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56歳で急性心筋梗塞その3「心臓リハビリテーションの開始」

 手術、入院、退院を経て、これからは外来での心臓リハビリテーションの開始である。正確には「心大血管リハビリテーション」という。約5ヶ月の間、定期的に通院しながら運動療法を中心に心機能と体力の回復に努めるのである。



1:外来リハビリ初日

管理されたリハビリプログラムが頼もしい

2月13日火曜日

 退院後10日を経て、いよいよ外来診療での心臓リハビリテーションの開始である。今日は最初に、皮膚科を受診して蜂窩織炎(ほうかしきえん)の診察をしてもらった。退院時に処方された抗生剤を飲んでいたので、左腕に残っていたしこりも消えて炎症も治った。ただ、アトピー性皮膚炎で肌の状態がよくないこともあって、あらためて塗り薬を処方してもらった。治験薬との関係で処方できない成分の薬については、今回は見送った。

新鮮なお刺身で大満足

 午後のリハビリ開始まで時間があるので、院内のレストランで早めの昼食にする。レストランは二ヶ所、ブッフェと和食があり、今回は和食を選択。本日のおすすめ「びんちょう鮪とサーモン丼」を注文した。適度に陽射しが差し込む小ぶりな食堂だが、病院内らしく清潔感があって好印象だ。

 いよいよ、外来での心臓リハビリテーションの開始である。このプログラムについては、私が病院に担ぎ込まれた当日に「心大血管リハビリテーションと心肺運動負荷試験(CPX)に関する説明・同意書」という書類にサインしている。もちろん、このプログラムに参加しなくても他の選択肢は存在するが、説明によれば「より安全に早期に社会復帰を図ることを目的として入院早期から心大血管リハビリテーションを行います。また、退院後は、心肺運動負荷試験にて心臓病の評価や治療効果の判定、適正な負荷の程度や運動処方を行うための指標を測定し、より安全に日常生活を送ることが可能となります」というのがメリットである。

 リハビリ初日は、このプログラムの基本的なレクチャーと、握力や歩く速度、足の筋力などを測定する。

筋力の弱さはショックだった

 数年前、ゴールデンレトリーバーの散歩の際、転倒した弾みで左手をアスファルトに強く打ってから握力がかなり弱くなったことは自認していたけれど、右手についても平均値よりも低い値だった。足の筋力についても平均値よりも低かった。日頃の運動不足、体力の低下を数字で示されると「老体化しているのか」と正直かなりのショックである。

 リハビリプログラムは一回あたり1時間で最大週3回までの参加(予約)が可能となっていて、以下の四つの項目で構成されている。

1.運動(歩行・自転車・筋力トレーニング等)
2.心肺運動負荷試験(CPX)
3.管理栄養士による栄養指導
4.心臓リハビリの医師による診察

 これらを保険適応期間の150日内で行い、再発予防と生活の質の改善を目指す。見守るのは看護師、理学療法士ら合計4名のスタッフで、毎回必ず医師が問診で体調を確認してくれる。一般的なジムに通うことと比べると、医療従事者に見守られながらの運動は安心感があって良い。このプログラムで一回あたり2,070円/60分は、リハビリであると同時に自分にとっての良い投資だと思っている。

無理は禁物だ

 そして、毎日の記録用に「心不全手帳」を渡された。この手帳は心不全についての知識を高めるとともに、血圧や心拍数、体重などを記録して日常生活を管理することで心不全の悪化を予防する。心不全とは「心臓の機能が悪いために息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって生命を縮める病気」で、心不全の原因となる心臓の病気には、狭心症や心筋梗塞、心筋症、心臓弁膜症、不整脈などがある。

 また、心不全には高血圧や糖尿病などのリスク因子がある「A」から、重症とされる「D」まで4つのステージがあり、私の場合は心不全の症状はないものの、心臓病の治療をしっかり行い、心不全のステージが進まないようにする「B」に相当する。現在行っている運動療法は、体力の向上や筋力の維持に努めることで、心臓の負担を減らすことが目的なのだ。


2:初めてのインドアバイク

初挑戦のインドアバイク(エアロバイク)

2月14日水曜日

 初日に続いて間髪入れずに予約を入れて、本日より運動のスタートである。

リアルタイムでデータを計測するので安心感がある

 胸にセンサーをつけて心電図と脈拍を測り、それぞれの運動の前後と最中で血圧も計測する。まずはインドアバイク(エアロバイク)を25分間漕ぎ続ける。

普通の自転車とは勝手が違う

 軽い負荷から始めて、段々と負荷を上げていくのだが「ややきつい」と感じる程度が運動の目安となる。これは「ボルグ指数(自覚的運動強度)」と呼ばれるもので、7(非常に楽である)から19(非常にきつい)の間で、自分が感じる運動強度が、13(ややきつい)となるのが運動療法の目安ということだ。25分間一定のリズムで漕ぐのにもコツがいる。終わる頃にはTシャツにじっとりと汗をかいた。

正しい姿勢で運動すべし

 次は筋トレ。まずはスクワットを10回。胸の前で腕を組んで、2秒かけて屈んで、2秒かけて伸び上がる。これを2セット。屈んだ時に膝がつま先より前に出ないように、やや出尻気味にすると腰に負担がかからない。スクワットの後は踵上げを10回。バランスを崩して倒れないように壁に手をついて、片足立ちになって踵を2秒かけて上げ、2秒かけて下げる。これを左右で2セット行う。それぞれの運動の合間には2分間の休憩が入る。

 以上で合計約60分間の運動メニューが終了である。あっという間ではあるが、単純な運動を丁寧に繰り返すことで、自分の身体をしっかりと、確実に動かすことの大切さが実感出来た。


