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熱く、毒のある。~芥川賞受賞作「彼岸花が咲く島」を読んで~


今回は、李琴峰(り ことみ)さん作、「彼岸花が咲く島」について紹介してまいります。
こちらは、2021年第165回芥川賞を受賞し、大きな話題を呼びました。

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装丁の絵が美しうていたり。いと好き。


李琴峰さんは台湾出身の作家さんです。台湾出身というだけで、冷たい批判の声を浴びたことがあるという李さん。そんな李さんが紡ぐ文章には、不当な差別に対する是非を、私たちに考えさせるような箇所も見受けられました。

架空の島が舞台ですが、物語に現れる出来事は、実在する現代社会の問題を彷彿とさせる、非常に社会性のある物語となっています。
かといって、難しい話というわけでもありません。
気が付いたら読み終わってしまうくらい読みやすく、また感動できる一冊です。

問題提起と物語性のバランスが絶妙で、単純にファンタジー小説としても面白く、「ぜひお子さんの読書感想文の題材にいかがでしょうか」、とおススメしたくなります。


どんな人におすすめ?


この物語は、このような人たちにぜひ読んでみてほしいと思います。


①芥川賞の本を読んでみたい人
②温かくも考えさせられる。そんな物語を読んでみたい人
③読書感想文を書きたい高校生
④島育ちの人


芥川賞と聞くと、「文学的で内容が難しそう」と思わず身を引いてしまいそうですが、こちらの物語は、本当に読みやすい文章です。
また、舞台が島ということもあって、島民の温かさや、台風の脅威といった、島育ちの人なら、どこかシンパシーを感じるであろう内容が盛り込まれています。島人の方に強くおススメ


あらすじ①漂着した島

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砂浜に倒れている少女は、炙られているようでもあり、炎の触手に囲われ大事に守られているようでもあった。(本文より)


この物語は、主人公の少女、宇実(ウミ)が意識を失い、倒れているシーンから始まります。
そこは、真っ赤な彼岸花が咲き乱れるどこかの砂浜。
宇実は一人で眠っていました。身体中に傷を負った状態で。

やがて、その様子を見かねた島の少女が、宇実の元へ駆けつけます。彼女の名前は游娜(ユナ)
游娜は宇実を起こした時、宇実にこう尋ねます。

「リー、ニライカナイより来したに非ずマー?」


……!!!????????


安心してください。僕もこうなりました。
リー? ニライカナイ? マー!!? 何語!?
と初めは困惑したものです。

しかし、分からなくて当然、この言葉は、島の住人たちが使う言葉、「二ホン語」でした。

「日本語」ではなく「二ホン語」です。

游娜たちの住む島では「二ホン語」、「女語」の二つの言葉が使われていました。

しかし、宇実はそのどちらでもなく、「ひのもとことば」を使っていました。

ここで一旦まとめますと、この物語で出てくる言語は、次の三つです。また、物語ではこのように表記されます。


「二ホン語」…島の誰もが使う言葉。古めかしく、独特な言い回しに、感情を表す語尾が付いている。
「女語」…通常の日本語のように表記される。島では、特別な身分である「ノロ」と呼ばれる女性のみが、体得、使用を許されている。
「ひのもとことば」…宇実の住んでいた場所の言葉。ひらがなで表記されるが、話し方はほとんど「女語」と相違がない。


また、「ニライカナイ」とは島に伝わる、海の向こうにある神様たちが住むところです。

この「ニライカナイ」は、物語において非常に重要な立ち位置となります。
メモをしたら次へいきます。


あらすじ②島の統治者「ノロ」と宇実の「試練」

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宇実は游娜によって、自宅へ連れていかれ介抱を受けるのですが、その際に、一切の記憶を失っていることが判明します。

残されていたのは、「ひのもとことば」と「身体中の無数の傷」でした。

行き場のない宇実は島で暮らすため、島の統治者である「ノロ」たちを束ねる存在、「大ノロ」に会いに行くことにしました。


この「ノロ」は女性のみしか、なることができません。
男性は、「ノロ」になることはおろか、「ノロ」の使う言葉、「女語」について習うことすら許されていないのです。

なぜ、男性は「ノロ」になることができないのか。
それは、島にまつわる悲しい「歴史」が背景にありました。
そして、その歴史は、「ノロ」にしか知ることを、許されてはいませんでした。


島の歴史を知るために、一人で隠れて女語を学び、「ノロ」になることを夢見る男の子、拓慈(タツ)と宇実は出会います。

宇実と游娜は、拓慈と約束をします。


「ノロ」になり、拓慈へ島の「歴史」を教えること。
そして、女性しか「ノロ」になれない現行の制度を変えること。


拓慈もまた、二人が「ノロ」になれるよう、就任の条件である、「女語の習得」のため、一生懸命二人に教えるようになります。やがて三人の間には確かな絆が芽生えていきました。


そんな三人は、島の様々な出来事を通して、「ノロ」の偉大さに触れていきながら、日々を過ごしていくのでした。

果たして、宇実と游娜は「ノロ」になり、島の歴史を知ることができるのでしょうか?


最後に

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彼岸花の花言葉は「悲しい思い出」というそうです。
島に彼岸花が溢れている理由、それは、花言葉の通り「悲しい歴史」がありました。

そしてそれは、島の全てを揺るがしかねない「事実」でもありました。

島の歴史が語られる時。
それまでの、島独特の緩やかな流れは一変し、息が詰まるほどの、緊張感を感じさせる展開が繰り広げられます。

島に隠された“秘密”とは、宇実が島にやって来た理由は何だったのか。
なぜ、「ノロ」は存在し、女性しかなることができないのか。

すべての謎が解明されたとき、読者の心は、決して他人事ではない痛ましい現実と、直面することになるのです。

そして、それは、きっとこれから、私たち全員が向き合わなければならない問題だと、僕は思いました。

二人は「ノロ」になり、島の歴史を知ることができるのか。
そして、それを拓慈に伝えるのか。
それは、本当に正しいことなのか。

葛藤に苦しむ中で出した彼女たちの答えに、胸が震える感覚を覚えました。

この物語は、三人の希望に溢れた成長物語でもあるのです。


我が身を持って、悲しい体験をされてきた、李琴峰さんだからこそ書くことができる、迫真の一冊。

きっと、すべての人の心に響くはずです。ぜひ読んでみてください。



今日も最後まで読んでいただきありがとうございました。
僕はあまりファンタジー小説は読まないのですが、個人的にこの物語はものすごく好きでした。
季節は「読書の秋」。この素晴らしい作品を読んで、有意義な時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。

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