見出し画像

胸の働き 言葉の働き

人に出会ひ候時は、その人の気質を早く呑み込み、それぞれに応じて会釈えしゃくあるべき事なり。その内、かた強勢ごうせいの人には随分折れて取り合ひ、かど立たぬ様にして、あいだに相手になる上手うはての理をもって言ひ伏せ、その後は少しも遺恨いこんを残さぬやうにあるべし。これは胸の働き、ことばの働きなり。

葉隠 聞書第二 四

 人と話をする場合、まずじっくりと相手の話に耳を傾けることである。
 感情的にならずに言い分を聞いているうちに、論理の矛盾点も見えてくるし、相手の自尊心を傷つけることのない対応も思いつくものである。


 理屈を振り回して押しまくってくれば、まず柳に風と受け流し、頃合を見計って、相手を立てながらも論理の矛盾を一つ一つ投げかけていくと、それまでの気勢はおのずとがれるはずである。相手の呼吸が乱れたところで礼を失しないように気を配りつつ、こちらの意見をやおら述べていくと、案外納得してもらえるものだ。


 人は自分の意見を十分に聞いてもらえたと思うとき、相手に対して好感を抱く。したがって、このような対応を心がけていけば、後々遺恨を残すようなことはないはずである。


 このへんの呼吸は一朝一夕に身に付くものではないが、日頃から平常心を練り、謙虚に相手に接することを心がけ、時と場所、相手によって適切な表現が自在にできるように、言葉数を豊富にしておくとともに、言い回しの工夫も心がけておくことが大切である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?