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クズ男のもとに消えたあの子。


かつての恋愛の話をしよう。


クズ男はモテる。

平気で浮気を繰り返すような男、

DVをする男、

女性をモノのように扱う男、

一見、モラルのかけらもないような男たちはなぜかモテる。


そんなクズ男にハマってしまった女性に恋をした話だ。


大学1年生の冬ごろだったろうか。

女性の顔色ばかり伺う相変わらずの非モテっぷりな僕が

アルバイト先の女の子に恋をした。


僕の非モテエピソードは下記に綴っておく。

・『失恋ピエロ』

・『学生時代に恋愛をしないと本気でこじらせる』


その子は、バイト先の居酒屋のホールでひときわ雰囲気を放っていた。

パッチリとした二重に華奢な身体が印象的で

まるでどこかのアイドルグループにいても遜色ないほどの可愛らしさだった。

フリーターで、居酒屋とコールセンターのお仕事を掛け持ちしているらしい。

家が裕福でなく、親に仕送りをしているようだった。

今時、ここまで親思いな子も珍しいなと思った。(以下A子とする)


A子は僕と夜勤がかぶることが多く、

次第に仲良くなって行った。

A子とはバイト前に一緒にカラオケにいったり、買い物に付き添ったりしていた。

「〇〇くんって物知りなんだね。頭いいね」

と僕のことをよく褒めてくれていた。

冗談混じりで(実は内心は本気だ)

A子みたいな子と付き合いたいなあというと。


半笑いを浮かべながら、

え?あたし、〇〇くんが思っているよりクズだよ。


そう言って微笑んだ。

ほんの一瞬、それは嘲笑したようにも見えた。


実は親に仕送りなんてこれっぽっちもしてないんだよね。

2年間付き合ってる彼氏がいてさ。


貢いでるんだ。あたし。


彼、バンドやっててさー。

お金が必要なんだって。ほら、ライブ代とか、かかるじゃん。


衝撃だった。

ルックスもいい、気立てもいい彼女に彼氏がいてもおかしくない。

てっきり一流会社員とか、モデルとかその辺りを想像していた。

だが選りに選って彼女が選んだのは

売れないバンドマンだった。


目が隠れるほどのマッシュヘアーに細身の体、

黒いシャツにベースギターが映える人だった。


そして彼は彼女に全く連絡をよこさないという。


なんかさー。会ってもヤッて終わりって感じなんだよね。

自分がお金欲しくなった時にだけ、連絡してくるんだよねー。

ホント、あたしって都合のいい女。

誕生日だって忘れられたんだ。。


Aちゃん、それはダメな男だよ、そんな男といたって幸せになれないよ。

俺の方が絶対に幸せにするよ。


そんな言葉が喉まで出かけた。


○くん。これ、みんなには内緒にしてね。


悔しいけど、ちょっとドキッとした。



僕だったら、ずっと大切にする。

君の悩みを受け止めるし、君を無下に扱ったりはしない。

誕生日にはケーキを用意して、君と一緒にろうそくを立てる。

君がほしかったMCMのリュックをサプライズであげよう。

デートは週1。もちろん全部僕のおごりだ。

今は大学生でお金がないけど、社会人になったら、稼いで君を幸せにする。

今思うと気持ちわるい限りだが当時はそんなことを考えていた。


ある時、彼女の手に大きなアザを見つけた。

聞くと彼氏に殴られたのだという。浮気をしていた彼氏を攻めたところ。


オメーが金、ちゃんと寄越さないのが悪いんだろ。


そう言って拳を振り落としたということだった。

さらに彼氏は僕の存在をいいとは思っておらず、

バイトを辞めるようA子に言った。


A子はバイト最後の日、

〇〇くん、いろいろよくしてくれてありがとうね。とお礼を言ってくれた。


僕はA子を新宿駅まで送った。


俺も実は小田急線なんだよね。

彼女と長くいたくて、嘘をついた。

本当は小田急のある西口ではなく、東口の西武新宿線が僕の帰り道だ。


運命のいたずらか、偶然か、その日はイブだった。

もうこの子と話すこともない。きっとラインだってブロックされるだろう。

新宿西口で僕は思いを告げた。


やっぱりA子のことが好きだ。

A子が彼氏にされてる仕打ち俺だったら耐えられない。

絶対俺の方が幸せにしてみせるから。


ありがとう。

A子は嬉しそうな、それでいて恥ずかしそうな顔をした。


あたしの彼氏はどうしようもないクズだよ。

でも、愛してるんだ。

一瞬寂しそうな表情をして彼女は呟いた。


〇〇くんは優しいし、好きだよ。

でも私みたいなクズと付き合うには優しすぎる。


なんでだよ。クズなのはA子じゃない彼氏の方だろ。

またも言葉が喉で止まった。


そっか。

僕は悲しみを悟られまいと必死だった。


A子の身体が小田急線の改札に吸い込まれていく。

彼女の身体が小さくなるたび、僕の胸は締め付けられる。

きっとあの子はこれからも彼氏に金を貢ぎ続け、暴力を受け続けるのだろう。


どこからかジングルベルが聞こえてくる。

ベースの重低音と一緒に。


僕は奥歯を噛み締めて、

歩くはずなかった西口から東口までの道を

振り返ることなく進んだ。










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