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花の庭の刻限

 花の庭の光景に、わたしの精神的調弦は狂いだした。
 我慢できず、だからといって不安定な声を上げてしまいそうで、それならむしろはっきり絶叫しようと足をふん張り、一、二の三で勢いをつけようとしてしかしくずおれた膝小僧はギアの段階もなくニュートラルすぎて、何処で姿勢を保てば良いのか、立つもしゃがむもままならない。
 何処が花で何処が草木なのかはおろか、花の庭の中央の巨樹までもがぶれ始めている。足元は色彩溢れる沼地のようだった。手のひらを見ると、わたしは輪郭をまだ保ち光景と拮抗してはいた。花の庭にいる他のみなは、けれどももうまるで幽霊だ。
 立ち尽くしていた巨樹も空へと這い廻す枝の先端から物凄い勢いで融解していき、その根元は色彩の沼地へと斜めに沈み込み、光景は形状も崩壊していく。形を失った黒以外の色彩同士は四方八方で交じりあい、不協和音の大合唱さながらマーブル模様にうねり一つの色に極まりながら絶頂を迎えようとしている。
 この光景にわたしはいまや極度の不安を覚えているというのに、人々みなはこれこそが自然な色彩なのだと賛同しているようだった。
 極まった色彩の光景を夜の黒が無効にしてくれるまで、暗闇に線を引く鳥が現れる刻限が迎えにくるまでこらえて待つしかない。


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