見出し画像

山手の家【第53話】

ネットで調べて連絡した電気工事の業者は、「漏電しているかもしれない」と、飛んできた。
父親くらいの年齢に見える男性は洗面所にあるブレーカーを手際よく操作した後、問題のコンセントの前にしゃがみ込んだ。
(いよいよだわ)
持ってきた工具がコンセントカバーに押し当てられた。
瑠璃は両手を胸の前で祈るように組んだ。
カバーは瑠璃の想像よりも簡単に外れた。
「なんだ、これは」
男性が恐る恐るコンセントカバーの奥を凝視している。
男性が何を見ているのか横から覗き込もうとしたその時、男性が瑠璃の方を向いて、指を1本、自分の唇に押し当てた。
声こそ出していないが、「しーっ」と、指の下の唇を動かした。
男性はポケットから出したスマホのカメラでコンセントの内部を撮影すると、立ち上がって、瑠璃を手招きして玄関に誘導した。
玄関に着くと、ヒソヒソ話をするような声量で「これ見てもらえます?」と、スマホの画面を見せた。
画面にはカバーが外れて、内部が剥き出しになったコンセントが写っていた。コンセントの脇に、よく見覚えのあるレースカーテンと、カーテンが写り込んでいる。
男性がコンセントの中の黒いパーツを指差した。
「これ、盗聴器っぽいんですよね」
瑠璃は深く息を吸った。
(あぁ、やっぱり)
「警察に通報した方がいいと思うんですけど、どうします?」
瑠璃は小さく、繰り返し、頷いた。頷いて、そのまま俯いた。
「通報するなら、この家の外から通報した方がいいんで、僕、いったん車に戻って通報しますけど」
通報したら、その後は何が待っているのだろう。
仕掛けた犯人を徹底的に調べるようなことをするのだろうか。
「どうします?」
男性は小声で、瑠璃の意思を確認するように訊ねた。
(犯人を捕まえて、処罰してほしいとか、そういうわけじゃないもんなぁ。でも……)
瑠璃は静かに顔を上げた。
「通報、お願いします」
「わかりました。じゃあ、コンセントはいじらず、そのままで。あと、声を出さないように」
男性は靴のかかとを踏んだまま、玄関を飛び出した。



少し経って、インターホンが鳴った。
電気屋の男性と、通報を受けて駆けつけたらしい制服を着た男性の警察官が2人、モニターに映った。
モニターの向こうで電気屋の男性が無言で会釈した。
瑠璃も、何も言わずにオートロックの解除ボタンを押した。
















この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?