えみりあ/emilia

物書きの端くれ/北国→関東→関西(今ここ)/子育て真っ最中/趣味も興味も「広く・浅い」…

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物書きの端くれ/北国→関東→関西(今ここ)/子育て真っ最中/趣味も興味も「広く・浅い」/人付き合いも知識も広く浅いかもしれない/色々な投稿サイト(monogatary、pixiv等)で小説を公開しています。

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記事一覧

【創作大賞2024読書感想】昏い抱擁 

漠然と読書するのと、作品を書くモードで読書するのでは全然違うな。 そんなことを感じた創作大賞。 ご縁があって拝読した作品の、読書メモをシェアします。 (あくまで個…

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【創作大賞2024読書感想】眠らない猫と夜の魚 

漠然と読書するのと、作品を書くモードで読書するのでは全然違うな。 そんなことを感じた創作大賞。 ご縁があって拝読した作品の、読書メモをシェアします。 (あくまで個…

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【創作大賞2024読書感想】うやまわんわん〜犬将軍を崇める一族〜 

漠然と読書するのと、作品を書くモードで読書するのでは全然違うな。 そんなことを感じた創作大賞。 ご縁があって拝読した作品の、読書メモをシェアします。 (あくまで個…

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note創作大賞2024に参加して

創作大賞2024に参加した皆さん、お疲れ様です。 今回、創作大賞に参加して感じたことや、自身の変化を忘れないうちに書いておこうと思います。 参加する前と参加した後で…

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創作大賞2024に投稿していた『山手の家』、無事に校了を迎えました。

作品を読んでくださった皆さん、ありがとうございました。

応援期間中は皆さんの作品を読みつつ、次の作品の構想を練りたいと思います。

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山手の家【第60話】アフターエンド=プロローグ

救急車で運ばれた先の病院で、ひと通りの検査と、足のかすり傷の処置、目の洗浄をしてもらうと、もう空が白み始めていた。 搬送される直前からずっと、真がそばについて離…

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山手の家【第59話】

険しく歪んだ信子の顔が、急に菩薩のように穏やかになった。 「マコちゃんはいいところにお勤めだから、あなた何もしなくて良くて、楽でしょうがないでしょう?」 「子育て…

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山手の家【第58話】

(もしも、真さんや真珠が誰かのせいでアレルギー症状を引き起こしていたら) そう考えると、だんだん腹が立ってきた。 意図的にそんなことをやるとしたら、行方がわからな…

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山手の家【第57話】

駅から家まで、いつもとは違う道を足早に突き進んだ。 いつも歩く緩やかな坂に比べて急な坂を早歩きしているので、息が上がってきた。 マンションが近づくにつれ、入居者用…

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山手の家【第56話】

家を留守にするのは気が引けた。 盗聴器をつけた犯人が信子なら、合鍵を使って家に入る可能性がある。 (でも、真珠に会いたい) 瑠璃は裁縫箱から黒い糸を取り出すと、玄…

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山手の家【第55話】

「親父に訊いてみたけど、『小川』に戻ったのは知らないって」 真珠の面会を終えて遅くに帰ってきた真は、真っ先に信子の名前の話題を口にした。 「認知症の症状で、信子さ…

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山手の家【第54話】

(そうだ、私も証拠を押さえておかないと) 瑠璃はテーブルに置いていたスマホを片手に、コンセントの前でしゃがんだ。 配線が剥き出しになったコンセントの内部に、異物感…

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山手の家【第53話】

ネットで調べて連絡した電気工事の業者は、「漏電しているかもしれない」と、飛んできた。 父親くらいの年齢に見える男性は洗面所にあるブレーカーを手際よく操作した後、…

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山手の家【第52話】

真の咳が聞こえた気がして目が覚めた。 真はクリニックに行ってから咳がおさまって、金曜日と週末には真珠の面会にも行けたというのに、咳がぶり返しているのだろうか。 寝…

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山手の家【第51話】

真珠は日当たりの良い窓際のベッドで気持ちよさそうに寝ていた。 今日の担当だという若い女性の看護師が「午前中は色々と検査をして、頑張っていましたよ」と、そっと真珠…

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山手の家【第50話】

どこかの家の物音で目が覚めた。 カーテンの隙間から差し込む光は弱い。 隣に寝ているはずの真の咳が遠くで聞こえた。 リビングに向かうと、真が身支度を済ませて出勤しよ…

