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向暑はるの日常 2022年

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2022年の日常です。
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#思い出

小さな悪あがきを残してきた

小さな悪あがきを残してきた

8つ離れた弟が、この春高校生になった。

まだまだ高校生の頃の記憶に縛られている向暑はるは少しだけ恥ずかしくなったりする。

兄弟というのは似たもので、弟はこれまで続けてきたスポーツの道を外れて、新しく音楽の扉を開こうとしているらしい。

ベース借りていい?

とラインが来るまでは、スポーツを続けるものだと勝手に思っていた。

でも、かつて”相棒”と呼んでいたWarwickの音が再び聴けると思うと

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変化の中で生きるエンドロール

変化の中で生きるエンドロール

結局、帰りも家の近くまで送ってもらってしまった。

気づけば0時を回っていて、いつもの向暑はるなら夢を見ている時間である。

まだ心の中はふわふわとしていて、頭の中にはずっとソラニンが流れている。

ここまで送ってもらった彼に感謝の意を込めて、コンビニのカフェオレを奢った。

メガサイズはやりすぎたかもしれない。

自分の分も買って、コンビニの前で一息つくことにした。

カフェオレを口につけて、顎

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住み慣れた部屋はもう誰かのものになっていた

住み慣れた部屋はもう誰かのものになっていた

とりあえず大学を車で一周した。

見た目も雰囲気も何も変わっていなかった。

でももうこの”中”に入ることはないだろうし、ここの住人ではないことの現実を突きつけられた気がした。

たった4年間。だけど4年間。

時間の隙間を埋めてくれる場所だったと改めて知る。

正門を通ったけど、そこは何も感じなかった。

向暑はるの家は正反対にあったから、正門を潜って大学に行くことは一度もなかった。

今考える

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5年目の”別れた日”

5年目の”別れた日”

バレンタインの日に彼女と久しぶりに会った。

受験もひと段落して、やっと幸せなキャンパスライフと二人の時間を過ごせると思っていた。

先に受験を終えた彼女は、既に髪を茶髪に染めていて、東京へ物件探しに行ってきた直後だったらしい。

手作りのクッキーとお土産をもらった。

地元の小さなレストランで食事をして、卒業旅行の予定を立てようと思っていた。

食事が運ばれてきて、いただきますとご飯を口に入れよ

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思い出には青色のフィルターがかかっている

思い出には青色のフィルターがかかっている

机も椅子もないただ人が密集している教室。

酸素は薄いけど、窓ガラスは湿気で水滴ができていた。

ギターとベースの音の余韻が残っている中、マイクに向かって話し始めた。

そんな高校3年生の文化祭。

できれば人前で話したくないし、むしろ人前で話すことが苦手だから”音”に頼って言葉と気持ちをそこにぶつけていた。

それにMCで時間を稼ぐならその分”音”を鳴らしていたかった。

それでも目の前にマイク

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大学生活はもう過去の話

大学生活はもう過去の話

”ズッコケ3人組”

そんな呼ばれ方をし始めたのは、まだ大学に入って半年も経っていないある夏の日。

大学に入って一番の問題はとにかくお金がなかったこと。

親に無理を言って学費を払ってもらったので、生活費はわずかしか貰えなかった。

だから向暑はるは入学式の次の日くらいに、一人暮らしの家から比較的近いファミレスでアルバイトを始めた。

そのような同じ考えを持つ人が向暑はる以外に二人もいた。

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