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【小説】唐揚げにレモンかけてもいいですか?(640字ショートショート)

「目玉焼きって何かけます?」
 僕は聞いた。
 少し間があき、返答があった。
「私は醤油ですね」
「しょーゆ、醤油……これか。はい、どうぞ」
 似たような色の調味料が並ぶ中から醤油の瓶を見つけ、小雪さんに手渡す。
「ありがとうございます」
「……」
 目玉焼きにちょろちょろと醤油をかけている彼女の顔をぼんやり眺めていると、
「健太さんは、何かけるんですか」
 気まずそうに聞いてきた。
「僕ですか。僕は何もかけないです」
「え……かけないんですか」
「はい」
 目玉焼きの白身の部分を箸でつまみ、僕は口に入れた。
 小雪さんは僕の目を見て、ニッと笑みを作る。
「そうなんですか。私も本当は何もかけないんですよね」
「え、そうなんですか」
「はい。でも、聞かれたから何もかけないとは言いづらくて。ちょっと考えて、醤油にしました。健太さんも醤油だろうとなんとなく思って」
「なんかすみません」
「何もかけないんですね」
「そうなんです。僕は、小雪さんなら何かかけるだろうとなんとなく思って、聞いたんです。醤油じゃなくて、ソースの気がしたんですけど。でもハズレでした」
「ふふ」
 彼女の優しい笑い声が心地よく耳に響く。
 マッチングアプリで会う五人目の女性。
 今回は好感触だ。

 そのとき。
 注文した唐揚げを店員が運んできた。
 唐揚げ数個と、お皿の端には切られたレモン。
「……」
 僕と小雪さんの間で、微妙な空気が流れる。
 どちらが勝負を仕掛けるか。

 先に口を開いたのは小雪さんだった。
「唐揚げにレモンかけてもいいですか?」

《終》

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