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【エッセイ】『星の王子さま』で死ぬほど好きな真理とその名言2

本エッセイは『星の王子さま』に登場する何気ないセリフから真理を汲み取ってみようと試みるNOTEです。前回、『星の王子さま』で死ぬほど好きな真理とその名言においては2つの真理(”探し物”、”関係性”)について見てきましたが、今回は触れていなかったもう1つの真理について取り上げたいと思います。よろしければ最後までお付き合いくださいませ。

”贈り物”の真理とその名言

「水は心にも良いかもしれないな。」
『新訳 星の王子さま』より

これは作中で水を探し求めて砂漠を歩いている時に王子さまが呟いたセリフです。この何気ない名言にひとつの真理が隠されていた(と感じた)ので、個人的な解釈を以下に書き記していきます。

まず、王子さまが水を飲むに至るまでには紆余曲折がありました。飛行士との出会いがあって何日かが経ち、その間に水は減り続け、ついには無くなってしまいました。王子さまは「井戸を探そう」と飛行士を誘い、2人は当てずっぽうに砂漠を歩き出します。途中、王子さまは歩き疲れたせいなのか眠ってしまいます。そこで、飛行士は王子さまを両腕で抱えて、夜中も井戸を探し続けました。そして、夜明けにようやく井戸を見つけます。重い釣瓶を王子さまが引っ張り上げられないと察した飛行士は代わりに水を汲みあげて飲ませてあげました。そして、その後に飛行士自身も水を飲みます。

この一連のシーンについてそのままドライに受け取れば、2人が水を探して飲んでいるだけのつまらないシーンにしか映りません。そう捉えることは、近場にある蛇口をひねって出てきた水を飲むことと本質的には同じです。ですが、飛行士はこの時の水を”ごちそう”とか”贈り物”という風に形容しています。このことは、贈り物にはモノ本来の価値に加えて、相手との関係性や共に過ごす時間など、贈り物が手渡されるまでの物語が上乗せされることでより大きく価値を増すという真理を表していると考えられます。

こんな風にして、水は飛行士から王子さまへと贈られました。ですが、話はこれで終わりではありません。後に、飛行士は大好きな王子さまの笑い声をリクエストして、別れる直前に王子さまからその贈り物を受け取ります。粋な贈り物の交換が済むと、王子さまは水を泉に、笑い声を鈴になぞらえて「飛行士は五億の鈴を持つし、王子さまは五億の泉を持つことになる」と言います。「水は心にも良いかもしれないな。」の真意は2人の関係構築を媒介するモノという意味で水は心に良い、と呟いたのだと予想されます。

”贈り物”・”探し物”・”関係性”の真理の三位一体化

”五億の鈴”や”五億の泉”の”五億”は宇宙にある無数の星を意味しています。”探し物”の真理でも綴ったように、そのうちの1つが地球であり、王子さまの星です。星空を眺めると相手の星はどこにあるんだろう?と探した時、全ての星が当たりかもしれないという希望が、鈴や泉がたった1つだけではなくて五億もあるかのように見え方が変わるのです。お互いの贈り物に共に過ごした時間が乗っかり、星を見ればその時のことが思い起こされて自然と笑みがこぼれるに違いない、と王子さまは言います。

これは物語中盤において、きつねと王子さまが関係を作り、贈り物をするという構図(下掲)と同じことに気づかされます。その時は(リード)きつね×(ゲスト)王子さまの関係でしたが、王子さまと飛行士との間では(リード)王子さま×(ゲスト)飛行士という風にリードする側が逆転します。まるで、関係を作るリレーを見ているかのようですね。

関係作りの相関図
          リード   ×   ゲスト  ()内は贈った物
――――――――――――――――――――――――――――――――――             きつね   ×   王子さま
 (肝心なことは目には見えない)  (金髪;麦畑の色)

――――――――――――――――――――――――――――――――――王子さま  ×   飛行士
      (笑い声;五億の鈴)  (水・井戸;五億の泉)
――――――――――――――――――――――――――――――――――

物語の終盤、飛行士と王子さまは離れ離れになってしまいますが、飛行士は窓から星を眺めることで、一緒に過ごした時間のことや、2人が確かに友達関係を作ったことを思い起こします(が、飛行士からすれば心に抜けない楔を打ち込まれたと言ってもいいかもしれません)。このことから、贈り物というのは想像以上に2人の関係を強固に結びつけるモノであるということが分かります。

物語が上乗せされることでより大きく価値を増す”贈り物”の真理に加えて、探すことによってフィールド全体が美しく見えるようになる”探し物”の真理、そしてより深い関係であるほど最後のお別れの時に深い悲しみに打ちのめされる”関係性”の真理とが三位一体となり、計り知れないほどの神秘性が読者の心の琴線に触れることでしょう。クライマックスでこれが展開していることに気づいた時には、原作者はとんでもないものを仕込んでいたんだな、と物語自体の構造に改めて感動しました。

このような感じで、作中には自分が見落としている未発見の真理がまだ見つかると思っていますので、見つかったらまたエッセイを書くことにいたします。最後に、このNOTEの内容は飽くまでも私の自分勝手な解釈であり、正しいかどうかは全然分からないということをお断りしておきます。ここまで読んでいただきましてありがとうございました ( 'ω' )

おまけ:他、作中で気づいたこと

①「ヘビが二回目に噛みつく時には毒がそれほどない」と王子さまが言った理由
追いかけてきた飛行士がヘビに噛まれたとしても死にはしないだろうと安心したから、と予想されます。これになかなか気づけなかったのは鈍感すぎる気がします。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
②王子さまと飛行士が出会った直後「花(バラ)と羊の戦いなんてどうでもいい」と言っていた飛行士が離れ離れになった後に「羊がバラを食べたか食べなかったかで世界は全然違って見える」という対比
物語本編はここから始まり、ここで終わった、という重要な部分。関係を作る前後での飛行士の感じ方の変化がとても顕著ですが、個人的には飛行士は王子さまに病理的に心酔しているように感じられますね。

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