枇杷だったんだなあ

「こういう味のものが、丁度いま食べたかったんだ。それが何だかわからなくて、うろうろと落ちつかなかった。枇杷だったんだなあ」
 徹夜をしたあと、いましがたまで書いていた原稿があがったところでした。長椅子に横臥して、枇杷の入った鳩尾に手を置いて、柔らかい顔つきになって、すぐ眠りはじめました。

(武田百合子/枇杷)

 今年六月、初めて食べた枇杷の味を思い出す。指先をつたった、さわやかでほの甘い香りも。

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