は、コラージュの素材が「自ら結ばれあって」、それをエルンストが客観的に見ている。つまり、それは「わたし」がつくったのではなく、「何者」かがつくったもの。

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まさかの大統領! えー? 私がですか?!

まさかの大統領! えー? 私がですか?!

読み応えがありましたねぇ、この本、「まさかの大統領/ハリー・S・トルーマンと世界を変えた四カ月」。

トルーマン大統領っていうと今でこそ有能な大統領だったっていう評価がある人だけれども、ルーズベルトが脳卒中で急死したことから、副大統領から繰り上げ式で大統領になったときには、国民の反応は「え? あの人、誰?」って感じだった。そもそもアメリカの副大統領なんて「世界一無駄な職業」と揶揄されるように、大統

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火星人が見た景色

火星人が見た景色

写真は火星探査機「キュリオシティ」が撮影した火星の夕陽。そう、火星から見た夕陽は青い。ということは、察しのよい方ならもうおわかりのように朝日もまた青い。その代わり日中の空の色は青空ではなくて赤味を帯びたクリーム色だ。
火星人。それは科学によってすでにありえない存在にされてしまったけれども、もしも彼らが実在したとしたならば、青い朝日や青い夕陽を美しいと思って、ボクらが地球でそうしているのと同じように

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みんなが“知らなかったマルクス”を知れ!斎藤幸平氏「ゼロからの「資本論」」

みんなが“知らなかったマルクス”を知れ!斎藤幸平氏「ゼロからの「資本論」」

トマ・ピケティが「21世紀の資本」で18世紀まで遡って膨大なデータを分析して「資本主義は自然発生的に格差を生み出し、それを広げ続けている」という“事実”を明らかにして、センセーションを起こしたのは、今から10年前。今ではそれが経済学者じゃなくても、多くの人が「どうも、資本主義のこの世の中の仕組みは行き詰まっているじゃないの?希望が持てないんだよなぁ」っていうことを肌で感じ取っている時代になっちゃっ

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エドワード・ホッパー、『コンパートメントCカー』

エドワード・ホッパー、『コンパートメントCカー』

エドワード・ホッパー、『コンパートメントCカー』。
ホッパーが憧れた列車のイメージは、風景を一直線に横切っていく列車のイメージだった。永遠に変わらないような車窓のありふれた景色は暮れなずみ、やがて夜の闇に包まれようとしている。湿り気を帯びたような鉄のレールの上を一定のリズムを刻みながら重い鉄の車輪がすべるように走っていく。ほとんど空っぽに近い客車の中はすでに沈黙が支配し、ただ一人の女性を乗せて車両

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ジャック・デリダ/脱構築

ジャック・デリダ/脱構築

ジャック・デリダっていえば、今や現代思想における難解な哲学者の代表選手みたいになっていて、その著作は膨大。それを読むのは知的興奮に満ちた刺激でありながらも、かなりしんどくもある。
でも、それもそのはずでデリダは、デリダの伝家の宝刀である脱構築(ディコンストラクション)で現代を片っ端から読み替えているわけで、読み替えゆえにネタは無限にある。つまりゴールなんかないのだから。

そもそも、デリダの脱構築

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今、現代科学で最もセンセーショナルでぶっ飛んだ心脳論はいつ誕生するのか?

今、現代科学で最もセンセーショナルでぶっ飛んだ心脳論はいつ誕生するのか?

2020年にノーベル物理学賞を受賞したロジャー・ペンローズは物理学界の超スーパースター。ノーベル物理学賞の対象となったのは彼のブラックホールに関する理論研究だったけれど、そもそもペンローズが主張しているのは、「人間の心の解明は人工知能研究なんかではできない。量子力学理論が完成しない限り人の心は解明できない」ということだった。あまりの論理の飛躍でほとんどトンデモ説と紙一重だけど、それを主張しているの

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坂本龍一の遺作「12」を聴いて

坂本龍一の遺作「12」を聴いて

坂本龍一の遺作となった「12」。4月に予約して、ようやく手元に届く。教授が最後の闘病生活の中で日記を書くように音のスケッチを録音したものから12のスケッチを収録。なにも施さずあえてそのままを提示したとのこと。そこに、なにかをつくろうという意識もなく、ただ「音」を浴びたかった。そうすることで体と心のダメージが少しだけ癒やされる気がした。そんなことから何の気なしにはじめた音のスケッチ。
そんなアルバム

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