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56歳で急性心筋梗塞その4「費用と保険とこれからの生活」

 手術や入院を経て命をとりとめたのは幸いだけれど、現実として気になるのはお金の話である。今回は、急性心筋梗塞の手術代、入院費用などについて書き留めておくので参考にしていただきたい。そして、「56歳で急性心筋梗塞」シリーズも今回でひとまず最終稿である。



1:費用の話

お金の不安がつきまとう

 急性心筋梗塞の手術代や入院費について、ようやく病院からの請求書が届いた。退院から3週間が経っても一向に請求書が届かないので「いったいいくらなんだろう?」と不安な気持ちで郵便ポストを覗く毎日だった。ネットを検索してみると、心臓カテーテル手術の費用は250万円程度などと書いてあるので、かなりビビりながら封筒を開けた。

 合計金額はおよそ12万円だった。本当にこの金額なのか、自分の感覚では自己負担額が70万円くらいかと想像していたが、入院中に「限度額適用認定証の申請」を行ったことで「高額療養費制度」の対象となって、自己負担額が減額されたのだった。ちなみに私は国民健康保険なので3割負担ということになる。どこかのホテルに10日間宿泊したと思えば、手術代込みで12万円はちょっとした旅行代と言ってもいい。もちろん、そんなお気楽なことを書けるのも命が助かったからに他ならない。


2:保険の話

生命保険には入っているけれど

 社会人になった20代の頃に生命保険に加入した。自分が病気になることや事故に巻き込まれる可能性など全く考えていなかったが、親元を離れて自立したからには保険くらいは入っておこうと、ほとんど熟考せずに会社へ来ていたいくつかの保険外交員と話をして、その中で最も歳上と思われる女性が外交員を務める保険会社と契約した。かれこれ30年以上前の話である。

 生命保険もいろいろなのだと理解したのはずっと後のことで、現在はナレーションの仕事をしている高校時代の友人も同時期に生命保険に入っているのだが、彼の伯母が保険外交員をやっていて、当時積立型の「良い保険」を勧められたそうだ。あと数年で満期になるというその保険は、満期後毎年、国民年金支給額に近い金額が支払われるという信じられないほど羨ましいタイプの保険だ。人生において、若い自分には見えない未来を想ってくれる強い味方がいる、というのは本当に心強い。彼に言わせれば「本当に感謝しかない」そうだ。

 私は30数年前、掛け捨て型で掛け金の安い生命保険に入った。その後、10年毎に更新して現在に至る。死亡時保険金のほか、癌、心筋梗塞などの大きな病気の際に一時金が支給されたり、入院費用が補助されるタイプの保険だ。過去に仕事が変わるたびに途中解約を考えたこともあるが、結婚もしていたし毎月払える金額だったので万一を考えて更新し続けてきた。その万一が今回訪れた。

 保険金の支払いには審査があり、医師による診断書の提出が必要となる。問題なく審査が通れば、今回の急性心筋梗塞による一時金は私の場合、200万円となる。また、手術代を含めた入院給付金については約50万円となる見込みだ。もっと手厚い保証だったらというのは結果論だし、これまでに支払った保険金の総額に比べれば元を取ったとは到底言えないが、保険に入っていたことが役立ったのは確かだ。


3:これからの話

病気とともに生きる

2月29日木曜日

 退院後、約1ヶ月を経て初めての診察日である。午前中のリハビリを終えた後、治験コーディネーターの看護師と待ち合わせてから採血を行なった。心臓超音波検査(エコー)では横になりながら、様々な角度から一枚一枚確認しつつ十数枚の心臓の画像を撮られた。意外と時間がかかったエコー検査と比べて、心電図検査はあっという間に終わった。その後は検査の結果を踏まえて担当医師の診察である。

 約1ヶ月ぶりの担当医師との再会である。担当医は、手術の執刀医からバトンタッチされた医師ではあるが、入院中にも何度となく顔を合わせていて安心感がある。術後一ヶ月間で何事もなければ経過良好と言って良いそうだ。結果は問題なく、薬についてもこのまま継続することになった。次回の診察は約2ヶ月後となる。

 これからも、外来でのリハビリは4ヶ月先まで続く。病院の心臓リハビリ室で運動療法に励む方々は、私よりも年上の御老人ばかりだが、一様に以前の日常を取り戻そうと努力している。「若いからいいね」とたまに言われるが、心臓に疾患を抱えてしまったことでは同期である。むしろ、体力面では毎日の畑仕事で私よりも屈強な御老人もいらっしゃる。そんな先人たちに遅れをとるわけにはいかないが、私もまだ50代とはいえ確実に老いてゆく。そんなこんなを考えるとき「やりたいことはやっておくべきだ」と強く思うのである。残り時間は限られているし、明日が本当に訪れる保証は、どこにもない。

ひとりきりではない

 今回、急性心筋梗塞にまつわる顛末を書き残そうと思った切っ掛けは、手術が終わってからの集中治療室での毎日が、あまりに暇だったからである。そして、病院内で目にするもの、体験することがとても新鮮に感じられたので、病室にiPadを持ち込んで毎日の出来事を書き留めていった。

 「本当のことは経験からしか学べない」というのが私の持論であるが、今回まさに引き出しが一つ増えた感覚だ。小説や映画に共感を覚え感動したとしても、結局は想像の世界の出来事でしかない。ところが、自分に起こった出来事は本物であり、心に身体に突き刺さるのである。そして、現実の世界は以前とは変わってしまう。経験を積むというのは変化の連続なのだ。

 本稿を通して、私と似た経験をした方々には共感を持って読み進めていただけたと思うし、読み物として楽しんだ方々には「そういうこともあるのか」と、心のどこかに留めていただければ幸いである。

 最後にあらためて、執刀していただいた医師、看護師、理学療法士、病院関係者の皆様に感謝したい。そして何より、あの日の私の異変に気づいてくれた妻に感謝して筆を置きたい、本当にありがとう。

※本文中に使わせていただいた、かわいいフリー素材集「いらすとや」様に御礼申し上げる。

(了)

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