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坂本龍一の遺作「12」を聴いて

坂本龍一の遺作となった「12」。4月に予約して、ようやく手元に届く。教授が最後の闘病生活の中で日記を書くように音のスケッチを録音したものから12のスケッチを収録。なにも施さずあえてそのままを提示したとのこと。そこに、なにかをつくろうという意識もなく、ただ「音」を浴びたかった。そうすることで体と心のダメージが少しだけ癒やされる気がした。そんなことから何の気なしにはじめた音のスケッチ。
そんなアルバムなのだから、なにも考えず、それが教授のアルバムであるということさえも忘れて心を無にして聴いてみようと、聴いてみたけれど、いやぁ、凡人のボクには心を無にするなんて1秒もできない。頭の中はどこまでも雑念の大海原なのだから。今日はこのアルバムを繰り返し繰り返し聴きながら原稿を書いていたのですが(アンビエントなテイストなので飽きないわけで……)、なんていうか、逆に雑念の中に音が染み渡っていくような感じでそれがとてもいい。
思えばこの十二の音のスケッチは譜面に起こされたものでもなく、そのときそのときの気分で即興で演奏されたインプロビゼーションだったりする。しかもそれはジャズとかのインプロビゼーションのように、ベースになるナンバーから立ち上がるインプロビゼーションではない。なにもない無から浮かび上がって無に帰していく静謐なインプロビゼーション。楽曲をつくるという意識もなく、ピアノやシンセサイザーの鍵盤から、思うままに感じるままに解き放たれるのは、音楽と音楽じゃないものの間に漂う、まさしく教授の音楽的リビドーなのでしょうね。音楽の滋味のようなものが心に染み込んで広がっていくような、美しいアルバムでした。
静謐な、あまりに静謐な12のインプロビゼーション。イヤホンなんかじゃなく、音の余韻までも聴き取れるボリュームで、空間に解き放つような感じで聴くのがオススメです。

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