3:血圧計の購入と運動2回目

毎日の血圧測定も大切だ

2月16日金曜日

 前回のリハビリ後、自宅でも血圧を測定する必要性に納得したので、血圧計を購入することにした。市販の血圧計には測定部位によって指式、手首式、上腕式などがある。病院に設置してある腕を差し入れるアームインタイプもあるが自宅に置くには大きすぎるので、加圧部分を上腕に巻いて測定するカフタイプを購入した。オムロン製で価格は一万数千円。理学療法士に報告すると、やはり上腕式がオススメとのことだった。

負荷を徐々に上げていく

 本日の運動も、インドアバイクとスクワットと踵上げ。インドアバイクの負荷は前回より5wアップの35wに設定して、1分間の回転数(ケイデンス)50rpmを維持しながら25分間を漕ぎ続ける。これでボルグ指数13(ややきつい)感覚である。

スクワットはゆっくりと行う

 スクワットは回数を10回から20回に上げて2セット。踵上げも左右20回づつを2セット行った。程よく汗ばんだTシャツを着替えて、本日のメニューも終了だ。今日はインドアバイクが私を含めて3名、初めてのレクチャーを受けていた方が1名、ウォーキングマシンが1名で合計5名が参加していた。

 ところで、インドアバイクのワークアウトはアップルウォッチにエクササイズとして記録しているが、25分間漕いでいるのに運動としては7分間しか記録されていなかった。どうやらそれなりの負荷がかかっていないとエクササイズとして認めてもらえないようだ。


4:サイクリング

屋外のサイクリングは楽しい

2月18日日曜日

 病院に行かない毎日の方が日常なので、普段は自分で運動することになる。今まではウォーキング2kmを続けてきたけれど、負荷をかけ過ぎなければ自転車に乗っても良いと許可をいただいた。

愛車のミニベロ birdy classic

 自転車といっても私が持っているのはミニベロと呼ばれる小径車で、サイクリングというより近所をゆったり流すポタリングが主な乗り方である。2年ほど前に購入したバーディークラシックという折りたたみ自転車で、8段変速なのでそこそこのスポーツ走行も可能なモデルだ。

 アップルウォッチのエクササイズにサイクリングメニューがあるので早速計測してみたところ、ウォーキングの時と同じように、チンタラ漕いでいるだけではエクササイズとしてカウントしてくれない。私が設定した1日の目標エクササイズは30分間だけれど、坂道を避けて自宅周辺をぐるぐるまわって約7.5kmを走破して目標達成。退院後はじめての自転車だったが、適正なギアを選択することで十分に負荷を上げられることも確認できた。


5:運動3回目と心不全手帳

運動中に汗が出るようになってきた

2月19日月曜日

 本日で運動メニューの3回目である。もはや身体に負荷をかけて正しく運動すること自体が目的のように思えてきたが、もちろん運動に耐えうる心臓の機能を回復することが、このプログラムのゴールである。

 今日はインドアバイクの負荷を35wから40wに上げてみたところ、頭からも汗が滲み流れるほどの運動量になった。運動中は常に心電図をモニターし、心拍数と血圧を測定するのだが、数値が極端に上昇することもなく良好な運動となっている。

 スクワットについては、20回を2セット行なっている。太腿の前と後ろの筋肉に正しい負荷をかけるためには、屈んだ時に膝が爪先よりも出ないようにする。やや出尻気味に下げると良いようだが、背中を反り気味にしていたら腰や背中に張りを感じた。腰痛などがある場合は、顔をやや下向きにして(背中を少し丸めるようにして)スクワットを行った方が良いとのことだ。

 リハビリに行かない日は自宅周辺のウォーキングもしくは自転車でのワークアウトだ。自宅から少し離れた田んぼの中の舗装路を自転車で走る。周辺の散策と直線距離で300mくらいの、ほとんどクルマが通らない道を往復する。インドアバイクでの負荷40wに相当するようなギアを選んで漕ぎ続ける。約8kmを走ってエクササイズ終了だ。


6:運動4回目とボルグ指数

運動を習慣化することが重要なのだ

2月21日水曜日

 心臓リハビリ室での運動にも慣れてきて、理学療法士に指示されなくても淡々と運動できるようになってきた。準備運動(ストレッチ)からのインドアバイク25分、スクワット20回を2セット、踵上げ左右20回を2セット、それぞれのインターバルが2分間で、各終了時に血圧を測定する。最後に手を洗って、Tシャツを着替えて終了だ。

 今日は運動毎に尋ねられるボルグ指数について、あらためて理学療法士の女性に確認してみた。ボルグ指数(自覚的運動強度)は、7(非常に楽である)から19(非常にきつい)の間で自分が感じる運動強度なのだが、私の場合は筋肉疲労の度合いと息切れの程度に乖離がある。息が上がっていないにも関わらず筋肉は疲れていることが多い。つまり、呼吸器系の強さに対して筋力が弱いので、今後も筋力を上げていく必要があるのだ。これが逆のパターンの人の場合は、筋力の続くままに運動してしまい、知らず知らずのうちに心臓へ負荷をかけてしまうので、要注意なのだそうだ。

 ボルグ指数はあくまでも自覚による運動強度なので、「きつい」という感覚であれば筋肉疲労だろうが息切れだろうが、15(きつい)ということになる。そして、13(ややきつい)で運動を継続することが最も有効な運動療法なのである。

 週2回の心臓リハビリ室での運動と、自宅周辺のウォーキングまたは自転車でのサイクリングは、私の新しい生活スタイルになりつつある。心筋梗塞発症前の怠惰な毎日のことを思うと、病気になったことにも感謝しなければならないのかもしれない。

(了)

56歳で急性心筋梗塞その4「費用と保険とこれからの生活」へ続く

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