マガジンのカバー画像

パン職人の修造 1〜55話 江川と修造シリーズ

58
パン職人の修造 江川と修造シリーズです。 口数は少ないがパンにかける情熱は人一倍の田所修造と、明るくてみんなに好かれるが実は人一倍頑固者の江川卓也がパン作りに挑戦していきます。各… もっと読む
運営しているクリエイター

記事一覧

固定された記事
パン職人の修造 江川と修造 初めに

パン職人の修造 江川と修造 初めに

パン職人の修造は、口数の少ない主人公の田所修造(たどころしゅうぞう)がパンにまつわる色々な出来事に出会うお話です。元は2021年3月に「パン屋のグロワール」のホームページのブログで始まりました。

九州から関東に出てきてパンロンドというパン屋に就職した田所修造は、妻の律子(りつこ)と緑(みどり)を日本に残してドイツにパンの修業に行き、26歳で日本に戻って2人と再会。またパンロンドの店主柚木(通称親

もっとみる
パン職人の修造99 江川と修造シリーズ some future

パン職人の修造99 江川と修造シリーズ some future



「パンの修行の為に」由梨が合いの手を入れた。



「そう!凄く反対したわ。緑も小さかったし。

でも目の奥に覚悟が段々できてきて、絶対行くんだわって悟った。

5年間ずっと修造が帰ってくるのを待ってたの。

パンロンドで働きながら長女の緑を保育園に預けて

仕事が終わったら2人で帰ってまた次の朝が来る。

修造が大好きで会いたくて、でも意地を張ってメールの返信もしなかった。

ずっと後悔

もっとみる
パン職人の修造98 江川と修造シリーズ some future

パン職人の修造98 江川と修造シリーズ some future

「修造パンロンドのみんなはどう?」



早番で早く帰ってきた修造に妻の律子が話しかけた。



「花嶋由梨って新入社員が入って来たんだ。丁度探そうとしてた所だったんでタイミングよかったんだよ」

「そうなの」

「今みんなで仕事を教えてるよ。今日は江川と一緒に生地の手ゴネをしてた」

「どんな人?」

「えーと藤岡の紹介で入ってきたんだよ。今度お店に来たら紹介するね」

と言いながら修造は、

もっとみる
パン職人の修造55   江川と修造シリーズ honeycomb structure

パン職人の修造55 江川と修造シリーズ honeycomb structure

ベッカライホルツでは修造、江川、鷲羽の3人が選考会のパンデコレ(飾りパン)の練習をしてしていた。

修造はブルーベリーで色付けした生地で修造の故郷の山に夏になると風にゆらゆら揺れる愛らしい『ヒゴダイ』という葱坊主によく似た花をモチーフにしている。
その後上品な夕顔や、ヒゴシオンなどの紫色の高山植物を次々に作っていった。

それを見た江川は修造の助手の座を鷲羽や他の選手に取られまいと執念の炎を燃やし

もっとみる
パン職人の修造54 江川と修造シリーズ honeycomb structure

パン職人の修造54 江川と修造シリーズ honeycomb structure

扉絵

今日はベッカライホルツでの練習の日。

選考会までの日にちがいよいよ1か月をきり、緊張も高まって来た頃。

修造、江川、鷲羽は3人で立体の飾りパン(パンデコレ)の練習中だった。

修造は、円形の生地の薄い台に三つ編みの生地を平らなまま輪にし続けて円を作りながら鷲羽に話しかけた。

「パンデコレはどんなのをするつもりなんだ?」

鷲羽は三つ編みの旋盤の美しい編み目を見て惚れ惚れしながら言った

もっとみる
パン職人の修造53 江川と修造シリーズ Prepared for the rose

パン職人の修造53 江川と修造シリーズ Prepared for the rose

修造は鷲羽に言った「そんなお客さんの気持ちが分かっていてパンを作ってるかどうかでまた違ってくる。お前はどうなんだ。お前だってパン作りに携わっているだろう」

ーーーー

一方その頃ホルツでは、大木が江川にマンツーマンの指導をしていた。
コンテストまであまり時間のない江川にとってラッキーな事だった。

大木は江川に飾りパンの『薔薇の花籠』を教えていた。

シロップ生地というきめ細かい生地を薔薇の形や

もっとみる
パン職人の修造52 江川と修造シリーズ Prepared for the rose

パン職人の修造52 江川と修造シリーズ Prepared for the rose

パン職人の修造52 江川と修造シリーズ Prepared for the rose

ベッカライホルツの事務所のデスクに肘をつき、大木は電話していた。

「あぁ、そう、あの二人ベークウェルに行ってたよ。社長が礼を言ってきた。鷲羽も顔つきが変わってきたな。いい経験になったんだろうよ。はいはい。そっちはどうなんだ佐々木の仕上がりは?そう。じゃあな」