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【創作大賞2024読書感想】昏い抱擁 

【創作大賞2024読書感想】昏い抱擁 

漠然と読書するのと、作品を書くモードで読書するのでは全然違うな。
そんなことを感じた創作大賞。

ご縁があって拝読した作品の、読書メモをシェアします。
(あくまで個人的な感想です)

昏い抱擁 /高遠秋彦 https://note.com/akihiko_takato/

今回は、高遠秋彦さんの『昏い抱擁』です。

(作品のポイント)

・物語が進むにつれて主人公が切り替わっていく
 →主人公たち

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【創作大賞2024読書感想】眠らない猫と夜の魚 

【創作大賞2024読書感想】眠らない猫と夜の魚 

漠然と読書するのと、作品を書くモードで読書するのでは全然違うな。
そんなことを感じた創作大賞。

ご縁があって拝読した作品の、読書メモをシェアします。
(あくまで個人的な感想です)

眠らない猫と夜の魚 /中村朔
https://note.com/nakamurasaku

今回は、中村朔さんの『眠らない猫と夜の魚』です。

(作品のポイント)

・風景の描写が巧い
 →映像が目に浮かびやすい

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【創作大賞2024読書感想】うやまわんわん〜犬将軍を崇める一族〜 

【創作大賞2024読書感想】うやまわんわん〜犬将軍を崇める一族〜 

漠然と読書するのと、作品を書くモードで読書するのでは全然違うな。
そんなことを感じた創作大賞。

ご縁があって拝読した作品の、読書メモをシェアします。
(あくまで個人的な感想です)

うやまわんわん〜犬将軍を崇める一族〜 /箱男 https://note.com/inukoubou58

今回は、箱男さんの『うやまわんわん〜犬将軍を崇める一族〜』です。

(作品のポイント)

・セリフだけで誰がし

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note創作大賞2024に参加して

note創作大賞2024に参加して

創作大賞2024に参加した皆さん、お疲れ様です。

今回、創作大賞に参加して感じたことや、自身の変化を忘れないうちに書いておこうと思います。

参加する前と参加した後では良い意味で心持ちが変わったと言いますか、視界がクリアになったような、そんな清々しい感じがしています。

参加前後の状況や心境を、ざっと箇条書きにしてみました。

note大賞に参加する前や参加当初の状況
・書きたいと思っていても、

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創作大賞2024に投稿していた『山手の家』、無事に校了を迎えました。

作品を読んでくださった皆さん、ありがとうございました。

応援期間中は皆さんの作品を読みつつ、次の作品の構想を練りたいと思います。

山手の家【第60話】アフターエンド=プロローグ

山手の家【第60話】アフターエンド=プロローグ

救急車で運ばれた先の病院で、ひと通りの検査と、足のかすり傷の処置、目の洗浄をしてもらうと、もう空が白み始めていた。
搬送される直前からずっと、真がそばについて離れようとしなかった。
「入院するほどではないので帰って大丈夫ですよ。ただ、怪我の様子とか、体調の急変がないかとか、様子見させてもらいたいので、1週間後にまた来てください」
真が、心の底からホッとしたように「ありがとうございました。良かったね

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山手の家【第59話】

山手の家【第59話】

険しく歪んだ信子の顔が、急に菩薩のように穏やかになった。
「マコちゃんはいいところにお勤めだから、あなた何もしなくて良くて、楽でしょうがないでしょう?」
「子育てと2人分の介護で働きたくても働けません」
瑠璃は淡々と答えた。
「うらやましいわぁ。私も、そんなお嫁さんになるはずだったのに」
信子の耳には何も聞こえていないようだった。
(なんで、うらやましいわけ?)
今、真と離婚したら、生活能力がない

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山手の家【第58話】

山手の家【第58話】

(もしも、真さんや真珠が誰かのせいでアレルギー症状を引き起こしていたら)
そう考えると、だんだん腹が立ってきた。
意図的にそんなことをやるとしたら、行方がわからなくなっている義人や、意識のない状態で発見された幸代と最後に会っていただろう、あの人しか考えられない。
瑠璃の頭の中で、真っ赤な口紅を塗った信子の唇がニヤリと動く。
(あのくそババア、許さない)
瑠璃はタブレットの電源を入れると、メモ帳を立

