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パン職人の修造55 江川と修造シリーズ honeycomb structure

ベッカライホルツでは修造、江川、鷲羽の3人が選考会のパンデコレ(飾りパン)の練習をしてしていた。

修造はブルーベリーで色付けした生地で修造の故郷の山に夏になると風にゆらゆら揺れる愛らしい『ヒゴダイ』という葱坊主によく似た花をモチーフにしている。
その後上品な夕顔や、ヒゴシオンなどの紫色の高山植物を次々に作っていった。

それを見た江川は修造の助手の座を鷲羽や他の選手に取られまいと執念の炎を燃やしていた。

「絶対に」江川は呟いた。

そして修造に向かって「修造さん、明日は打ち合わせの後、通しで助手としてやらせて下さい」と言った。


「江川、お前大丈夫なのか?無理するなよ。現場では俺が頑張るからな」

「僕だって頑張ります」

修造は江川の目の周りの青白い色を見て「疲れたら休めよ」と注意した。

江川は以前過労で倒れた事があったのだ。

「大丈夫です。僕やれます」

「お姉さんに聞いたよ、弟は頑固だって」修造はそう言いながら笑った。

つられて江川も恥ずかしそうに

「ウフフ」と笑った。

ーーーー

さて、3人のいるホルツとは遠い所、北海道の南の方にある北麦パンは広い駐車場が併設された今風の建物で、店内には色とりどりのフルーツやナッツののったデニッシュ、美味しそうな自家製ソーセージの調理パン、ライフルーツがいっぱい入った自家製酵母のパンがズラリと並んでいた。

どのパンも個性的で技術の高いオススメパンばかりだ。

客は皆、方々から車で町にやって来た時に北麦パンで好きなパンを買っていく。

その工房の奥ではオーナーシェフの佐々木がパンデコレの仕上げをしていた。


「先生にコーチして貰ってここまで来たなあ」
と佐々木は自分の技術の始めと今を思い比べてしみじみと言った。



佐々木の後ろに立っていた先生と呼ばれる背の高い男は「シェフの元々の腕前が良いんですよ」と、こことここを変えてと指で指示しながら言った。


「俺、修造さんには負けませんから」とまるで宣言する様な言い方を聞いて背の高い男は「何故その修造さんだけ?選手は他にもいるでしょ?」と作品から目を離さずに聞いた。


「あの人は生まれる前からパン作りをしてたんじゃ無いだろうか?そのぐらいパンにピッタリ寄り添ってる。俺はそれに勝ちたいんです。俺のパンに対する気持ちの方が上だって証明して見せますよ」


「生まれる前からですか?面白い。シェフには是非頑張って貰わないとね」背の高い男は何故かおかしくて腹筋を2回ほど揺らした。


「勿論です。俺、明日から選考会が終わるまで店を休んで集中します」


「いいの?半月も店を休んで」


「大丈夫です」佐々木は自分の作ったパンデコレを上から下まで点検する様に見回しながらそう言った。


「あと半月で修造さんとの闘いだ」

ーーーー


その日の夜ベッカライホルツの別室では鷲羽のパンデコレができあがった所だった。

大会では部品を持っていって組み立てるのだ。


帰り際の大木が別室を覗くと鷲羽が1人でパンデコレの仕上げをしている。


「鷲羽、まだ帰らないのか?」

「はい、シェフ、これが俺のパンデコレです」


鷲羽の作品はらせん状の板の組み合わせで構成されていて、正面にはマクラメ編みが取り付けられた物で、鷲羽の技術の程度が良くわかるものだった。


「ふん、悪くないぞ鷲羽、らせんの間隔が美しい。マクラメ編みなんてよく考えたな。明日から最終仕上げの段階に入るから更に磨きをかけろ」


「分かりました。江川に絶対勝ちます」

「江川だけじゃないぞ、全員で5人だ。」


その時鷲羽は修造の言う言葉を思い出していた。

お前は江川の事をライバルで、戦わなきゃならないと思ってるのかもしれないが、お前がこれから戦うのは自分自身なんだ。



おわり


honeycomb structure(ハニカム構造)

この場合は江川と修造の心の絆が丈夫で壊れにくい事を指しています。

修造は段々説明が上手くなってきました。

輝く毎日は心の充実。

江川のお蔭かも知れません。

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