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なぜ私たちは甘いものがやめられないのかを、マーケティング×フィットネス視点で考える。

「美味しいものは脂肪と糖でできている」。

前回の記事では、商品を売りたい企業と、健康になりたい消費者の間にジレンマが生じることを説明しました。

今回はその続きとして、「うまい・やすい・はやい」を実現するパーツの一つ、糖について、【企業がどのように糖を利用してきたか】についてお話していきます。


●糖と人類の歴史

私たち人間は、糖と共に発展してきました。
米や小麦の農耕を始める「農業革命」によって人類は狩猟から解放され、一気に人口と富を増やしたことが人類発展の大きなきっかけになったと言われています。

米か小麦か芋かの違いはあれど、アジアでもヨーロッパでもアフリカでも、世界中どこへ行っても食の中心は糖です。
世界的な名著『サピエンス全史』では、それを「小麦が人間を奴隷化した」と皮肉な表現をしています。

しかし近年では、糖の過剰摂取が問題になっています。
糖の過剰摂取は、肥満や虫歯、糖尿病、心臓病、高血圧、がんなどの原因になることがわかってきており、社会問題のトピックの一つです。

むしろ近年になるまでこの問題に気付く人は多くありませんでしたが、それはなぜでしょうか。

糖は生物のエネルギー源です。
したがって私たち人類は、誕生したときから糖と深く結びついています。
しかし、祖先の時代には、コカ・コーラのような強烈に甘い食べ物や飲み物は存在しませんでした。

糖、特に砂糖には中毒性があることがわかっており、違法薬物と同程度のドーパミンを出すという研究もあります。
特に子どもたちは砂糖に対して異様な執着を見せますが、我々は甘いものが欲しくなって当たり前なのです。


●糖の効果と中毒性

糖にはどのような効果があるのでしょうか。

糖は身体に蓄えやすく、利用しやすいという特徴があります。
かなり簡略化しますが、摂取された糖は「グリコーゲン」という形で筋肉や肝臓に貯蔵されます
これは脂肪よりも摂取・消化・利用に優れています。

これに進化論を踏まえると、脂肪よりも糖を好む種が生き残るように「進化」してきたと考えるのが妥当です。

糖を摂取したときの身体の反応を見てみましょう。

まず、口蓋と呼ばれる口の天井も含めて、口の中全体が糖に対して狂乱のような反応を示します。
口内には約1万個の味蕾があり、その一つひとつに甘さを感じる特別な受容体があって、それらはすべて何らかの形で脳内の快楽領域につながっています。
つまり、身体にエネルギーを供給すると、快楽という報酬が得られるということです。

これまでの話をまとめると、糖の効果は次のようになります。

1.甘味は、その食べ物がエネルギー豊富だというシグナル。
素早く燃料補給できる食べ物を本能的に求めている。
2.人類が進化してきた環境には、甘い物がふんだんにはなかった。
そのため、人類は糖分を口にすると強い興奮を覚えるようになった。
3.糖分は気分をよくする働きがある。


●「至福ポイント」

塩分や脂肪分、糖分の配合量がある値にぴたりと一致していると消費者が大 喜びするポイントがあり、食品業界内部の人々はこれを「至福ポイント」と呼んでいます。
では、至福ポイントはどのように発見されるのでしょうか。

消費者に「好きな食べ物は何か?」をインタビューしてみましょう。

そうするとたいていの人は、ピザやパスタのような味の濃い食べ物が好きだと答えます。
しかし実はそれは最初だけで、そのような食べ物はあっという間に飽きてしまうことがわかっています。
一方で、食パンやお茶漬けのような平凡な食べ物は、歓喜こそ呼び起こさないものの、飽きずにいくらでも食べ続けられることがわかりました。

これを解き明かすのが、「至福ポイント」です。

食品の「最適化」を行うエンジニアは、糖・脂肪・塩などの変数をごくわずかずつ変化させて何十ものパターンを作成しています。
これはもちろん売るためではなく、実験のためです。

最も完璧なパターンを見つけだすため、一般消費者を募って報酬を支払い、数日がかりでいくつものパターンを試してもらい、「至福ポイント」を満たした食品を商品化しています。

至福ポイントのグラフは、逆U字のような形をしています。
我々は糖分が多いほど食べ物を好きだと感じますが、それはある一定の点まで。
そのピークを過ぎると、糖分を増やすのは無駄どころか、その食べ物の魅力 を消し去ってしまうことがわかっています。

とはいえ、パスタソースのような商品で「至福ポイント」を見つける競争は、業界内ですぐに下火となりました。
夕食は誰でも食べますし、食べる量にも限界があります。
だから、競合ブランドより魅力的ならすぐに売り上げが伸びますが、頭打ちも早かったのです。

そうはいかなかったのが菓子類です。
菓子って、なくても済む存在ですよね。 だからこそ、強力に感覚を刺激しなければ売れません。

菓子市場が現在の900億ドル規模に向かって拡大を続ける中、食品メーカーは商品開発にしのぎを削ります。
人々を幸せにするだけにとどまらず、欲求を強く駆り立てるような商品が求められるようになったのです。


●商業的な成功と社会的な失敗

1960年代や70年代には、「至福ポイント」を満たした菓子類、特にシリアルや清涼飲料水は飛ぶように売れました

忙しい主婦にとって、シリアルや清涼飲料水は「うまい・やすい・はやい」を満たす理想の食品でした。
実際、実験によって判明した「至福ポイント」に沿った商品ですから、美味しくないわけがありません。
しかもシリアルは牛乳を注ぐだけなので楽チン。

