黒羽カラス

プロジェクトナニカが提供する「らっかみ!」でマスター業務をしています。 ショートショー…

黒羽カラス

プロジェクトナニカが提供する「らっかみ!」でマスター業務をしています。 ショートショートに嵌った時期がありまして、 コバルトの第四回ショートショートマスターになりました。 講談社のショートショートの広場には三作採用されました。 文章を書くことに喜びを感じる夢追い人です。

マガジン

  • 家族ダンジョン

    一人の神が気紛れで介入したことにより、 家族単位でダンジョンに取り込まれます。 まるでゲームのような世界を家族は助け合いながら攻略します。 地下に潜る程に絆が強まる、その様子を軽やかに描きました。

  • 翠子さんの日常は何かおかしい

    近未来の長編小説になります。 酒呑童子と八尺様の間に生まれた翠子さんが、 怪異を引き寄せては無双状態になります。 ギャグテイストの波乱の日常をお楽しみください。

  • 過去の自分や他の誰かの心に寄り添った詩を置いています。 心から零れ落ちた一滴、あなたの心の一部を潤しますように。

  • エッセイ&雑文

    硬派なエッセイ、ふにゃふにゃの雑文。 幅広く揃えています。主にカンの賜物です。 お時間がある時にどうぞ。

  • 短編小説の本棚

    日常や現代ファンタジーの小説が多く含まれています。 たまに過酷なファンタジーもありますが、楽観的な作者の書くものです。 最後はきれいに纏まって読後は良いような気がします、たぶんですが。

最近の記事

  • 固定された記事

地球規模の未来は考えていなくて、ただ縁側に座ってビールを飲んでいた

 平日の昼日中、縁側に胡坐を掻いてビールを飲んでいた。庭で育てている農作物は強い陽光に晒されてぐったりした様子だった。  手前にあるキュウリの葉はことごとく萎れてフレアスカートのように波打つ。隠されていた中身がよく見える。やや曲がったキュウリが何本もぶら下がっていた。今年は豊作で毎朝、二、三本の収穫があった。  サラダと称してボリボリと先端を齧る。味付けはマヨネーズ、または塩。食べ飽きる頃に浅漬けにした。  出た野菜クズは庭の端にあるコンポストに纏めて入れた。たまに沸く虫には

    • 『家族ダンジョン』第24話 第二十三階層 地上へ

       くすんだ色の蔦が壁や床を覆う。目にした者に暗い印象を与え、漏れなく先行きを不安にさせる。  その中で唯一、光り輝く床があった。降りた階段の正面にある為、嫌でも目がいく。  茜は光源をじっと見た。 「この魔方陣をどう思う?」  同じように見ていた直道は視線を上げた。蔦に絡まれていたが壁に嵌め込まれた銅板の文字は見える。 「緊急避難用と読める」 「んー、どこに避難するんだろう。我が家とか?」  冨子は二人に目を向ける。 「我が家はどこにあるのだ?」  ハムは身を摺り寄せてきた。

      • 『翠子さんの日常は何かおかしい』第24話 バウンティハンター

         脇目を振らず、時田翠子はワンルームマンションに帰宅した。手早くスーツを脱いで黒を基調にしたウインドブレーカーに着替える。細々とした物は上着のポケットに収めた。 「今日こそは」  眦を決して玄関に向かう。黒革のパンプスは隅に寄せて靴底の厚いランニングシューズを履いた。  背筋を伸ばした姿勢で右の拳を固める。左の掌に軽く打ち付けた。左の拳も同様の動きを見せて軽い準備運動を終えた。  軽く息を吐いてドアを開けると右手に白い特攻服を着た仙石竜司が待機していた。右肩を回しながら笑顔を

        • 『家族ダンジョン』第23話 第二十二階層 初めての装備品

           階段の途中でハムが突然に駆け出した。先頭の茜を抜き去り、尚も走る。 「急になんなのよ」 「あー、小瓶がー。若返りのー、取って置きの小瓶がー」  冨子の未練がましい声に茜は溜息を吐いた。 「あの小瓶がなかったら、本当に危なかったんだよ。状況、わかってる?」 「そうよー。これが正解だったのよー。直道さんの口に二人掛かりで小瓶を突っ込んで若返らせてー、あのデカブツを殴り倒して貰えばよかったのよー」 「いやいや、それ、絶対に無理でしょ」  最後尾で話を聞いていた直道がぼそりと言った

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        地球規模の未来は考えていなくて、ただ縁側に座ってビールを飲んでいた

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        • 家族ダンジョン
          24本
        • 翠子さんの日常は何かおかしい
          24本
        • 12本
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          18本
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        • 先輩ちゃんと後輩君
          7本

