洗脳の罠
私は元々大雑把で、隅々まで片付けることはしない。
それを時間と労力の無駄だだと思っていた。
虫が大嫌いだから、食べ物や飲み物については完璧に綺麗にしなければ気が済まないが、洋服やバッグなどは特に仕分けもしていないしソックスなんかは畳まずに引き出しに放り込んだりしていた。
私は引っ越しや出張、旅行などで月に数回スーツケースを使っていたのだが、毎回持っていくものなどは入れっぱなしで、引っ越しに使った際は今使わないと判断したものなどは入れっぱなしにしていた。
ある日彼が私に、スマホのバッテリー(当時は長時間外出する時は何個か充電済みのバッテリーを持ち歩いていた)はどこにあるかとテキストを送ってきた。
私は学校にいてすぐに帰れなかったため
”たぶん私のスーツケースの中にあるとから探してみて”
とテキストした。
そして帰宅すると、彼が私の元彼の写真を床に置いて待っていた。
私はまずいと思ったが、自分でもどこに置いたか忘れていたのだ。
彼は無表情で
”なぜ君はまだ元彼の写真を大事そうに持っている?”
と聞いた。
”引っ越しや旅行や出張でどこに置いたかすら忘れてただけで、大事にしてたわけじゃない。”
彼は私と元彼のことを疑っていた。
私はそのことに薄々気がついていたが、彼と暮らし始めてからやましいことは一切なかったから何も私にできることはなかった。
そして彼は
”じゃあ写真は捨てておくね”
そう言った。
私は
”オッケー”
と言ったが、内心どうしてあなたが私の私物を勝手に捨てるのだと腹がたった。
これはお門違いなのかもしれないが、この時はすでに私は何か彼に支配されているような、彼が私をコントロールしたがっているような気がして、彼に全てを見せたくないような気がしていた。
彼はそこにあった写真を全てごみ箱に捨てた。
でもその写真は、元彼の写真も混じっているが景色だけの写真や私だけや私と友達(親友も含め)の写真もあったのだ。
私はもやもやしていたが、もし私があの時何か言えば、どうせ元彼の話になり、絶対彼がまた自分の意見を通してくるのは目に見えていた。
私は彼が翌朝出かけた後、ゴミ箱に入れられた写真を自分でチェックしているものだけ残しておこうと思い、その日は何も言わずにやり過ごした。
翌朝起きると彼はすでに仕事に行っていた。
私はゴミ箱をチェックしにいき、急いでその写真が入っているファイルを自分のカバンに入れて学校に行った。
彼にゴミ箱からそのファイルだけ持ち出したことがバレると厄介だから、家中の他のゴミもまとめてアパートの共用のゴミに出してから出かけた。
そして、その日はカフェで必要な写真以外は駅周辺のゴミ箱に捨てた。
選び出した写真には元彼が写っているものもあった。
私たちには共通の友達が多くいたためグループで撮った写真も多かったのだ。
日本人ではない彼に、たくさんの日本人が小さく写っている写真など見たところでその中に私の元彼が写っているなどとわからないだろうと思っていた。
元彼はこちらに来た時初めの頃に知り合った日本人で、連絡は取らないけれど、私にとっては別れた後は同志のような存在だった。
私にとっては、最初にこの国に来たとき日本人の知り合いもほとんどいなくて、言葉もあまり話せなかったため孤独な時期を過ごしたこともあった。
そんな中で仕事もしなければならず、辛い時期もあったが、知り合いや友達が少しずつできて、皆それぞれ寂しかったり苦労ししていたり。。
私にとっては現地でできた日本人の友人たちが家族のようなものだった。
元彼もその中の一人だった。
だから何も知らない彼に、その写真を簡単に全部捨てられたことはかなりショックだった。
もちろん彼の気持ちも分かる、元彼との写真をいまだに持っているなんて傷ついただろう。
でも私は彼を見ていて、彼は傷ついてるように見えなかった。
彼はただ私をコントロールするために、他の人と絶縁させたいように見え始めていた。
彼には悲しみはない。
彼の中には怒りしかない。
そして、彼は私のしたことに気づき、いや初めから私の行動を把握していたのだと思う。
支配を強めるために仕込んだのではないかと思っている。
なぜならスマホのバッテリーはスーツケースに残されたままだった。
そしてこの写真のことで、少しずつ彼の狂気が見え始める。
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