縹色

忘れないうちに書き留めるための記録帖です。本、展覧会、旅先でのあれこれなど。

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忘れないうちに書き留めるための記録帖です。本、展覧会、旅先でのあれこれなど。

記事一覧

お醬油をまあるくまわして

 おべんと御飯(煎り卵ともみ海苔の混ぜ御飯)か、猫御飯(おかかと海苔を御飯の間に敷いたもの)であれば、私は嬉しい。そこに鱈子、またはコロッケがついていたりすれば…

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3年前
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枇杷だったんだなあ

「こういう味のものが、丁度いま食べたかったんだ。それが何だかわからなくて、うろうろと落ちつかなかった。枇杷だったんだなあ」  徹夜をしたあと、いましがたまで書い…

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3年前

10. The Church Triumphant

(E.H.Gombrich/The Story of Art) -The thirteenth century - フランス北部でゴシック様式が誕生。梁の架け方が変わることで大きな窓を作ることが可能になる。これが美し…

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3年前

9. The Church Militant

(E.H.Gombrich/The Story of Art) -The twelfth century -ノルマン・コンクエストと十字軍で建築様式が一変、東方教会の表現技法も入ってくる -当時、たとえば村の中で…

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3年前
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無口な幽霊たち

でもたとえ大きな樹木がなくても、茫漠と広がる溶岩台地がどこまでも苔の緑に包まれ、あちこちに小さな寒冷地の花が可憐に咲いている様は、なかなか美しいものだ。そういう…

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4年前
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‘Makes you glad to be alive.’

(Salley Vickers/The Librarian) イギリスの小さな町の図書館で、児童書コーナーを担当することになった新米司書の物語。 ご当地ものが出てきたり(学芸会に「真夏の夜の…

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4年前
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恵みの雨かもしれなかった

原田マハさん「デトロイト美術館の奇跡」。 目の前にするたびに、心がさざめくような、同時にどこまでも静かになるような。そんな作品があることのよろこび。作品じゃなく…

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4年前
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海に帰る

やがて大きな波が来て、子ガメは一度で上手に波に乗り、海に入っていく。波が引いたときにはもう子ガメの姿は見えない。カメは海に帰っていったのだ。それはいかにも、海が…

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4年前
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Midnight Blue

(Simone van der Vlugt/Midnight Blue) 昨秋、スキポールで思わず手に取った本をやっと読んだ。17世紀、黄金時代のオランダを舞台に、美術好きにはたまらないシーンがち…

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4年前
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8. Western Art in the Melting Pot

(E.H.Gombrich/The Story of Art) -Europe, sixth to eleventh century -ローマ帝国の衰退に続く「暗黒時代」。 -修道院等を中心に文化再興が試みられるが、蛮族の侵入…

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4年前
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BUTTER

オススメされて手に取った柚木麻子さんの「BUTTER」。実際の事件をベースにした小説ということでどんな展開になるかと読み進めると、自分の年代にグサグサ刺さる内容だった…

縹色
4年前
2

7. Looking Eastwards

(E.H.Gombrich/The Story of Art) -Islam, China, second to thirteenth century -イスラム教では偶像崇拝を禁止したため、アラベスク模様で世界観が表現された。なるほ…

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4年前
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6. A Parting of Ways

(E.H.Gombrich/The Story of Art) -Rome and Byzantium, fifth to thirteenth century -現在も目にするいわゆる「教会」の形が登場。たくさんの人を収容できるための議事…

縹色
4年前
1

そこは、まさしく楽園

原田マハさんの「楽園のカンヴァス」を久しぶりに読みたくなって、一日どころか数時間で一気読み。やっぱりおもしろい! ガートルード・スタインの「アリス・B・トクラス…

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4年前
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5. World Conquerors

(E.H.Gombrich/The Story of Art) -Romans, Buddhists, Jews and Christians, first to fourth century AD -ローマ人の道はすごい、あとアーチ状の建築を生み出したこと…

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4年前
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山のキャラメル

