無口な幽霊たち

でもたとえ大きな樹木がなくても、茫漠と広がる溶岩台地がどこまでも苔の緑に包まれ、あちこちに小さな寒冷地の花が可憐に咲いている様は、なかなか美しいものだ。そういう中に一人で立っていると、時折の風の音のほかには、あるいは遠いせせらぎの音のほかには、物音ひとつ聞こえない。そこにはただ深い内省的な静けさがあるだけだ。そういうとき、我々はまるで、遠い古代に連れ戻されてしまったような気持ちになる。この島には無人の沈黙がとてもよく似合っている。アイスランドの人々は、この島には幽霊が満ちているという。でももしそうだとしても、彼らはとても無口な幽霊たちなのだろう。
やがてオーロラは、言葉がもつれて意味を失っていくみたいに徐々に薄らぎ、そして暗闇に吸い込まれるように消えた。僕はそれが消えてしまうのを確かめてから、暖かいホテルの部屋に戻って、夢も見ずにぐっすりと眠った。

(村上春樹/緑の苔と温泉のあるところ)

その静けさを想像してみる。アイスランド、いつか行ってみたい。

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