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アニメレビューなどなど集

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今まで書いたアニメのレビューなどなど。
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『アリスとテレスのまぼろし工場』感想~「生の実感」はどこにあるか?~

『アリスとテレスのまぼろし工場』感想~「生の実感」はどこにあるか?~

※ 核心に触れるネタバレは避けていますが、本筋への言及はあります。

 『アリスとテレスのまぼろし工場』を見ました。間違いなく面白かったのですが、同時に非常に複雑な作品でもあったと思います(この感想もどう順序立てて書いたらよいものかを思案しながら書き始めています)。

 岡田磨里さんが監督・脚本を務めるのは2018年の『さよならの朝に約束の花をかざろう』以来。もともと『あの花』等の脚本で著名な方で

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『すずめの戸締まり』感想 ~日本という「くに」、その忘却と葬送~

『すずめの戸締まり』感想 ~日本という「くに」、その忘却と葬送~

 新海誠監督約3年ぶりの作品となった『すずめの戸締まり』。2022年11月11日の公開以来、100億円以上の興行収入となった前作『天気の子』に見劣りしないペースで数字を伸ばしており、紛うことなき大ヒット作品となっている。

 同監督の直近2作と比較するに、本作の特徴としてまず挙げられるのは、「災害」の描写がより前景化していることであろう。『君の名は。』では隕石の墜落が、『天気の子』では終わらない降

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『リコリス・リコイル』雑感 ~理不尽は人間の顔をしている~

 『リコリス・リコイル』を最終回まで見ました。めちゃくちゃ面白かったですね。

 最初は話題になっているという理由だけで軽い気持ちで見ていたのですが、中盤以降に入りますと一転非常に骨太なストーリーに。いろいろ考えさせられながら、いつのまにか毎週気合を入れて視聴するようになっていました。そのテンションのままの感想文です。

1.「リコリスという環境」の風景化 何から書いていいものか迷うところではある

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『輪るピングドラム』雑感 ~自己実現、自己犠牲、入替可能性~

1. どのようにしたら、愛されない子どもは救われるのだろうか?
 『輪るピングドラム』TV版を全話見ました。

 一言で感想を言うならば、めちゃくちゃ難しかったです。終盤にかけて激しくなっていく、現実世界と幻想世界の描写の入れ替わり。りんごの果実をはじめ、様々な事物で示されるメタファー。一つ一つの描写を解き明かし、作り手が言わんとしていることを読み取るのは本当に骨の折れる作業でしょう。少なくとも私

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『竜とそばかすの姫』感想 ~すずのライブに潜む「大衆」の陥穽~

『竜とそばかすの姫』感想 ~すずのライブに潜む「大衆」の陥穽~

 『竜とそばかすの姫』を遅ればせながら見てきました。非常によかったです!!!

 細田守作品というと『時をかける少女』、『サマーウォーズ』、あと(これを細田守作品と呼んでいいのかわからないものの)『劇場版デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』くらいしか見たことがなかったのですが、その3作品よりも個人的には強い印象を持ちました。

 より具体的に言うならば、「爽快さ」、そしていい意味での「

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『Vivy -Fluorite Eye's Song-』感想 ~「在るから、在っていい」ということ~

『Vivy -Fluorite Eye's Song-』感想 ~「在るから、在っていい」ということ~

 最近動画コンテンツを見ること自体をサボっていたのですが、そんな自分をひっぱたいてくるようなアニメ作品に出会いました。2021年春アニメ、『Vivy -Fluorite Eye's Song-』です。

 もともと完全にリサーチ範囲外で、「へ~リゼロの長月先生が脚本なんだ、すごいな~」みたいな印象しかなかったんですが、聞いていると最終回放映後の評判がめちゃめちゃいい。

 そして6月30日に本作の

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シンエヴァ感想に対する感想 ~エヴァが孕むアンビバレンス~

シンエヴァ感想に対する感想 ~エヴァが孕むアンビバレンス~

 『シン・エヴァンゲリオン』見ました。いやあ、めちゃくちゃよかったですね。

 圧倒的映像美に、TV版・EOE以来蓄積されてきたキャラ達の物語に次々とケリをつけていくそのストーリー。鑑賞直後は「すごいものを見た」という感想以外思い浮かばないような、ただただ圧倒された気分になりました。

 その「すごいものを見た」という衝撃をここでひたすら言語化するのも有意義だと思うのですが、このシンエヴァについて

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『鬼滅の刃』無限列車編感想 ~「災害」としての鬼、クローズドな美しさ~

『鬼滅の刃』無限列車編感想 ~「災害」としての鬼、クローズドな美しさ~

※ 本記事は、劇場版『鬼滅の刃』無限列車編のネタバレを含みます!

 劇場版『鬼滅の刃』無限列車編を先日見てきました。もう最高に良かったです。

 原作の凄みをいかんなく再現する映像美と演出。社会現象とか、売上の大きさがニュースになるばかりですが、そもそも一つの映画作品として、非常に優れた内容に仕上がっている、そう自信を持って言える作品でした。

 この無限列車編、改めて何が素晴らしかったのか。興

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『新世紀エヴァンゲリオン』TV版・旧劇場版『Air/まごころを、君に』考察 ~他者の道具性~

『新世紀エヴァンゲリオン』TV版・旧劇場版『Air/まごころを、君に』考察 ~他者の道具性~

※ 本記事は新世紀エヴァンゲリオン TV版~劇場版『Air/まごころを、君に』ネタバレを含みます。

 エヴァンゲリオン、TV放映26話、そしてその完結編である劇場版『Air/まごころを、君に』を視聴しました。TV放映から約25年、今更ながら初視聴です。

 エヴァンゲリオンはマンガ版だけ読んでいたのですが、もう記憶も薄れていました。そろそろ劇場版『シン・エヴァンゲリオン』も上映される(ほんとか?

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『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』とループものの収束・発散

『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』とループものの収束・発散

1.成功とは言い難かった上映当時2017年に上映されたアニメ映画、『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』 。
シャフト製作、スタッフ声優ともに超豪華、そして大規模な宣伝で華々しく封切られた作品なのですが、上映されていた当時、かなり厳しい声が多かったのを記憶しています。

曰く何がしたいのかわからない、残した謎が多すぎる、描写がイタい、終盤が意味不明、などなど…
今もレビューサイトとかをのぞ

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『聲の形』はなぜ「生きるのを手伝ってほしい」なのか

『聲の形』はなぜ「生きるのを手伝ってほしい」なのか

「アニメ化に恵まれたマンガ」といえばなんでしょう?

答えは千差万別ですが、私はそんなマンガの一つとして「聲の形」を推したいです。

本作は、耳の聞こえない女の子西宮さんと、彼女のことを小学校のころいじめていた男の子石田君が高校生になって再会し、ぎこちのない、しかし誠実さに溢れた交流を織りなす物語です。
マンガ原作のすばらしさは論を待ちませんが、2016年に京都アニメーションが作成したアニメ映画も

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