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山手の家【第57話】

山手の家【第57話】

駅から家まで、いつもとは違う道を足早に突き進んだ。
いつも歩く緩やかな坂に比べて急な坂を早歩きしているので、息が上がってきた。
マンションが近づくにつれ、入居者用入り口の前にイヤホンを耳に挿してスマホのようなものを凝視している男が見えた。
白いワイシャツに黒色のズボン姿の見覚えのある姿。四角いビジネスリュックを背負ってる。
(この人、この前もいた人だ)
瑠璃は顔を隠すようにして男の横を小走りして通

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山手の家【第56話】

山手の家【第56話】

家を留守にするのは気が引けた。
盗聴器をつけた犯人が信子なら、合鍵を使って家に入る可能性がある。
(でも、真珠に会いたい)
瑠璃は裁縫箱から黒い糸を取り出すと、玄関の扉の前にしゃがんで、自分のくるぶしの高さに1本、膝の高さに1本、糸を張った。
これで家への侵入を撃退できるわけではないのは、わかっている。
相手がかえって逆上するかもしれないことも、わかっている。
ただ、『おとなしくやられっぱなしでい

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山手の家【第55話】

山手の家【第55話】

「親父に訊いてみたけど、『小川』に戻ったのは知らないって」
真珠の面会を終えて遅くに帰ってきた真は、真っ先に信子の名前の話題を口にした。
「認知症の症状で、信子さんから聞いたのに忘れてる、っていうことはない?」
真は「そういう可能性もないわけじゃないけど……」と、言いかけて、激しく咳をした。
瑠璃は冷蔵庫で冷やしていたお茶をグラスに入れて、真の手元に置いた。
「信子さんに会って確認する、って。手紙

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山手の家【第54話】

山手の家【第54話】

(そうだ、私も証拠を押さえておかないと)
瑠璃はテーブルに置いていたスマホを片手に、コンセントの前でしゃがんだ。
配線が剥き出しになったコンセントの内部に、異物感のある黒い物体が隠れている。
瑠璃は、シャッター音の出ないカメラアプリを立ち上げると、黒い物体の画像を何枚か撮った。
玄関が騒がしくなった。電気屋さんと警察官の3人が、鍵をかけずにいた玄関扉を開けて、家に入ってきたらしい。
リビングの扉が

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山手の家【第53話】

山手の家【第53話】

ネットで調べて連絡した電気工事の業者は、「漏電しているかもしれない」と、飛んできた。
父親くらいの年齢に見える男性は洗面所にあるブレーカーを手際よく操作した後、問題のコンセントの前にしゃがみ込んだ。
(いよいよだわ)
持ってきた工具がコンセントカバーに押し当てられた。
瑠璃は両手を胸の前で祈るように組んだ。
カバーは瑠璃の想像よりも簡単に外れた。
「なんだ、これは」
男性が恐る恐るコンセントカバー

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山手の家【第52話】

山手の家【第52話】

真の咳が聞こえた気がして目が覚めた。
真はクリニックに行ってから咳がおさまって、金曜日と週末には真珠の面会にも行けたというのに、咳がぶり返しているのだろうか。
寝室はうっすらと明るくて、隣に真はいなかった。
「おはよう。早起きだね」
真はリビングでプラごみの袋の口を結んでいる最中だった。
(そうか、月曜日か)
瑠璃はあくびをして、目頭を指先で押さえた。
「ごめん、起こした」
「5時? 真さん、何時

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山手の家【第51話】

山手の家【第51話】

真珠は日当たりの良い窓際のベッドで気持ちよさそうに寝ていた。
今日の担当だという若い女性の看護師が「午前中は色々と検査をして、頑張っていましたよ」と、そっと真珠の頭を撫でた。
真珠の寝顔を無音で撮影のできるカメラアプリで撮影する。
真珠が起きた時にそばにいられるように、瑠璃はベッドサイドにパイプ椅子を置いて、座った。
(そうだ、あの会社を調べよう)
瑠璃はマンションを出る直前に撮った画像を確認して

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山手の家【第50話】

山手の家【第50話】

どこかの家の物音で目が覚めた。
カーテンの隙間から差し込む光は弱い。
隣に寝ているはずの真の咳が遠くで聞こえた。
リビングに向かうと、真が身支度を済ませて出勤しようというところだった。
「おはよう。ごめん、起こした」
真は激しく咳込んだ。
「今、何時?」
瑠璃は目を凝らして時計を見た。
「5時10分」
真は話すたびに苦しそうに顔を歪めた。
「5時? 真さん、一体何時から起きてるの?」
「4時くらい

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