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【Netflix】「キング・オブ・クローン」 先進国で禁じられたクローン技術が倫理に甘い国で発展している

<概要>

韓国製のNetflixオリジナルドキュメンタリー。

世界を揺るがせた画期的なヒトのクローン研究から、スキャンダルによる失脚まで。悪名高い韓国の科学者に焦点をあてた、思わず引き込まれるドキュメンタリー。(Netflix公式サイトより)


<感想>


面白いドキュメンタリーだが、科学的な視点と正確さに疑問がある。

専門家の批評を聞きたいところだ。

以下は、素人の私の意見。



長年、可愛がっていたペットが死んだ?

悲しむことはない。必要なのは、ペットの細胞を適切に保管しておくこと。

あとは、ファン・ウソク(黃禹錫)博士に頼めばいい。

死んだペットのクローンを作ってくれる。


1990年代後半から2000年代にかけての「クローン」ブームを覚えているだろうか。

「羊のドリー」をどれだけの人が覚えているだろうか(私もこのドキュメンタリーを見るまで忘れていた)。

若い人では、そもそも知らない人もいるかもしれない。


先端科学の話題は、その後「仮想現実」だの「AI」だのに移っていったが、「クローン」にはそれら以上のインパクトがあった。

車椅子の人を立ち上がらせ、あらゆる難病を治し、もしかして人間に不死の能力をもたらすかもしれないと思われた。


ソウル大学教授、ファン・ウソク博士は、そのブームの立役者の1人だった。

Wikipediaにこう書かれている。


2004年2月に体細胞由来のヒトクローン胚から胚性幹細胞(ES細胞)を作製することに世界で初めて成功したと発表した(サイエンス誌2004年3月12日号・電子版同年2月12日付)。それまでヒツジ(ドリー)、ウシなどの哺乳類においては体細胞由来クローン技術はある程度確立されていた。しかし、ヒトはおろか、サルなどの霊長類においてすら体細胞由来クローンの成功例はなく、世界中の生物学会を驚愕させた。


これまで動物でしか成功していなかったクローン技術を、初めて人間(の細胞)で成功させた。

もともとは獣医学者だが、韓国初のノーベル医学賞は間違いなしと思われた。

彼は繰り返し、脊髄損傷などで歩けなくなった人を、車椅子から立ち上がらせるのが自分の目的だ、と語った。

「立って、歩きなさい」という聖書のキリストのごとく。クリスチャンが多い韓国人の心に響いた。世界中の障害を持つ人が彼に期待した。その中には、事故で全身マヒになったスーパーマン俳優のクリストファー・リーブもいた。

2005年、上記論文などを記念して、韓国では記念切手まで発行された。その絵柄は、車椅子の人が立ち上がって歩き出すというものだった。

ちょうど韓国がサッカー・W杯を成功させ、世界の先進国へと躍り出たところだった。ドキュメンタリーでの言葉を借りれば「いまでいえばBTSのような」国家的英雄となった。


だが2005年、韓国の放送局MBCなどが研究の不正を暴き、英雄は一気に「科学の裏切り者」へと転落する。

博士は、卵子を提供者の同意のもと入手したと言っていたが、実際にはカネに困った女性などからブローカーを通じて不正に入手し、かつ実験データを捏造していた。

博士の助手のタレコミから始まる、そのスャンダルはドラマチックで、パク・ヘイル主演の「提報者 ES細胞捏造事件」(2015)という映画になった。


「提報者 ES細胞捏造事件」予告編


大ヒットしたから、映画を観た人は多いだろう(私も観た)。

世論に逆らい、国策に逆らい、真実を暴くーー韓国のマスコミ、ジャーナリストがひたすらカッコいい映画である。

映画でファン・ウソク博士(映画の中では別名)は、いかにも名声欲にとりつかれた悪人に描かれていた。


しかし、博士のES細胞はすべて捏造だったのか。そうではなく、博士は(部分的であれ)成功していた、と見られていると思う。


このドキュメンタリーは、そのスキャンダルを振り返るとともに、ソウル大学を懲戒解雇されたファン・ウソク博士は、その後どうしているのかを描いていく。

1952年生まれの博士は、70代に差し掛かったところだが、とても若々しく見える。

博士は、アラブ首長国連邦の豪華な研究所でラクダのクローンを作り、ロシアでマンモスのクローン作成プロジェクトのリーダーとなり、中国のクローン工場建設にかかわり、世界中からの「ペットのクローンを作ってくれ」というリクエストに応えている。

