見出し画像

「五体不満足」VS「永遠のゼロ」 東京15区の作家対決

きょう告示される東京15区補選は、私のような元出版人からは、2人の大ベストセラー作家の対決でもある。

『五体不満足』乙武洋匡 VS 『永遠のゼロ』百田尚樹(日本保守党)、ですね。

どちらも、平成時代を代表する大ベストセラーです。

『五体不満足』は約600万部、『永遠のゼロ』は約550万部超。

部数もほぼ同じ。

どちらも思い出深い。



とくに『五体不満足』。

出たのは1998年。

もうみんな忘れたかもしれないけど、1998年は、日本にとって最低の年でした。

「1998年不況」と言ってね。


98年の日本経済は、まさに「日本列島総不況」というほど厳しいものであった。 そのかつてない厳しさは、失業と倒産の状況に集約される。 すなわち、98年の雇用情勢は、完全失業率が全地域で一様に過去最悪の水準(全国4.1%)に達し、有効求人倍率も過去最低の水準(0.53倍)を記録した。
また、企業倒産は、件数で18,988件と戦後3番目を記録し、負債総額でも13兆7,500億円と戦後2番目の記録となった。
(平成11年内閣府レポート)


バブル崩壊後の経済の悪化が、この1998年に一段と深化した。97年に消費税の値上げ(3%→5%)があり、不況が98年から家計部門に反映して、一般庶民の可処分所得激減、貯蓄の取り崩しが始まる。

https://www.dir.co.jp/report/research/economics/japan/20130603_007218.pdf

いわゆる「デフレ・スパイラル」の入口とされた年です。

日本はどんどん落ちていく。どこまで落ちていくかわからない。

そういう実感を持った年でした。

実際、この年あたりを境に、わが出版業界も、また新聞業界も、売り上げがマイナスに転じた。出版不況の始まりです。


そういう、どうしようもなく暗い気分の年に出たのが『五体不満足』でした。

なんというか、励まされたんだよなあ。

どん底気分の日本人は、あの本によって、まだ頑張れるかも、と思った。救いになった。

あの年に、あの本が出たことが、まさに奇跡のように思えました。



あれから26年。

きのう、乙武さんの街頭演説をネットで見ていたんだけど、あのときの感動がよみがえることはなかった。

彼を輝かせていた「背景」が変わった。

そう思いましたね。

ちょっと時間がたちすぎてしまった。



そして、その横には、小池百合子東京都知事がいた。

『五体不満足』が出たころ、小池は小沢一郎の側近だった。


彼女はいつも、「清新さ」をアピールするのがうまい。

横文字を多用するのも、その一環ですね。


「汚いもの」「古いもの」にたいして、彼女はつねに「きれい」で「新しい」イメージの側に回る。

最初は日本新党の細川護熙の側近、次は小沢の側近、そのあとは小泉純一郎の側近。

それが結局、その時点での「最大権力」を得る手段になっていた。


彼女には、つねに背景に「古いもの」「汚いもの」が必要なんですね。

もともと、政策とか思想とかはあまり関係ない。

いま、自民党が裏金問題で「古い」「汚い」イメージに陥っている。

チャンスだ、と思ったのではないか。

この背景を利用すれば、得意の「清新さ」をアピールして、最高権力にリーチできる、と。




15区で噂された彼女自身の出馬はなかったが、乙武推薦にも、いつもの手法を感じます。

乙武と組めば、自民党の金権腐敗と対照的な「清新」イメージが演出できると思ったのでしょう。

だが、どうも誤算でしたね。


乙武も小池も、「背景」の効果で浮かび上がる、そんなキャラだったんじゃないでしょうか。

背景が暗いほど、輝きが増す。


でも、いつの間にか、彼ら自身が「背景」になってしまった。

そんな気がしたんですね。

もう、小池と乙武の組み合わせに、だれも「清新さ」を感じないのではないでしょうか。



でも、その意味では、他のどの15区の候補者にも、それほど「清新さ」は感じない。

まだ、すべての候補者をちゃんと研究しておりませんが。


『永遠のゼロ』のほうに関して言えばーー百田はともかく、飯山陽はちょっと面白いし、まだ新鮮さがありますね。

『永遠のゼロ』についての思い出は、以前に「百田パージ」という記事で書きました。


百田尚樹は、朝日・毎日のような主流メディアにさからったので、見せしめとして表舞台からパージされた。そして、SNSで取り巻きに囲まれて、引きこもっている、みたいなことを、その記事では書きました。

日本保守党結成によって、百田がその「引きこもり」状態から脱したのは確かです。

その声が「取り巻き」を超えて、一般国民に届くかどうか、この選挙が試金石になるでしょう。



<参考>



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?