記事一覧
『家族ダンジョン』第39話 これからも
朝陽を受けた明るいキッチンで三人がテーブルを囲む。欠けた一人の椅子に自然と視線が集まる。
冨子は力なく目を戻した。自身の手前にある大皿のオムライスを眺めた。大粒の涙が零れ落ちる。傍らのスプーンを手に取ると端の部分を掬って口に運んだ。
口を動かしながらグショグショの顔で笑う。
「慶太が、大好きな……オムライス……美味しい、よ……」
「……あんた、本当に」
出そうな言葉を涙と共に呑み込む。茜は
『家族ダンジョン』第38話 第三十五階層 小柄な支配者(2)
冨子はようやく泣き止んだ。袖で目をゴシゴシと擦る。直道が両腕を下ろすと茜は目を逸らし、それとなく離れた。
「説明して貰いたい」
直道が少年に向かって言った。
「そのつもりだよ」
少年は赤い絨毯を歩き、玉座の間の中央に立った。急に両膝を曲げると瞬時に現れた椅子が受け止めた。ほぼ同時に長方形のテーブルと三脚の椅子が一気に出揃う。
「良い感じだよね」
直道は少年の左手の椅子に腰掛けた。右手には冨
『家族ダンジョン』第37話 第三十五階層 小柄な支配者(1)
一行の顔が引き締まる。
階段を降りた先は宮殿の通路に等しい。鮮やかな赤の絨毯は奥の暗がりに続いている。左右には白い石柱が等間隔で聳え、間には白銀の甲冑を着込んだ騎士像が厳かに佇んでいた。
「魔王をやっつけたご褒美かなー」
冨子は一体の甲冑をしげしげと見つめる。傍らにいた直道は視線を上げた。天井の高さに感じ入る。
ハムは前脚で絨毯の感触を確かめた。
「上物だ! 俺様の為に用意された栄光の道に
『家族ダンジョン』第36話 第三十四階層 魔王
地の底に引きずり込むような螺旋階段を歩いた。二度目の体験で慣れたのか。誰も文句を言わず、黙って足を動かした。
長い行程を経て一行は土色の大地に降り立った。
一方から場違いな拍手が起こる。かなり先に小さな人影が見えた。
茜は限界まで目を細めた。
「ここからだとよくわからないけど、なんか腹立つ」
「見下す感じがするー? 私にも見えないねー」
ハムは冨子の横にきて言った。
「目を閉じていれば見
『家族ダンジョン』第35話 第三十三階層 竹林の中の記憶
竹林の中の石畳は巨大な白蛇のようなうねりを見せる。両脇の石灯籠には儚げな火が灯り、仄暗い奥へと導く。
茜は息を呑んで立ち尽くす。強い瞬きで我に返ると後ろに目をやる。上りの階段はダンジョンの名残りをとどめていた。
「外かと思った」
「なんか懐かしい感じがするよねー」
冨子は横手の直道に顔を向ける。背筋を伸ばし、趣のある竹林の道を眺めていた。
「私の記憶にある風景とは少し違う」
「私には差がよく