今も引っ張りだこなのである。

実際に、死んだペットの細胞からクローン犬を博士に作ってもらい、クローン犬と幸福に暮らしている男性が登場する。

このドキュメンタリーでの博士は、映画のような悪人には見えないが、やはり独特の陰を感じさせる人物だ。まあ、リアルなフランケンシュタイン博士である。


クローン・ブームのとき、科学倫理でうるさいことを言っていたのはアメリカ、日本などの先進国だった。

「神の領域に踏み込むな」

などと。

しかし、世界にはそんなこと気にしない国もあり、気にしない金持ちもいる。(あるいは別の倫理観を持っている、というべきか)

クローン技術では、倫理にうるさい先進国は、うるさくない国や人たちに抜かれちゃうんじゃないかな。

というのが、このドキュメンタリーを見た率直な感想でした。


2005年のファン・ウソク博士の失墜の直後、2007年に日本の山中伸弥氏らがiPS細胞技術を発表する。

その後、ご承知のように山中氏らはノーベル賞をとる。韓国人にとっては屈辱的な展開だったかもしれない。

再生医療の主役は、クローンから、山中伸弥氏らのiPSに移った、と日本人は思っていると思う。

クローンは科学的にiPSで乗り越えられた、と教わった気がする。

しかし、この韓国製のドキュメンタリーには、iPSの話は一切出てこない。


いま山中氏らiPS財団の寄付金集めのビデオを見ると、かつてのファン・ウソク博士同様、車椅子の人が立ち上がるイメージを使っていた。2030年までにはiPSを実用化したい、と言っている。

韓国人に言わせれば、実際に立ち上がらせたところを見ないと信じない、ということかもしれない。

日本では、山中氏がノーベル賞を取った後、2014年に、iPSより有用に見えるSTAP細胞が発見された、と思ったら違ってた例の騒動があった。

そして、2018年には、山中氏の研究所で論文不正が見つかって山中氏も処分された。2000年代にファン・ウソク博士がさらされた「早く実績をあげねば」というプレッシャーを、山中氏も浴びているのかもしれない。


いずれにせよ、クローン以降の細胞科学の発展の話は、このドキュメンタリーには出てこない。

あたかも再生科学の道はクローン技術だけで、その障害は「倫理」だけ、と言っているようだ。

再生医療の希望は、いまだにファン・ウソク博士が握っている、と思わせるような語り口なので、韓国人はまだ諦めてないんだな、と感じた。


多くの人が気になるのは、やはり死んだペットの細胞を使ったクローン犬の話ではないか。

実際にファン・ウソク博士は、ペットのクローンを作るビジネスをおこなっている。

そして、ペットのクローンができるなら、人間だってーーとスティーブン・キングの「ペット・セマタリー」のように連想する人は多いだろう。


クローン人間を作ることは、日本などG7では法律で禁じられている(と思う)。

「クローン技術に反対する人は、神の領域を侵すなと言うが、クローン技術はすでに神の領域ではない」

とファン・ウソク博士は言う。

言わんとしているのは、

「できるんだから、やるしかない」

であろう、と思われる。

マジでフランケンシュタイン博士である。

中国はすでにクローン猿の製造に成功しているが、クローン人間製造にも取りかかっているだろう。

というか、すでにクローン人間はいるかもしれない。

アラブ首長国連邦の王族が、豪華な研究所に博士を迎えたのは、ラクダの再生だけが目的ではないだろう、とどうしても思えてしまう。


ファン・ウソク博士は、

「私の見方では、生物は細胞が複製できなくなったとき死を迎える」

と言う。

つまり、細胞が複製される限り、我々は生きつづけられる。


これから死んでいく我々は、

「自分の死体を火葬させるべきではないのではないか。細胞を保存しておくべきではないか」

とか考えざるを得ない。

気になっている人は多いと思う。


クローンのあなたは、あなたの記憶を受け継ぐわけではないし、外見上もあなたとまったく同じというわけではないが、他人から見れば、ほぼ「あなた」である。

そんな形でもいいから永遠に生きたいというなら、あなたもファン・ウソク博士に連絡すればいいと思う。

ただし、倫理についてうるさく言わないこと、卵子の入手経路は詮索しないこと、マスコミにたれ込んだりしないことが条件になるだろう。

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