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地球規模の未来は考えていなくて、ただ縁側に座ってビールを飲んでいた

 平日の昼日中、縁側に胡坐あぐらを掻いてビールを飲んでいた。庭で育てている農作物は強い陽光に晒されてぐったりした様子だった。
 手前にあるキュウリの葉はことごとくしおれてフレアスカートのように波打つ。隠されていた中身がよく見える。やや曲がったキュウリが何本もぶら下がっていた。今年は豊作で毎朝、二、三本の収穫があった。
 サラダと称してボリボリと先端を齧る。味付けはマヨネーズ、または塩。食べ飽きる頃に浅漬けにした。
 出た野菜クズは庭の端にあるコンポストに纏めて入れた。たまに沸く虫には精米して出来た米ヌカを振り掛けて対抗した。撹拌かくはんすることで熱を発して蒸し焼き状態にするらしい。

 暑い中で飲むビールは格別に美味い。とは言え、二時間も経つと気温が下がってきた。頃合いと思い、重い腰を上げた。
 縁側の中程には庭から掘り出した天然の沓脱石くつぬぎいしがどっしりと構える。その上にちょこんと置かれたゴムサンダルを履いた。
 自生したクローバーの道を歩き、家の端で立ち止まる。雨どいの排水部分は巨大なかめに繋がっていた。中を覗くと昨晩に降った雨水が八分目くらいまで貯まっていた。縁側の下に入れてあった如雨露じょうろを引っ張り出して水の中に沈める。
 手近なところから水をいていく。梅干しに利用する赤紫蘇にはたっぷりと注ぐ。青紫蘇は素麺の薬味に欠かせない。キュウリとナスにも均等に与えた。
 トマトは例外でシャキッとしていた。乾いた土が少し湿る程度にとどめた。
 甕で水を継ぎ足して庭の隅にある火鉢までいく。水草の合間に見える水面には幾つもの波紋が浮かび上がる。目を凝らすと蚊が卵を産み落としていた。それを目当てに集まったメダカがピラニアの如き食欲で襲い掛かる。たまにエサをやり忘れるが、餓死の心配はなさそうだった。

 縁側に戻ると打ち水による恩恵を受けた。エアコンとは違って天然の涼しさが全身に染み込む。生温くなったビールは早々に喉に流し込み、新たなビールを取りに部屋へ踏み込む。
 外の明るさに目が慣れたせいで薄暗さを感じた。そこで思い出す。裸電球の一つが切れていた。入れ換えると全てがLEDになる。棚からストックを取り出して実行に移す。
 その後、ヒグラシが鳴くまで縁側にいた。その涼し気な声を聴きながらおもむろに思った。

 この生活が未来のためになるのでは。

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