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【未来の自分への手紙~北欧、暮らしの道具店「3年日記」を購入して】
「自分のためだけのものを買う」行為に、わりと抵抗がある。
食品や生活用品は、「なくては生きていけないもの」、いわゆる「不要不急」のもので、さほど罪悪感なく買える。果物やデザートなども、頻度さえ決めてしまえば、“たまにだしいいよね”と思えるようになった。本は、仕事に直結しているので、「仕事のため」「文章力向上のため」との建前が使える。実際には「ただ読みたいから読む」のだけど、自分に対する言い訳がき
【生きて朝を迎えたすべての人へ】
毎晩、叫んでいる。追いかけてくる悪夢が、私を過去へ引きずり戻す。逃げたい。そう思うのに、体が動かない。金縛りにあったみたいに、指一本動かせない。脳内で鳴り響く警笛アラームを、体がキャッチしてくれない。その矛盾に、ただひとり、絶望する。
言葉にならない声を喚き散らすたび、耳元で声がする。
「大丈夫、大丈夫だから。聞こえてるでしょ?」
その声を認識して初めて、金縛りが溶ける。馴染みの声を頼りに、
【アリ、時々キリギリス】
私の母は、美容院に行かない人だった。一本に縛った髪の毛を、ハサミで真横に切り落とす。私も何度か、その役目を任された。
ジョキン。
潔い音とともに、風呂場の床に母の長い髪の毛が散らばる。それらをかき集める最中、よく爪の間に髪の毛が刺さった。痛みよりもやるせなさを感じた理由が、当時はわからなかった。でも、今ならわかる。やるせなさを感じていたのは母で、私はそれを無意識化で拾い上げていただけだった。