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【システム導入編10:ベンダ選びのポイント② 〜本音言ってもらえていますか?〜】

本マガジンの過去投稿は上記に入れています。

本マガジンは、ものづくりの現場でシステム導入する場合のポイントについて解説するシステム導入編です。工場のIoT推進部に配属された清史朗は、あるプロジェクトの担当になりますがなかなかうまくいっていません。そこに新米課長の紫耀もサポートに入って指導しながら、奮闘していきます。細川義洋氏著「システムを「外注」にするときに読む本」の内容を学びながら自分の立場にでどうすべきかを考えていきます。これまで要件定義と業務フロー図の作成について、そして、発注者として責任・姿勢を学んできました。そして、どうベンダを選んでいくべきかを学んでいきます。今回は、第3章「失敗しないベンダの選び方」を解説します。

・・・・・・・

🧒:おはよう。

👶:おはようございます。前回、聖徳エンジニアリングはリスク管理はほぼ完ぺきにできているだろうというところで終わりました。ただ、それでもまだ評価は終わらないといったところだったと思います。他にどんなチェックが必要なのでしょうか?

◆発注側の要件変更に対して納期延長を求めるベンダは〇か×か。

🧒:まああわてるな。3章の続きを見ていこう。ある日、美咲さんと白瀬さんはエブリエブリのシステム担当者多とに混ざって、無人店舗管理システムの要件打ち合わせに出席したんだ。その時聖徳エンジニアリングさんからは、プロジェクトマネジャーの伊藤さんが参加した。ここから、美咲さんはちょっと意地悪な質問を彼に繰り返していく。

👶:意地悪?

🧒;そうそう。こんなやりとりだ。伊藤さんの質問から始まる。

伊藤:「今週までにご回答をいただけるとうかがっておりました、システムに登録する商品情報の詳細項目についてですが…」
美咲:「まだよ」
伊藤:「えっ? まだ、ですか?」
美咲:「ええ。もう少しだけ待ってくれる?」
伊藤:「しかし前回のお話では、登録する商品情報の詳細は本日までに必ず決めていただけ。ると」
美咲:「そんなこと言われたって、決められなかったんだからしょうがないじゃない。大変なのよ。あっちの部署、こっちの部署って調整して歩くのも」
伊藤:「それはそうかもしれませんが、スケジュールのほうも、すでに3週間ほど遅れておりますから、これ以上は……」
美咲:「なんとかしなさいよそれくらい。アンタ、プロマネなんでしょ?」
(中略)
美咲:「リリースは3か月後。これは譲れないわ」
伊藤:「し、しかしこの状態では、どうやってもスケジュールを守れません!」
美咲:「そんなの、人を足すでもなんでもすればいいじゃない」
伊藤:「いえ、弊社も今はあちこちのプロジェクトで人を取られておりまして……」
美咲:そんなのそっちの都合でしょ。ウチの知ったこっちゃないわ。いい? これは請負契約なのよ。オタクの工数がどうこうなんて、ウチには関係ない!」

👶:え?なんですかこれ?ちょっとありえなくないですか?聞いてるこっちが頭に来ちゃいますが。最低な発注者の態度ですね。

🧒:そうだよな。まあ、小説だからこう書けるけど実際にこんなこと言ったらチームは壊れるわな。でも、まあこの話の中ではわざと美咲さんはこうしている。反応を見ているんだね。

👶:そうなのですか・・・。

🧒:そして、こう続くんだ。

伊藤:「お話はわかりました。ただ、この状況ですと、どうしてもスケジュール、体制、それに費用についても再度、検討させていただく必要がございます」
美咲:「なんですって? スケジュールが守れないうえに、金までよこせってどういうこと?」
伊藤:「申し訳ございません。しかし弊社といたしましても、要件定義のメンバーを予定外に貼り付けておくにはそれなりの費用が発生します。また、すでに作成している運用画面についても手戻りが発生します。江里口(美咲)様、これはベンダにとっての権利ではなく、義務です。」
美咲:「義務?」
伊藤:「はい。理由はどうあれ、プロジェクトが計画通りに進まないなら、何らかの是正措置を提案すること。その際に費用が発生するなら、正しく見積もること、結果としてお客様がそれを受け入れてくださるかどうかは別にして、とにかくそうした提案と見積もりを行なうこと。これを怠ったベンダは、プロジェクト管理義務違反に問われます。」
美咲:「プロジェクト管理義務違反?」
伊藤:「はい。これに違反すると……つまり、ベンダが何の提案も見積もりも出さずに、結果プロジェクトが失敗した場合、損害賠償の対象になるということです」
美咲:「ふーん。そうなの。いいわ。見積もりくらいいくらでも出せばいい。それをウチが受けるかどうかは別問題でしょ?」
伊藤:「もちろんです。ありがとうございます。3日後にはお持ちできると思いますので、ご検討ください」

👶:いやー腹立ちますね。伊藤さんすごい。こんな攻撃によく耐えますね・・。

🧒;ね。本当に紳士的だよね。そして、正直に伝えている。こういう対話形式で記載してもらうと緊張感も伝わるよね。この緊張感でベンダ側の事情、伝えなければならないことを伝えるってすごい能力だと思うね。

👶:ところで、この反応は評価においてはどうだったのでしょうか?

