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問わず語り

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私の作品集です。見ていただけると、とても嬉しいです。
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#掌編小説

熱気球の思い出。【400字掌編】

熱気球の思い出。【400字掌編】

日本広しと言えど、気球を飛ばす事ができる「フライトエリア」は実は少ない。航空局に連絡をして、フライトする近くの空港に飛行通報書を届け出て、田んぼ一枚分の障害物の無い場所が必要になる。

佐賀県に生まれた僕は幸運だった。

気球のイベントがたくさんあるのだ。

国際競技でもあるインターナショナルバルーンフェスタでは乗ることはできないが、別のイベントで一度乗せて貰った事がある。

その時に一番記憶に残

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漫才師「あーだこーだ」【ショートショート】

漫才師「あーだこーだ」【ショートショート】

相田:「ど~も~!あいだです!」

向田:「こうだです!」

2人:「2人合わせてあーだこーだです!」

相田:「今日もワチャワチャやって行きたいと思います~」

向田:「なんやかんややって行きたいと思います~」

相田:「どーにかこーにかやって行きたいと思います~」

向田:「ワイワイガヤガヤやって行きたいと思います~」

相田:「……」

向田:「?」

「おい、次お前の番だぞっ」

「あーだ

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千年の色。【ショートショート】

千年の色。【ショートショート】

ある時、世界中の色をすべて混ぜた果てが見たいと願った人がいた。

みんな馬鹿だと罵った。

けれどもその人諦めず、ツボに絵の具をぶちまけた。

混ぜて混ぜて混ぜ続けたら、果たしてどんな色になるのかな。

まわりの人はそれはもう笑った。

だけど本人は笑わなかった。

その人があまりにも馬鹿だったので、その人の事は町中に知れ渡った。

そしたら、もう1人馬鹿な人がいた。

馬鹿な人は馬鹿な人を手伝い

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七五三の色節に。【397字掌編】

七五三の色節に。【397字掌編】

千歳飴が江戸時代、現在の東京浅草にて飴売り七兵衛が流行らせた「千年飴」から始まった記録は残っているが、千年飴を最初に食べたのは、実は鬼であったことは歴史から抹消されている。

七兵衛は当時貧乏長屋に住んでおり、その日暮らしの日銭を飴売りで稼ぐ日々であった。貧乏神と鬼と共に住んでいた。

11月15日、七兵衛は日銭がいつもの二倍稼げて上機嫌だった。反対に鬼はどうも気分が沈む一日で嘆いていた。百歳にな

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日記の影。【ショートショート】

日記の影。【ショートショート】

noteがサービスを始めて、31年が経った。

noteの1周年の日。父がアカウントを作った。

私が生まれたその日から始められたnoteは、父と母の育児日誌として産声を上げた。

最初の投稿は父の「むすめがうまらた!」だった。テンションがおかしくなった上で誤字をして始まった。

父と母は几帳面な性格で、事細かに私がその日何をしたかの一切を詳細に記事に書き続けた。連続投稿10年の偉業を成し遂げた父

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不届きもの連合。【自信作・ショートショート】

不届きもの連合。【自信作・ショートショート】

やあ。ここに辿り着いたという事は、何か届かぬ思いに手を伸ばす気概溢れる人物だと判断するよ。

君にも何かあるんだね。届けと願う事が。

ようこそ。ここは「不届きもの連合」。

君を歓迎する。

まず連合の説明からしようか。

と、言ってもな。さっき説明した以上の事は無い。

ただ、手を伸ばすもの達の集いさ。手段を選ばずね。

対象は様々だけどね。

しきたりや理をあまりにもみんな無視しているからね

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両替。【ショートショート】

両替。【ショートショート】

え?両替ですか?

はぁ。まあここは確かにお店ですけど。

特別屋とでもいいますか。はい。

なので両替はちょっと難しいかもしれませんな。

10000円を1000円に崩してくれ?