俺も負けていられないな。選考会まであと少し、これか

もっとみる
パン職人の修造51 江川と修造シリーズ イーグルフエザー

パン職人の修造51 江川と修造シリーズ イーグルフエザー

「僕もちょっと良いですか?」江川も口を挟んだ。

「ほら成形してるところとバゲットを乗せる板が離れすぎてて運んで置いてると形が悪くなっちゃう。近くに置いてやればいいのになんでわざわざ遠くに置くのかちょっと思っちゃいました」

「作業する時にさ、同じ事を繰り返す瞬間があるんだよ。その時に手は動かして頭の中では次にする事どころかその日の行程をすでに考えておく、するとえーととか言って次に何するかその時に

もっとみる
パン職人の修造50 江川と修造シリーズ イーグルフエザー

パン職人の修造50 江川と修造シリーズ イーグルフエザー

大木が帰ろうとする鷲羽と江川を呼び止めた。

「お前達には修行も兼ねてベーカリーベークウェルのヘルプに行ってもらう、江川が次に空いてる日に鷲羽も行ってきて良い。江川、決まったらメールくれよ」

「はい」

帰りの電車で江川は修造に質問した。

「ヘルプってどんな事をすれば良いんですか?」

「そうだな。ベークウェルって5店舗ある町のパン屋さんなんだけど、そのお店がイベントとかしたら沢山のお客さんに

もっとみる
パン職人の修造49  江川と修造シリーズ イーグルフエザー

パン職人の修造49 江川と修造シリーズ イーグルフエザー

鷲羽秀明(わしゅうひであき)は東京NN製菓専門学校パンコースを首席で卒業した。

在学中は学科、実技ともに他を圧倒する実力でその名を学校中に轟かせた。

教室の中では何もせずとも楽にトップでいるそぶりだったが、心の中では絶対に誰にも自分の前を行かせまいと躍起になり、陰では人一倍パンに関する何事でも頭に入れようと努力していた。

にも関わらず、トップを走り続けていると自分は何かのエリートではないかと

もっとみる
パン職人の修造48  江川と修造シリーズ スケアリーキング

パン職人の修造48 江川と修造シリーズ スケアリーキング

「お父さん!私、どこまでも修造と一緒に行くから」
律子は父、巌に宣言した。

「またどこかに行くのか?」

「ええ、そのうち修造と店を持つの。約束したもの」

「どこに?松本か?」

「修造の実家よ」

「あんな山奥に!」

厳は行った事ないがその子にグーグルアースを見せてもらって驚いた事を思い出した。

山以外何もない。 

巌だって山の上で農家をしているが、この場合は集客が出来るのかと心配して

もっとみる
パン職人の修造47  江川と修造シリーズ  スケアリーキング

パン職人の修造47 江川と修造シリーズ スケアリーキング

修造は長野駅に着いてすぐ那須田の店に電話をした。

「もしもし。那須田シェフ、お久しぶりです。あの〜田所です。今から行って良いですか?テレビに出たばかりでお忙しいでしょうからお手伝いします」

「ありがたいなあ修造君。じゃあ頼むよ」

話は早い。

テレビに出たその日から店が賑わうのを修造もパンロンドで経験済みだった。

長野駅から北陸新幹線はくたかに乗り、二十二分で上越妙高駅だ。

南側ロータリ

もっとみる
パン職人の修造46  江川と修造シリーズ  スケアリーキング

パン職人の修造46 江川と修造シリーズ スケアリーキング

パン職人の修造 江川と修造シリーズ スケアリーキング

*このお話を読む前に

パン職人の修造は全てフィクションです。実在の人物や店舗、団体などとは関係ありません。「パンと愛の小説シリーズ」には素晴らしいパンの世界が毎回違った形で出てきます。読んでいるとひょっとしてパンに詳しくなれるかもしれません。今回はどんなパンが出てくるのでしょうか。

*スケアリーキング*

田所一家は、修造の妻律子の実家が

もっとみる
パン職人の修造45  江川と修造シリーズ Sourdough Scoring 江川

パン職人の修造45 江川と修造シリーズ Sourdough Scoring 江川

エレベーターに乗りながら修造は考えていた。

反抗的で不登校の江川か、そんなところ全然見た事ないなあ。一生懸命でいつも明るいやつなのに。

きっと俺と江川は良い相性なんだろう。
安定してお互いを良い方に高めて
いけるようになってるんだ。

本当はこの調子で大会まで持っていきたいけど
もう無理はさせないようにしなきゃ。

—-

江川は2日後退院してパンロンドに戻ってきた。

みんなが江川を取り囲ん

もっとみる