        記事

          『翠子さんの日常は何かおかしい』第23話 綺麗なお姉さん

           青々とした畳に黒檀の座卓が置かれていた。全体が艶やかに光り、重厚感を醸し出す。紺のスーツを着込んだ時田翠子は、ふっくらとした座布団に正座をして詰まらなそうに眺める。 「タールみたいな色ですね」  隣に座っていた小太りの中年男性が瞬時に顔を向けた。 「と、時田君、急に何を言いだすんだ。場に相応しい話をしてくれないと困るじゃないか」 「社長、まだ先方は来ていませんが」  冷やかな目で隣を見やる。社長は気圧されたように顔を引いた。硬い表情で口角を上げて無理矢理に笑顔を作る。 「あ

          『翠子さんの日常は何かおかしい』第23話 綺麗なお姉さん

          『翠子さんの日常は何かおかしい』第22話 ぷるぷる天邪鬼

           夜のコンビニエンスストアは溢れ出す光で煌々と輝く。パンツスーツ姿で通り掛かった時田翠子はしょぼつく目を向ける。ガラスの外壁を超えた先に整然と並べられたビールが見えた。  喉の辺りが微かに動く。すでに足は止まっていた。ふらふらと羽虫が飛んでいくように翠子は店内へと入っていった。  数分後、笑顔で出てきた。右手に提げたビニール袋には各種のビールが犇めき合う。定番の裂きイカの袋は隅に押しやられ、仰け反っていた。  翠子は目抜き通りを弾むように歩く。住宅街の道に合流する手前で動きが

          『翠子さんの日常は何かおかしい』第22話 ぷるぷる天邪鬼

          『家族ダンジョン』第22話 第二十一階層 魔人の岩窟

           新たな階層は賑やかというよりは騒々しさが勝った。金属音と威勢の良い声が壁に反響して入り混じる。 「なんか、急に感じが変わったね」  茜は通路の壁を見た。ゴツゴツとした表面は作りが荒い。色も灰色ではなくて焦げ茶色。手を押し当てると少量の砂粒が掌に付着した。 「人もいっぱいだねー」  冨子は通路の先に目を向ける。薄汚れたTシャツを着た屈強な男達が頻繁に横切る。一様に腕が太い。肩に担ぐようにしてツルハシを持っていた。 「鉱山のようだ」  直道の感想に二人が頷く。ハムは全く関心がな

          『家族ダンジョン』第22話 第二十一階層 魔人の岩窟

          『家族ダンジョン』第21話 第二十階層 銀閃フォックス

           一行は階段を降りてゆく。先頭の直道の表情が険しい。怒りを抑えたような顔で靴音を響かせた。  ハムは歩くことが面倒になったのか。仰向けの状態で滑るようにして続く。丸い壁に当たって惰性で曲がった。 「無限の体力はどうしたのよ」  茜は横手のハムを蔑むような目で見下ろす。 「この状態に飽きたのだ。背中から伝わる心地よい振動で眠気がくるぞ」 「膝がカクカクするよぉ。ハムちゃん、お腹に座らせてー」  最後尾にいた冨子は丸い壁に手を突きながら辛うじて進む。 「俺様の魅惑の腹でくつろぐが

          『家族ダンジョン』第21話 第二十階層 銀閃フォックス

          『翠子さんの日常は何かおかしい』第21話 計算

           時田翠子の目は微睡んでいた。おもむろにカウンターに片肘を突く。目の前に置かれた徳利はボウリングのピンのように立ち並ぶ。  気だるげな手で角皿の焼き鳥を一本摘まむ。中程に齧りつき、引っこ抜く。興味の無さそうな顔で口を動かした。残りも平らげ、おしぼりで艶やかな唇を拭いた。  息を吐きながら席を立つ。ふらふらと店の奥へと向かう。女性用のトイレのドアをいきなり開けて中に入ると即座に鍵を掛けた。数歩で右手の洋式トイレに着いた。センサーが働き、自動洗浄後に蓋が開く。  翠子は後ろ向きと

          『翠子さんの日常は何かおかしい』第21話 計算

          『家族ダンジョン』第20話 第十九階層 宝物庫

           階段を降りると目の前に扉が見えた。表面に嵌め込まれたプレートには『宝物庫』とあった。その下部には小さな文字で『一度だけ、宝箱は開く』と添えられていた。  茜は真っ先に顔を近づけて他の手掛かりを探す。調べ終わったのか。後方に振り返る。 「他にはなにもないみたい」 「突撃するぞ。尻がムズムズして仕方がない」 「それ、ハムのせいだから」  苦笑いでノブを掴み、扉を押し開けた。 「あらー、宝箱がいっぱい。奥にはまた扉があるねー」  冨子は部屋に入るなり、周囲を見回して言った。 「勝

