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Moon Sick

24
月の不思議に取り憑かれている…。
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#月

Moon sick Ep. 24

Moon sick Ep. 24

あの日のことは今でも鮮明に思い出せる。
僕が、この長いMoon sick に関わることになった始まりは、あの日からと言ってもいいくらいだからだ。
 
それは、まるで例えるなら、すぐそこにあったのに、ずっと閉まっていたせいで、壁だと思っていた場所が、実は扉だったことに気付いたような衝撃だった。

僕が知らなかっただけで、実は、壁一つ隔てられた向こう側で、ずっと繰り広げられていた世界があったことを知っ

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Moon sick Ep.23

Moon sick Ep.23

次に気がついた時、姉の部屋のドアは開け放たれていて、姉の姿はどこにも無かった。

あわてて飛び起きて、家中を探し回ったが、姉はいなかった。まさかと思い、玄関に走っていくと、玄関先は開け放たれてあった。
庭に咲く白い花が、明るい暗闇の中で、不自然に開いていているのを目にした瞬間、ゾクリとした。「満月ね」と言っていた母の言葉を思い出したのだ。

全然気が付かなかった。
いつのまに、姉は外に出ていったん

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Moon sick Ep.22

Moon sick Ep.22

結論から言えば、姉に薬を飲ませることは叶わなかった。

その日、僕が部活から帰宅した時、もう姉は自室いた。台所には姉が用意したであろう夕食が置いてあった。

姉の部屋のドアを叩いて声を掛けてみたが返事がない。そっとドアを開けると、姉はもうベットに横になっていた。

「姉さん?」
返事はない。
「具合悪いの?」
これも返事はなかった。

眠っているのだろうか?
それにしても、眠るにしては早すぎないか

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Moon sick Ep.21

Moon sick Ep.21

一緒に暮らすようになってわかったことだか、僕らの母親は、会社で管理職についているらしく、出張で家を開けることや、深夜に帰宅することが多い人だった。

その日も、急な休日出勤をしなければならなくなったとかで、バタバタと出掛けるのを、玄関先で見送ろうとしていた時、ドアを開け放ったところで、急に振り返ってきた母親が、その場に、そぐわない言葉を口にした。

「そういえば、今日は満月だったわね」
「そうなの

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Moon sick Ep. 20

Moon sick Ep. 20

姉と僕は、幼い頃に両親が離婚してから、ずっと離れ離れで暮らしていた。

僕は父に、姉は母に引き取られていた。
父の葬儀の日に、ひさしぶりに顔を合わせた時には、別々に暮らすようになって、もう10年近く経っていたせいか、幼い頃のおもかげなんて、微塵も感じなかったし、血のつなががあるとはいえ、急に顔を合わせたばかりのこの成長した姉が、自分の姉なのだということに違和感しか感じなかった。

誰かに口にしたこ

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Moon sick Ep.19

Moon sick Ep.19

その後、しばらくすると講義と合わせて指導係となった先輩について、対象者の動向を監視する研修が始まった。

この対象者とは、月の記憶を持つとされる月人と言われる人々のことを指している。

指導係の先輩は、現役で対象者の監視を行っている職員があたり、監視役としての実習を行うのだと説明された。

まるで探偵のような仕事だなと思った……。
そんな仕事を満月が近づくたびに繰り返していた日々の中、対象者たちが

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Moon sick Ep.18

Moon sick Ep.18

研修期間は、3年ほどだった。
最初は、大学のような研修機関に通って講義を受けた。講義と言っても、普通の常識では理解しがたい内容ばかりで、それが3年にも及ぶのだから、研修期間で辞めていく同僚も1人や2人では無かった。

「これ、ちょっとヤバくない? 」
「あれマジで言ってんの?」
「イカれてるよ!」
「やってられない!」

それなりの倍率で入った機関のはずなのに、優秀な彼らは、そう言い残して、次々と

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Moon Sick Ep. 13

Moon Sick Ep. 13

「月では、地下に暮らしていたのよ」
「地下?」
姉が頷く。

「クレーターから、地下に続く通路があるのよ」
姉は、いつもこんな風に、まるで見てきたように話し始める。

「地下には、大気が作られる装置があったから、宇宙から月に降り注いでいる放射線を防ぐことも出来たのよ」

激しい気温差のある月の表面とは異なり、地下には太陽光発電システムのようなものが作動しており、常に快適な温度が保たれていたらしい。

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Moon Sick Ep.11

Moon Sick Ep.11

俺は、眠ることを諦めて起き上がると、ネットを立ち上げた。

ネットでは、半年ほど前に、月で見つかったという人工の建造物の話題に溢れていた。人が月へ旅行することが現実になる時代が、もうすぐそこまで来ていることを、だれもがなんとなく感じ初めていたころだっただけに、この話題は、驚き信じる者とどうせガセだろうと相手にしない者とが、きれいに分かれていた。

同じような話題、同じような報道を見聞きしているはず

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Moon Sick Ep.9

Moon Sick Ep.9

俺は、彼女をベランダに残したまま、部屋に戻った。気持ちを落ち着けようと、グラスにまだ残っていたアルコールを飲み干した。

姉の時のように、決定的な何かを言われた訳じゃない。だけど、彼女の言ったセリフは、何度か姉から聞いたことのあるセリフと同じ内容だった。

「月で暮らすと、人は小さくなっていく」
そんな話は、知らない。聞いたこともない。
姉以外からは…。

姉から聞いた月での話は、それだけじゃない

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Moon Sick Ep.8

Moon Sick Ep.8

「ねぇ、知ってる?」
天体望遠鏡を覗きながら彼女が聞いてきた。

「人類は、何度か、滅びと再生を繰り返しているって話…」急にどうしたのだろう?

「……聞いたことはあるよ。それがどうかした?」
彼女は、それに答えずに話し続ける。

「人は滅びが近づくたびに、別の星へと移住してきたの」
「うん…」
「だって、そうしないと、人が生き延びる術はなかったから…」
「うん…」
「そうなった時、人が、最初に目

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Moon sick  Ep.7

Moon sick Ep.7

「人には引力があるのですよ」
これは天文部の顧問の言葉だ。

「宇宙に行くとよくわかるのですが、例えば、この石を、手から離すと、石はあなたの周りを回り始めるのです。これは、あなたにも引力があるからです」
これは万有引力の話…。

「ただ、この地球上には、重力というものが存在しています。普段、この地球上では、あなたの引力よりも大きな重力の方が働いています」

夜の天体観測に集まった天文部のメンバーは

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Moon Sick Ep.6

Moon Sick Ep.6

それでも離れようとしない彼女の頭の上に、軽くキスをすると、ようやく彼女が顔を上げた。

もうすでにアルコールの入っている彼女の顔が赤く火照っている。目も少し潤んでいるように見える。その表情で俺の方を見上げてくるものだから、ぐっとこない男がいるだろうか?

俺は彼女の唇にキスをした。彼女が照れくさそうに笑う。俺は、もう一度、今度は、顎を支えて、きちんとしたキスをした。ほどなくして彼女の手が、首の後ろ

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Moon Sick  Ep.5

Moon Sick Ep.5

大学進学と同時に、家を出て、そのまま就職してから、姉と2人で顔を合わせる機会もめったに無くなると同時に、俺は、再び心穏やかな日々を取り戻していた。

いまや俺の周りにいる人間は、ほどよくモラルのある人ばかりで、友人、同僚、恋人の誰も、俺と2人きりだからと言って、姉のように月での話を語りだしたりはしなかった。

もう一度言おう。
俺は、心穏やかな日々を取り戻していた。

その時、チャイムの音がした。

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