ライ麦畑で気をつけて

庄司薫の芥川賞受賞作『赤頭巾ちゃん気をつけて』(1969)は、サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』(1951)としばしば比較される。

むしろ自分から比較されに行っている感じだ。

とはいえ、舶来品にインスパイアされた国産品は意外と喜ばれるものである。

ビートルズに影響されたグループサウンズが、まさにそれだ。

 

概して『赤頭巾…』より『ライ麦…』のほうが謎めいている。

‘The Catcher in the Rye’のタイトルの由来となっているエピソードが作中に出てくるが、まあまあ意味不明だった。

また、主人公であるホールデンの妹は彼の分身なのだという説が、村上春樹と柴田元幸の『サリンジャー戦記』(文春新書、2003)に載っている。

それで言うと、ホールデンの兄や亡き弟も、主人公の分身または失われたピースのような存在に思える。

気まぐれな作風に見えて、実はこうした重層性があるのだ。

 

一方、『赤頭巾…』は『ライ麦…』よりは単線的で、主人公の性格も単純な感じがする。

もう一度読んでみれば、見方が変わるかもしれないが。

あと、作品の終わりのほうで宗教への言及があるが、若干背伸びしている感が否めない。

それも、初々しくて良いのかもしれないが。

ちなみに『ライ麦…』には、最初のほうでホールデンが同級生にカトリックについて質問するシーンがある。

 

『ライ麦…』は、ホールデンが高校を中退するところから始まる。

そのとき私はすでに大学を出ていたが、'中退'に対して奇妙な憧れを抱いたものだ。

『赤頭巾…』は、主人公の庄司薫が都立の名門・日比谷高校の三年生で、学園闘争で東大受験が出来なくなったところから始まる。

冷静に考えると、けっこうエリート寄りの設定である。

それでもベストセラーになったのだから、凄いことだ。

きっと、まだ私が気づいていない魅力があるのだろう。

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