          『家族ダンジョン』第20話 第十九階層 宝物庫

          『翠子さんの日常は何かおかしい』第20話 激突の予感

           金曜日の午後六時。時田翠子は会社を出ると、どこにも立ち寄らないでワンルームマンションの自宅に帰ってきた。  仕事終わりの一杯とはならず、真っ先にシャワーを浴びた。パンツスーツからラフな部屋着となり、ベッドに仰向けになった。  その姿のまま、手にしたスマートフォンで電話を掛ける。数回の呼び出し音で相手が出た。 「好乃ちゃん、翠子だけど今、大丈夫? そうなんだ、部屋にいるのね。お願いがあるんだけど……難しいことじゃないよ。  部屋の中で『姉御の呼び出し』って大きな独り言をして貰

          『翠子さんの日常は何かおかしい』第20話 激突の予感

          『家族ダンジョン』第19話 第十八階層 大海原

           降りる階段は普通で特段に長い作りにはなっていない。一行は数分も掛からず、新しい階層に到着した。  通路を原生林に囲まれた。突き出た細長い葉を茜が触る。 「本物っぽい」 「それより前を見てよー」  冨子の声に全員が従う。ゲートのような物で仕切られた先が青い。目測で二十歩の範囲を遥かに超えていた。 「ここはチュトリアのような街なのか?」  直道は衝撃で止まっていた足を動かす。  横手にいたハムは下草の匂いを嗅いだ。 「この植物の臭いは嗅いだことがないぞ」  用心とは別の興味で一

          『家族ダンジョン』第19話 第十八階層 大海原

          『翠子さんの日常は何かおかしい』第19話 閃き

           定時に会社を出た。程々に混雑した電車に揺られ、時田翠子は永瀬川駅に降り立つ。真っ直ぐには帰らず、コンビニエンスストアに立ち寄ってビールのロング缶を四本、それと定番の肴である裂きイカを購入した。  住宅街の中を軽快に歩いてワンルームマンションに戻ってきた。自宅の扉を開けた瞬間、唐突に後ろを振り返る。 「迷わずに来られたようね。それと遠慮しないでいいわよ」 「今日は、よ、よろしく、お願い申し奉ります!」 「あんた、ホントにいつの時代の人間なのよ。今は亡霊だけどさ」  柔らかい表

          『翠子さんの日常は何かおかしい』第19話 閃き

          トンネル

           そのトンネルは化け物の口のようだった  真っ暗で先の出口が全く見えない  威嚇するような怖さが足を竦ませる  それでもと顔を上げて 最初の一歩を踏み出した  トンネルの内部 少し歩いては後ろを振り返る  明るい入口に力を貰い 歩く糧にして尚も進む  刻むように歩いても前へは進んでいる  心の中で言い聞かせて気持ちを奮い立たせた  トンネルの出口が見えない 後ろの入口も見えなくなった  それでも立ち止まれない 止まれば歩けなくなる  周囲を包む闇が一気に押し寄せて心を蝕む

          『翠子さんの日常は何かおかしい』第18話 ギリギリの水着

          「やってきたよー」  河合好乃は開いたバスのドアからピョンと飛び降りた。頭頂に結ったお団子がプルンと揺れる。後ろを振り返る素振りも見せず、わー、と声を上げて走り出す。 「もう、好乃ちゃん、可愛過ぎ!」  続いて降りた時田翠子は笑顔で追い掛けた。  二人が走る先には広大な海が広がっている。その手前の白い砂浜にはパラソルという鮮やかな原色の花が咲き乱れていた。隅の方には仮設の建物が並んでいて飲食物を手にした若者の出入りが激しい。 「ここにしよう!」  好乃はそれとなく周囲を見て決

          『翠子さんの日常は何かおかしい』第18話 ギリギリの水着

          『家族ダンジョン』第18話 第十七階層 浮き沈み

           一行の前にまたしても暗黒が立ち塞がる。今度は足場となる床がなかった。見えないだけで存在するのだろうか。誰にもわからない。  立往生を嫌った茜はハムの姿を探した。少し離れた壁際にいた。不貞寝するように背中を向けた姿で横になっている。  そっと近づいて甘ったるい声を掛ける。 「ハムちゃん、出番だよ。偉業の達成には必要なことだよね」 「……俺様は邪神の供物じゃないしぃ。床がないからどうしようもないしぃ。シイタケが試しに落ちてみればいいしぃ」  くるんとした尻尾が縮こまる。二度も落

          『家族ダンジョン』第18話 第十七階層 浮き沈み