いやぁ、お客様それは難しいですよ。

なにせお客様の10000円と私のお店の1000円とでは価値が違うのです。両替になりません。

例えばこちらの1000円は、財布を落とした方が交番で借りた1000円です。家に帰るま

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自画自賛。【空想親睦会】

自画自賛。【空想親睦会】

知っているか?人は権威に弱い。なにせ箔が付くし、あぁこの人は世間に認められたんだ。という分かりやすいスタンプマークであるので、安心感があるのだ。

その人が努力して辿り着いた局地の到達点でもあるから、当然眩しく映る。生きた証と言えるだろう。

後は…そうだな。肩書も同じだな。その人の生き様をわかりやすくした表現、とでも呼ぼうか。君もそう思うだろう?

あぁ、とても分かるとも。額縁、と表現できるかも

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ダレデモダレカ。【ショートショート】

ダレデモダレカ。【ショートショート】

あーもしもし。もしもし。聴こえますか?

周波数あってる?

この放送誰かに届いてるかな。まぁ別にいいか。届いても届かなくても。届く時は届くし、届かない時は届かない。そんなもんさ。でも届いた方が嬉しいのは確かだね。届いてたらいいなぁ。

まぁ、気にせず始めちゃおう。

誰かの為の誰かを紹介するラジオ番組!!

ダレデモダレカ~!!始まるよー!

この番組は誰かの提供でお送りします。

さぁ、今日は

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お茶会。【空想親睦会】

ティーさん(以下T)「ミルクティーとロイヤルミルクティーの違いって結局の所牛乳に依存するのよね」

T「ロイヤルも牛乳の方に掛かっちゃってるわけよ!ロイヤルティーじゃないの。結局ミルク!!」

ミルクさん(以下M)「もー。いきなり手厳しいなぁ」コーヒーさん(以下C)「あぁ~でもわかるなぁ!」

C「カフェオレもミルクの手柄みたいなとこあるもんね。コーヒーがミルクのおかげでカフェオレに名前変わったよ

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1000の時。【ショートショート】

1000の時。【ショートショート】

「なんですかソレ?」

先輩から発せられた聞きなれない単語に思わず聞き返す。

「1000の時を知っているか?」

先輩は大真面目な顔をして私に繰り返した。私の訝しげな表情で知らない事を察すると、一呼吸置いた後に説明を始めた。

「09月30日から10月01日に変わる瞬間に日記帳を開くと、到達できると言われている時だ」

毎年1度、その瞬間にしかチャンスがない。先輩は重苦しい表情のまま私に続ける。

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閉店場所千秋楽。【ショートショート】

閉店場所千秋楽。【ショートショート】

「のこった!のこったのこった!!」

この相撲が通常と違う点は、土俵から出た方が勝ちで、残っている方が負けという点にある。

負けた者にはレッテルが貼られる。

最初は10と数字の書かれたレッテルは、今や50にまで膨らんでいた。50%offと書かれた、屈辱のラベル。

自分に全く価値がないと言われているようで、全く陰鬱な気分になる。

申し遅れた。私は缶のペンケースだ。

税込56円の缶のペンケー

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蓋もある実の話。【ショートショート】

蓋もある実の話。【ショートショート】

なんのとりとめも無い我らの町に、唯一のランドマークとしてそびえ立つ木があった。

樹齢800年を越えると言われるその木は、町の真ん中にある広場に堂々と生えていて、なにしろ目立つのでよく待ち合わせ場所として活用された。

いつしかその木は、「約束の木」と呼ばれるようになった。

町興しの一環で約束の木をモデルにした「ヤッキー」と名を冠されたゆるキャラが誕生し、その絶妙に間の抜けた顔で一時期だけ人気キ

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読みごし、極上。【架空インタビュー】

その争いは、とあるラーメン店で起きた。

「ソラシドラーメン」店主、宍戸 空(シシド ソラ)さんが証人だ。

今日は宜しくお願い致します。

「おぉ、なんでも聞いてくれなー!」

さっそくですが、当日の様子から。

「その日も常連客が多かったが、一組だけ新規の連中がいたな。速さ同好会と本人達は言うとった」

ーー速さ同好会。

「あぁ、私も気になったんで聞いてみたよ。なんだいそりゃあ、と。速さを

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