商品が一度売れると、大量生産ができるようになります。
それによりロット単価が安くなりますから、単価を下げることができ、更に売れるという好循環。

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1929年に1800万ドルでスタートした新興企業「ゼネラルフーズ」は、1985年にフィリップモリスに買収されたときには90億ドル規模の業界トップになっていました。
このとき、従業員は5万6000人、研究予算は1億1300万ドル。
粉末ドリンクやシリアル、コーヒー、食肉加工品、ホットドッグ、ベーコンなどで圧倒的なシェアを誇っていました。

しかし1970年代後半に入り、風向きが変わります。
「至福ポイント」を満たした食品の蔓延が、深刻な健康被害をもたらし始めたのです

当時の推定では、アメリカ人の未治療の虫歯は10億本以上あったとも言われています。
肥満の子どもの割合は、 問題が表層化した1980年から増加が加速し、2010年代には3倍に達しました。

糖尿病も増加し、健康を著しく損なうこの病気の兆候は、成人だけでなく小児にも見られるようになってきました。
大食いとの関連性があることから一時は「贅沢病」と呼ばれた痛風ですら、今や患者数が全米で800万人に達しています。

「シリアル」とは、本来は穀物で作った食品を示す単語でした。
しかしこの頃のシリアルはもはやその原型を留めていません。
なんと製品重量の50%以上を砂糖が占める商品がほとんどだったのです。

余談ですが、だからこそ筆者はピュアな炭水化物源としてオートミールをおすすめしています。


●それでも砂糖をやめられない理由

そこまでして砂糖に執着してしまうのはなぜなのでしょうか。

人類が甘みに本能的に抗えないことは前述の通りですが、だからこそ企業側もそれを利用しない手はないのです。

ゼネラルフーズを始めとする食品メーカーは、「甘み」を売ることで成長してきました。
あのコカ・コーラだって、スティーブ・ジョブズに言わせると「砂糖水」である商品を売ることであれだけの企業になっているのです。
(なおスティーブ・ジョブズは皮肉なことに、果糖が原因で膵臓がんを発病したとの説があります)

また、アメリカ国内のシリアルメーカーの子ども向け商品の広告費は、1970年代のは年間6億ドルにものぼりました。
皆さんも、スーパー戦隊、仮面ライダー、プリキュアの時間にシリアルのCMを見たことがあるのではないでしょうか。

これらのビジネスによって生み出されたお金は、税金として国に収められます。
だから国側も、砂糖を使ったビジネスを規制することに尻込みをしてしまうのです。

したがって、「国は砂糖を規制すべき!」というのはナンセンスな話。
砂糖による健康被害で医療費がかさむというマイナス要素との「損益分岐点」を保っている限り、国は規制をするインセンティブがないのですから。


●砂糖の代替品

しかし現在ではそこまで多くの砂糖は使われていません。
少量で強い甘みが出せる果糖や人工甘味料が発見され、砂糖の代替品として利用されているからです。

・果糖

果糖(フルクトース)の最大の力は甘味です。
砂糖(ラクトース)は、半分が果糖(フルクトース)、もう半分がブドウ糖(グルコース)で構成されています。

果糖(フルクトース)はブドウ糖(グルコース)よりずっと甘く、ラクトースを100とする相対的な甘味度では、グルコースは74、フルクトースは173となっています。
そのため、砂糖ではなく果糖を利用する動きが高まりました。

しかし果糖も良いことばかりではありません。
果糖は筋肉ではなく肝臓に貯まりやすく、肥満や膵臓がんの原因になることが示唆されています。

果糖はブドウ糖に転換することもできますが、すでに体内にブドウ糖がたくさんある場合、肝臓内で直接脂肪に転換されます。
つまり、果糖はブドウ糖よりも脂肪肝をつくりやすく、またそれが肝臓におけるインスリン抵抗性の原因となり中性脂肪の合成を促すのです。

・異性化糖

高フルクトース・コーンシロップ(HFCS)とも呼ばれます。
食品のラベルに「果糖ぶどう糖液糖」と記載があったら要注意。

異性化糖は、トウモロコシを原料としてブドウ糖を主成分とする糖液に異性化という処理を行って果糖(フルクトース)の割合を高め、甘味を強くしたもの。
前述の果糖の割合が高い上に、清涼飲料水などに多く含まれるため、気付いたら果糖を大量に摂取していた、なんてことになりかねません。

・人工甘味料

人工甘味料に関しては諸説ありますが、砂糖の大量摂取よりはマシという理由で許容されている、「必要悪」だと結論づけます。

普段から人工甘味料を一切摂らない人に人工甘味料を一週間与え続けた研究によると、約半数の被験者の腸内環境が劇的に悪化し、残りの半数の腸内環境には特に変化がなかったそうです。

天然甘味料のラカントなら比較的安全といえるでしょう。


●砂糖との付き合い方の結論

いろいろと述べてきましたが、結論を述べておきます。

・砂糖に屈してしまうのは人間の「本能」なので、仕方ない部分はある。
・企業側は、それをわかった上で砂糖を「利用」している。
・私たちはそれを理解し、「理性」で自制しなければいけない。


●おわりに

このnoteは、筋トレを始めたばかりで、しっかり身体のことについて勉強したい人をターゲットに、健康的な生き方に関する情報を論理的に発信しています。

過去にもいろいろな記事を投稿しているので、もし気になったら読んでみてください。
また、記事にしてほしいトピックのリクエストもコメント欄から募集中です。

筋トレについてそこそこ詳しい方や、実際にトレーナーとして活動されている方にとっても、「こんな考え方、こんな表現があったんだ!」という発見になってくれれば幸いです。


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