マガジンのカバー画像

ゲンバノミライ(仮)

78
被災した街の復興プロジェクトを舞台に、現場を取り巻く人たちや工事につながっている人たちの日常や思いを短く綴っていきます。※完全なるフィクションです。実在の人物や組織、場所、技術な…
運営しているクリエイター

2022年2月の記事一覧

第66話 選択の洋一郎さん

第66話 選択の洋一郎さん

It's not just my problem!
It's just your problem!

これは私だけの問題なんかじゃない!!
あなたの目の前に迫っている現実の問題なのよ!!

叫ぶようにジュリアが声を荒げたところで、大きな爆発音が鳴り響き、通信が途絶えた。パソコン画面の中央が真っ暗になった。垣田洋一郎は、涙があふれそうになり、沈痛な面持ちのまま目を閉じた。

「ジュリア!! ジュリア

もっとみる
第65話 わびおの小田君

第65話 わびおの小田君

「大丈夫ですか!! どこにいるんですか!!」

あの災害で甚大な被害を受けた海辺の街の復興プロジェクトで、下請け建設会社の土木技術者として働く小田文男は、現場に出て陣頭指揮を執っていた。そこに、専務である久保拓也から電話が入った。

「事故った。すまない。
田辺さん…、CJVの田辺さんに申し訳ございませんと、それだけ伝えてほしい。頼む…」

か細い声で言われたところで、ガタッと音がした。

携帯電

もっとみる
第64話 ジエンドの久保専務

第64話 ジエンドの久保専務

ああ、俺の人生終わった…。

ゆっくりと目を開く。顔の前面にはエアバッグが広がっている。フロントガラスが派手に割れている。
頭が痛い。顔の右側で血が滴り落ちている。どこが切れているのかは分からない。

「大丈夫ですか!」

ドアの外から人の声が聞こえる。
シートベルトを外して、ドアを開けて、外に出て…。
やるべき事はうっすら思い至るのだが、体が動かない。

ああ…、痛い。苦しい…。

力が抜けてい

もっとみる
第63話 待ちの田辺さん

第63話 待ちの田辺さん

「申し訳ございません!!

うちの専務が交通事故を起こしました。救急車で病院に搬送されています。

容態は分かりませんが、自分から電話を掛けてきたので、命に別状はないと思いますが…。
田辺さんにだけは連絡してくれと、お詫びを伝えてくれと、そう申しておりましたので電話しました」

この街の復興事業を一体的に手掛けているコーポレーティッド・ジョイントベンチャー、いわゆる「CJV」の事務所に、下請け企業

もっとみる
第62話 苛々の宮崎君

第62話 苛々の宮崎君

「何でそんなこともできてないんですか!

もう、勘弁してくださいよ!」

来月に予定している作業に使う仮設材の発注がまだだった。仮設材のリース会社には大まかな数量と搬入時期の目安を伝えてはいるが、工程がおおむね固まってきたタイミングで具体的な日時を指定しておかなければ、リース会社の準備も進まない。この現場だけではなく、周りにも最盛期を迎えている工事が多い。さまざまな資機材を取り合っている状況があり

もっとみる
第60話 突破の真奈美さん

第60話 突破の真奈美さん

なんとか時間に間に合った。
トンネル掘削を手掛ける建設会社で技術者として働く宮田真奈美は、現場近くに設置されたプレハブの管制室から掘削作業を指揮しながら、内心、かなり焦っていた。
よりによって今日みたいな日に、やっかいな地山に当たるなんて。
トンネル掘削は、本当に侮れない。

宮田が、あの災害で大きなダメージを受けた海辺の街に来て、ちょうど半年になる。復興事業を一手に担うコーポレーティッド・ジョイ

もっとみる