芳賀ゆい

エッセイを書いたり、読書したりするのが好きな芳賀です。 いつかエッセイストになれたらな…

芳賀ゆい

エッセイを書いたり、読書したりするのが好きな芳賀です。 いつかエッセイストになれたらな...なんて夢見ています。 創作大賞2024に参加するために開設したので、投稿少ないです。 6月1日から末まで、書き下ろし。他エッセイ公募にも励んでいます。 気ままにお届けします。

記事一覧

特別なコーラ

 1.5L入る水色の水筒に、なみなみとコーラを入れたら、自転車のカゴに放り投げて、立ち漕ぎでちからいっぱい坂をのぼる。  まがりくねった地下道や、陸橋を越えるたびに…

芳賀ゆい
7日前
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誕生日、ヤギ小屋を食べる

 そろそろコースも終わりに近づいてきた頃、スタッフさんがまた惑星のごとくテーブルの隙間を縫って近づいてきた。  しかし今回はコロコロ転がった荷台も一緒だ。そこに…

芳賀ゆい
2週間前
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あさりの味噌汁で彼の心を

なんか、なまぐさい。 私は血の気がひいて、変わりに背中から脂汗がどっと出た。 たたたたっと台所に駆け寄り、がばっと開けたシンク下の戸棚には、昨夜仕込んだ鍋から異…

芳賀ゆい
3週間前
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アボカド農園のゆめ

スーパーで買ってたべたアボカドのタネを水にひたして数週間、ある日突然ぴきき、と大きなタネがまっぷたつに割れて中からにょきにょき、とかわいらしい小さな芽がでてきた…

芳賀ゆい
3週間前
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黒くてでかいリュックを背負った女

黒くてでかいリュックを背負った女は、たいてい疲れた顔をしていることに気づいたのは、かれこれ2週間ほど前のことだった。 そしてわたしはその中のひとりであった。思い…

芳賀ゆい
3週間前
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さびしい日には、らーめんをたべる

 ひとりの時間はらーめんが食べたくなる。ふくろに入った、家での鍋でらくらく作れるタイプがお気に入りだ。  ひとりの時間は寂しい。  まいにち人と顔を合わせて暮ら…

芳賀ゆい
4週間前
8

かっこいいかます

 ひょろい男の隣には自分が太く見えるから並びたくもないだとか、あいつはブスのくせにいい匂いがするだとか、歩くたびにちゃりちゃり音がなる男が学科内にいるらしい、な…

芳賀ゆい
1か月前
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特別なコーラ

特別なコーラ

 1.5L入る水色の水筒に、なみなみとコーラを入れたら、自転車のカゴに放り投げて、立ち漕ぎでちからいっぱい坂をのぼる。

 まがりくねった地下道や、陸橋を越えるたびに、カゴに水筒ががこっ、ぶっこん、とあたるから、時よりその水筒が宙を舞った。

 そんな調子で運ぶもんだから、大体はふりにふられた水筒の中でコーラもじゃっぽん、じゃっぽんと波打って炭酸はどんどん抜けていくのだけれど、小学生のわたしはその

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誕生日、ヤギ小屋を食べる

誕生日、ヤギ小屋を食べる

 そろそろコースも終わりに近づいてきた頃、スタッフさんがまた惑星のごとくテーブルの隙間を縫って近づいてきた。

 しかし今回はコロコロ転がった荷台も一緒だ。そこにあったのは、まるで重要文化財のようにガラスケースに保護された、色とりどり、形も様々なチーズであった。そのチーズの美しさはまるで宝石のようで、数えてみると、9種類もある。

 私と彼は、高級レストランに来ていた。
リッチマンなのではない。彼

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あさりの味噌汁で彼の心を

あさりの味噌汁で彼の心を

なんか、なまぐさい。

私は血の気がひいて、変わりに背中から脂汗がどっと出た。
たたたたっと台所に駆け寄り、がばっと開けたシンク下の戸棚には、昨夜仕込んだ鍋から異臭が漂っている。

いや、漂うなんてぬるいものではない。この鍋が明らかに臭いの震源であり、私の皮膚や鼻が、これは緊急事態です、と本能レベルで危機を察知した。この鍋の蓋をとったら、どんなお腐れ神がいるのだろうと想像し、つばを飲む。

おそる

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アボカド農園のゆめ

アボカド農園のゆめ

スーパーで買ってたべたアボカドのタネを水にひたして数週間、ある日突然ぴきき、と大きなタネがまっぷたつに割れて中からにょきにょき、とかわいらしい小さな芽がでてきた

これがわたしのお気に入りの観葉植物、アボカド。オーガスタや、パキラやガジュマルも好きだけれど、いちばん好きなのはスーパーで買ったアボカドなのだ。

実に安い女である。しかしどうせ怠けてダメにしてしまうくらいなら、たべたついでに育てるぐら

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黒くてでかいリュックを背負った女

黒くてでかいリュックを背負った女

黒くてでかいリュックを背負った女は、たいてい疲れた顔をしていることに気づいたのは、かれこれ2週間ほど前のことだった。

そしてわたしはその中のひとりであった。思い返せば私自身、たいてい疲れた顔をしていたと思う。

黒くてでかいリュックは、すごく便利だ。一度使うとその他バッグを使えなくなるほどの不思議な魔力をもっている。

全てを飲み込む黒色は、少々飲み物をこぼしても受け止めてくれる寛容さがあるし、

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さびしい日には、らーめんをたべる

さびしい日には、らーめんをたべる

 ひとりの時間はらーめんが食べたくなる。ふくろに入った、家での鍋でらくらく作れるタイプがお気に入りだ。

 ひとりの時間は寂しい。

 まいにち人と顔を合わせて暮らしていると、急なひとり時間のさびしさに、すこしずつ体温が下がるような気がする。そんな時、わたしは決まってコソコソとらーめんを食べてしまう。

 しょっぱくて、あたたかくて、食べた後に思わず(ふう)と言いたくなる。やりきったぞ、と一つ仕事

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かっこいいかます

かっこいいかます

 ひょろい男の隣には自分が太く見えるから並びたくもないだとか、あいつはブスのくせにいい匂いがするだとか、歩くたびにちゃりちゃり音がなる男が学科内にいるらしい、なんていう都市伝説じみた話題までとにかく大学時代の女子会では異性の容姿に関する話題が多かった。その度に私はどう参加したらいいだろうと内心焦っていた。

 今思えばひどい話だ。しかし大いに盛り上がっていた。容姿に関する話題は必ずと言っていいほど

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