目標はただひとつ、昼までに山頂にたどり着いて弁当を食べること。それを楽しみに、少々くたびれても汗だくになりながら登る。そして途中で何度か見晴らしのよいところで腰…

縹色
4年前
1

お醬油をまあるくまわして

 おべんと御飯(煎り卵ともみ海苔の混ぜ御飯)か、猫御飯(おかかと海苔を御飯の間に敷いたもの)であれば、私は嬉しい。そこに鱈子、またはコロッケがついていたりすれば、ああ嬉しい、と私は思う。そのほかでは・・・梅干のまわりの薄牡丹色に染まった御飯粒と、沢庵のまわりで黄色く染まった御飯粒。その一粒一粒。

 家の近い生徒は、都合でお昼を食べに帰ってもよいことになっていた。「食べ」といった。校門から「食べ」

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枇杷だったんだなあ

「こういう味のものが、丁度いま食べたかったんだ。それが何だかわからなくて、うろうろと落ちつかなかった。枇杷だったんだなあ」
 徹夜をしたあと、いましがたまで書いていた原稿があがったところでした。長椅子に横臥して、枇杷の入った鳩尾に手を置いて、柔らかい顔つきになって、すぐ眠りはじめました。

(武田百合子/枇杷)

 今年六月、初めて食べた枇杷の味を思い出す。指先をつたった、さわやかでほの甘い香りも

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10. The Church Triumphant

(E.H.Gombrich/The Story of Art)

-The thirteenth century

- フランス北部でゴシック様式が誕生。梁の架け方が変わることで大きな窓を作ることが可能になる。これが美しいステンドグラスになる

-大聖堂を囲む彫像も、単なる聖書のシンボルの具現化に留まらず自然な表情、仕草を持つように。身体に沿った衣服のひだも復活。

-しかし五世紀のギリシャ彫刻で

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9. The Church Militant

(E.H.Gombrich/The Story of Art)

-The twelfth century

-ノルマン・コンクエストと十字軍で建築様式が一変、東方教会の表現技法も入ってくる

-当時、たとえば村の中で石造りの建築物は教会だけだった。圧倒的な/拠り所としての存在、村の象徴

-自然に即した表現よりも、教えを浸透させるために宗教的な象徴をいかに織り込むかが制作の要となる

No co

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無口な幽霊たち

でもたとえ大きな樹木がなくても、茫漠と広がる溶岩台地がどこまでも苔の緑に包まれ、あちこちに小さな寒冷地の花が可憐に咲いている様は、なかなか美しいものだ。そういう中に一人で立っていると、時折の風の音のほかには、あるいは遠いせせらぎの音のほかには、物音ひとつ聞こえない。そこにはただ深い内省的な静けさがあるだけだ。そういうとき、我々はまるで、遠い古代に連れ戻されてしまったような気持ちになる。この島には無

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‘Makes you glad to be alive.’

(Salley Vickers/The Librarian)

イギリスの小さな町の図書館で、児童書コーナーを担当することになった新米司書の物語。

ご当地ものが出てきたり(学芸会に「真夏の夜の夢」、お茶請けにdigestive biscuits)、言い回しがコテコテのイギリス英語だったりでそれだけで楽しい。

やっと四分の一くらい読んだところ、これからどうなっていくのかな。

‘Actually

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恵みの雨かもしれなかった

原田マハさん「デトロイト美術館の奇跡」。

目の前にするたびに、心がさざめくような、同時にどこまでも静かになるような。そんな作品があることのよろこび。作品じゃなくてもいい、場所でも音楽でも、自分を元気にしてくれるもの。

美術館の扉がまた開かれるのが、自由にのんびり出掛けられるようになるのが、待ち遠しい。それまで本を読みながら、自分の場所でできることをしていよう。

 もう何度、この絵の前に佇んだ

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海に帰る

やがて大きな波が来て、子ガメは一度で上手に波に乗り、海に入っていく。波が引いたときにはもう子ガメの姿は見えない。カメは海に帰っていったのだ。それはいかにも、海が海に生きるものを迎えに来たという感じであった。
(若菜晃子/旅の断片 より)