🧒:及第点との美咲さんの判断だ。

👶:確かに無茶苦茶いってくる発注者に対して、なんでも「はい」では、危機管理ができていないということになりますよね。

🧒:てか。あれ?前回”言うことを聞かないベンダは使えない”っていってなかったっけ?

👶:あ。。。オーマイガー。いっていました。。そゆことですか。。反省します。無茶苦茶言っているのは私でしたね。

🧒:いいかい。きちんとベンダ側も伝えなければならないし、発注者側もベンダが提示する変更計画や追加見積を受け取って話を聞く度量が必要なんだ、ここで大事なのは、話を聞くということだ。話を聞くと受け入れるは別だ。じっくり話を聞いて、客観的に受け入れる部分を決めていかなければならない。

◆そのベンダは「言いにくいこと」を伝えてくれますか?

👶:しかしながら、これで聖徳エンジニアリングのプロジェクト管理は合格ということになるのでしょうか?

🧒:一番大事なところが残っている。

👶:一番大事なところ?

🧒:リスク管理だ。

👶:リスク管理は帳票含めて確認していたじゃないですか?それに閾値の設定や監視。問題が起きた時の対応の整理など。前回見ましたよね?

🧒:そうだね。すべてのリスクについてその通り管理してればいいんだけどそんなすべてうまくいかない、実際に始まって、何か不測の事態が起きても全部は見せない可能性がある。

👶:ん?どういうことですか?何か隠しているとでも?

🧒:そう。すべてのリスクを開示して管理することはほとんどのベンダが躊躇するんだ。

👶:じゃあ、伝えてくれって言えばいいじゃないですか?

🧒:そう簡単にいくものではないんだよ。

👶:そうなのですか。

🧒:いいかい、ここからが大事だ。プロジェクト管理において、発注者が専門家であるベンダに対して求めることやプロジェクトを進めるために必要なことはすべて「リスク管理」に当たる。プロジェクトを円滑に進めるのを妨げる危険があるものはすべて洗い出し、ユーザーとベンダが協力して解決するか、未然に防がなければならない。

👶:はい。その通りだと思います。

🧒:しかし、ベンダの中には、全てのリスクを開示しない会社が多い。特に番だが自分たちの内部で解決すべき問題については発注者に明かさず抱え込むケースが多い。もしそれを抱え込んでしまって、時間が経つとプロジェクトは高い確率で危機に陥る。

👶:でもそれってベンダ側の問題では?

🧒;それはちがう。ベンダがリスクを開示しなかってことで困るのは、何も知らされず、ある日突然「実は・・」と打ち明けられる発注者側なんだよ。

👶:なるほど。話は戻しますが、聖徳エンジニアリングはどうなのですかね?

🧒;白瀬さんは、バーに伊藤さんと飲みに行って話を聞くんだ。そうすると、プロジェクトで自分(ベンダ側)が困っていることがあれば、きちんと客に伝えると言っているんだ。例えば、メンバーが病気になったとか、スキルが足りない、情報やツールが足りない、実施してみたが現実うまくいかないとかね。

👶:おー。それはいいですね。

🧒:ただ、それでもすべての客がベンダのリスクを真剣に考えてくれるわけじゃないと言っているけどね。それでも伝えると。そして、それは個人として言っているのではなく、会社でそう教えられているといういんだ。こういうことを言ってもらう関係性を築かなければならない。

👶:ということは。

🧒:そう。これが最も大きなリスク管理で、聖徳エンジニアリングに対する評価は合格ということになったんだ。

👶;おーおめでとうございます。

◆プロジェクトチーム内での心理的安全性の確保

🧒:これで3章は終わりなんだけど、最後に一つだけ言っておきたいことがある。この話ってさ、心理的安全性がチームとしてベンダとユーザー側が構築出来ているかって話しなんだよね。会社は異なっても、いかに価値観を共有するか、お互いを受け入れるか(存在価値を認めあうか)ということなんだと思う。結局、心理的安全性が確保されていなければ、リスク開示をしにくい。仮に開示しても跳ね返されてしまうということが起きるんだと思う。つまり心理的安全性の確保はここでもパフォーマンスに影響してくるんだ。そして、その確保は発注側が心掛けることが重要だと思うよ。ベンダ側からはできないよね。

👶:はい。わかりました。肝に銘じます。

・・・・・・・・・・

 今回は、発注者とベンダの関係性について解説しました。どんな完璧に計画していても不測の事態はお互いで起こるし、それをチームとして乗り越えようという体制に持っていけるかがプロジェクトの肝になってくると思います。いかに言いにくいことを言ってもらって一緒に悩むか。それを発注者側から積極的に行う。それも成功確率を上げる一つの要因だと思います。(ほんとうにひどいベンダでは困りますが。)
 次回は第4章「社内の協力を得るために」を解説させてもらおうと思います。(本マガジンでは第5章、7章は割愛予定。)ぜひ、スキ・フォローよろしくお願いします!

また、下記の固定記事に、このnoteのコンセプト、これまでのマガジンについて解説しています。

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