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大場一央の「儒学者」講義が面白かった

大場一央さんの「儒学者」講義を、きのうはダラダラ聞いていた。


新聞連載こぼればなし【日本の道統】(陽明書院 2021/10/5〜2022/5/31)


YouTubeにアップされたのが3年前で、決して新しい素材ではないけれど。

でも、再生回数を見ると、平均数百回といったところ。あまり見られていないのはもったいないと思った。


大場一央さんのことは、少し前にnoteに書いた、浜崎洋介さんらとの鼎談で、初めて知った。

1979年生まれの儒学者(中国思想、日本思想専攻)。早稲田大学院で文学博士号取得。現在、早稲田、国士舘、國學院などで非常勤講師を務めている。


面白い人だと思った。わたしなんかがエラソーに言うことはないが、もっと有名になっていい人だ。

昨年、東洋経済新報社から著書『武器としての中国思想』を出している。これから売り出していく感じかな。


この一連の動画は、産経新聞の「日本の道統」という連載と連動したものだったらしい。

しかし、新聞記事とのリンクは、もう切れている。

YouTubeの動画だけでも、概要は分かるようになっている。


全32回。1回10分程度で、以下の人たちが取り上げられている。


藤原惺窩
林羅山
中江藤樹
保科正之
山鹿素行
伊藤仁斎
貝原益軒
徳川光圀
安積澹泊
新井白石
山本常朝
荻生徂徠
栗山潜鋒・三宅観瀾(前・後編)
細井平洲
上杉鷹山
松平定信
広瀬淡窓
藤田幽谷
会沢正志斎
徳川斉昭
藤田東湖
安井息軒
横井小楠
佐久間象山
橋本左内
川路聖謨
真木和泉
吉田松陰
島 義勇
西郷隆盛


儒学は、戦後のリベラル空間のなかでは、反動主義・封建主義の象徴で、親のカタキみたいなものだったから、学校でちゃんと教わっていない。

それだけに、新鮮だった。

(儒学は、今どきの右翼からも、しょせん中国ルーツの思想と敬遠され、国学とかの方が重視されるかもしれん)


それに、この大場さんの講義内容は、通り一遍の教科書的概説ではなく、かなり刺激的だ。

褒めるべきは褒めるが、貶すべきは貶すという態度で、偉人・有名人だからといって容赦ない。とくに横井小楠などは、「思想がない出世主義者」と一刀両断していてる。


今では古臭い思想の代表のようになっている儒教・儒学だが、「学問」と「修養(人格形成・日常倫理)」を一致させるという基本姿勢はとても重要で、現在の学問文化からほぼ失われたものと言っていい。

また儒学者は、道徳ばかりを説いていたと思われがちだが、同時に政治学者であり、軍事専門家であり、西洋の知見も使えるものは使える科学技術者でもあった。

彼らが江戸期に、日本文化を全般的に支え、底上げしてくれたから、明治以降の近代化がうまくいった。それがよく分かる講義である。


もちろん、浜崎洋介さんらとの鼎談で示されたような、近代化で失われた日本の古層を掘り起こそうという、保守主義のメッセージも、そこにはある。

たとえば儒学では、「人倫」つまり、君臣や上司部下や親子や夫婦などが、それぞれの「役割」「身分」を忠実に果たすことが倫理の基本だった。

今の「自由すぎる」社会で、そうした倫理の復活が必要だと思う人は多いかもしれない。


しかし、たとえば、女性の立場はどうなるのか。

この儒学者列伝のなかに女性はいない。

女性の地位が向上したのは「近代化」以降であって、儒学のなかに、現代のジェンダー問題を位置付ける余地はないように思える。

そういう現代的問題に、儒学がどう答えられるのかが、いちばん興味あるところだが、その答えは残念ながら、この講義のなかにはない。


とはいえ、入門としてはとても勉強になった。


刺激的な内容ながら、大場さんの話し方が落ち着きすぎていて(江戸の儒学者はこんなふうに講義した?)、連続して聞いてると、何度も睡魔に襲われた。

退屈というんじゃないけど、なんか心地よくて。催眠作用がある。


儒学は、エリートの学問というだけでなく、江戸の庶民にも説かれた。

庶民には、受験戦争がなかったから、わたしのようにうつらうつら先生の話を聞いてた者もいただろう。

江戸の春風駘蕩に触れている感じ。寺子屋で学んでいる江戸の小僧になった気分だった。


<6月16日追記>

大場氏の産経連載「日本の道統」に関わったという方から、noteを通じてご連絡いただき、大場氏の連載は現在も以下で読めるとのことでした(ただし有料)。

ご連絡いただき、ありがとうございました。



<参考>


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