カメの一生がはじまる満月の夜を描いたシーンがなんだか胸に響く。私たちが海に帰るとき、どうかその波は穏やかであってほしいと思う。でも自然が、病いが、どんな波を寄越

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Midnight Blue

(Simone van der Vlugt/Midnight Blue)

昨秋、スキポールで思わず手に取った本をやっと読んだ。17世紀、黄金時代のオランダを舞台に、美術好きにはたまらないシーンがちらほらと。オランダ版の原田マハさん的な作品です。

予想以上に波乱万丈、ミステリータッチでどきどきさせられた。全部を詰め込めるかわからないけれど、とにかく現地で映画化してほしい。当時の盛り上がりや世相を

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8. Western Art in the Melting Pot

(E.H.Gombrich/The Story of Art)

-Europe, sixth to eleventh century

-ローマ帝国の衰退に続く「暗黒時代」。

-修道院等を中心に文化再興が試みられるが、蛮族の侵入・度重なる戦禍により空に帰する。

-勢力を拡大する「蛮族」が好んだ、絡み合うドラゴンといった魔除け的な装飾。

-イングランド・アイルランドではこの装飾をキリスト教の

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BUTTER

オススメされて手に取った柚木麻子さんの「BUTTER」。実際の事件をベースにした小説ということでどんな展開になるかと読み進めると、自分の年代にグサグサ刺さる内容だった。そして読ませる文章。最後はもう一気に読んでしまいたくて、寝不足覚悟で深夜三時、ページをめくり続けた。

完璧な大黒柱なんて母も里佳も求めていなかったのに。中学は私立でなくても良かった。母も働く気は十分にあった。家族に向き合ってくれる

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7. Looking Eastwards

(E.H.Gombrich/The Story of Art)

-Islam, China, second to thirteenth century

-イスラム教では偶像崇拝を禁止したため、アラベスク模様で世界観が表現された。なるほど!

-中国の絵画では流れるようなカーブが好まれた。たなびく布や魚の尾ひれなど、動きもなめらかに表現された。

-仏教で何よりも重視された瞑想。それに呼応して、

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6. A Parting of Ways

(E.H.Gombrich/The Story of Art)

-Rome and Byzantium, fifth to thirteenth century

-現在も目にするいわゆる「教会」の形が登場。たくさんの人を収容できるための議事堂/集会所型になったという解説に、なるほど。確かに教会はホールだ。

-教会の中に置くものとして、教義に触れるので彫像はNG。神はギリシア美術で作られていた

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そこは、まさしく楽園

原田マハさんの「楽園のカンヴァス」を久しぶりに読みたくなって、一日どころか数時間で一気読み。やっぱりおもしろい!

ガートルード・スタインの「アリス・B・トクラスの自伝」も読みたいな。

 ひょっとすると私は、アートばかりを一心にみつめ続けて、美と驚きに満ちたこの世界を、眺めてはいなかったんじゃないのだろうか?

 学生時代に、夢中になって読んだ。繰り返し読んでは、夢をみていた。この時代に生きてい

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5. World Conquerors

(E.H.Gombrich/The Story of Art)

-Romans, Buddhists, Jews and Christians, first to fourth century AD

-ローマ人の道はすごい、あとアーチ状の建築を生み出したこともすごい

-ギリシアのヘレニズム文化で「理想化された美」が花開いたが、ローマ帝国と発展と各宗教の広まりの中で皇帝の肖像や自軍の勝利、教義

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山のキャラメル

目標はただひとつ、昼までに山頂にたどり着いて弁当を食べること。それを楽しみに、少々くたびれても汗だくになりながら登る。そして途中で何度か見晴らしのよいところで腰をおろして休む。背負っていたリュックをおろし、水筒の茶を飲み、リュックのポッケからキャラメルをとり出して食べる。四角い包み紙をむいて口に放り入れ、遠くまで山々が連なる景色を眺めながらゆっくり味わう。
(牧野伊三夫/かぼちゃを塩で煮る)

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