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太陽に焼かれて殺されたダニの香りの芳香剤を売れ 第07話 listen to me whine

買ったパンを持ち込んで食える、商店街の一角にある茶店に入ることにした。
「何飲む?」浅荷がメニューを見ながら尋ねた。
「コーヒーにしようかな」
「私はカフェラテにする」
「じゃあ頼もう」

「そうですね、砂糖とか蜂蜜とかありますか」
「あちらにあるのをご自由にお取りいただけます」
「牛乳は別に頼めますか」
「その場合、カフェオレをご注文頂いたほうがいいかも知れません」
「じゃあそちらで」

「ブラックじゃないの?」
「うん。ブラックなんて飲めないよ」
「かわいいじゃん」
「そうかな……」
「蜂蜜なんて好きなの。ていうかコーヒーに入れるもんなんだ」
「そう。俺もちょっと前まで知らなかった。チェーン店で普通に砂糖のコーナーに蜂蜜置いてあって『何に使うの?』って」
「それで躊躇いなくコーヒーに入れた?」
「うん」
「思い切りがいいな」
「砂糖とかに躊躇いがあったからかもしれない。砂糖より蜂蜜の方が身体にましだから」
「そうなん?さっきから健康に詳しくない」
「精製糖はやばいらしいから……浅荷もクラブ中に自販機のとか飲んでない?」
「自販機の?」
「甘さが入ってる清涼飲料とか……自販機にある系で甘かったらそれは精製糖の量が凄まじい」
「あ〜。そんな甘いのばっか一心不乱にはないけど、飲まないわけじゃないな」
「1日に摂ったほうがいい許容量みたいなのを簡単に越えた量入ってるらしい」
「はぁ〜」
「あとは果糖ぶどう糖液糖とかクソやばい甘味には気をつけ……」

店員さんに注文を伝え、待つ間にまた話が弾んだ……と言えるのだろうか?
浅荷はバレーの話をするけど、俺は文化部について何を話せばいいのかわからんまま互いの苦労や精製糖の話を共有していた。

「じゃあ中間とか期末の追い込みでコーヒー飲むとかやばいわけ」
「コーヒーは体質もあるだろうけど……消化器がかなりダウンするんじゃないか。俺は絶対になるからカフェインどうしてもなら緑茶だけにする」
「はぁ〜」
「コーヒーの代わりにスタドリはマジで危ない」
「カフェイン入ってんだっけ」
「うん……だけじゃなくてさっきの清涼飲料の感じも一緒くただから、あれ飲んで起きてようみたいなのとか命を前借りしてるようなもんじゃねえかな」
「社会人とか残業といえばモンエナみたいに言わない?」
「そう……まさに」
「あたしは」
「浅荷」

カフェオレが来たから蜂蜜を追加して来た。

「じゃあ残業パパとかは、家族のために自分の時間も家族と一生に会える時間も削って、さらにその今後あるかもしれない未来のための時間まで削って生きてるの」
「残業とああいう飲み方がセットならあるいは……」
「はぁ〜地獄の所業かよ」

激烈に甘くなったカフェオレをスプーンでちまちま飲み始めた。これだけで菓子食ってる気分にもなれて得だと俺は思える。

「そういえば、プロテイン毎日飲んでんの?」浅荷が再び質問した。

「うん、毎日欠かさず飲んでる。特に運動してる日は重要だから」
「運動後の回復には大事よね」
「でも、実際は単に固形物が食べられなくて、せめて流動的なものなんてないかなと思って始めた」
「へぇ〜。固形物が食べられないって、どうして?」
「昔から朝に食欲がなくて。固形物だと───なんて言えば伝わるかね……───『その日』の世界に初めて降り立った自分の身体……つまり起きたての身体には、『物体としての固形の食べ物』を受け入れる準備が到底できていないように思える。蛹から出たばっかみたいな状態の身体に異物が次々に入っていく感じを想像できるかな。で、そんな気持ちで食ったって消化に時間がかかる気がするし、なんとなくしんどい感じがするんだ。だから、流動食なら楽に栄養を取れるし、続けやすい」

浅荷はしばらく考え込んでいた。
「続けらんないとマジでどんな良いことも意味がないってこの生活を続けて、理解した」
その後、優しく言った。「そうだね」
ずずず、と音が出て、浅荷がコーヒーか茶かわからないけど飲み干す音がした。一緒に注文した気がするのになんで相手の内容を忘れているんだろう。
「何飲んでたんだっけ」それだけ俺は話に夢中になっていたのだろうか。
「やっぱ朝に飲むならコーヒーでしょ……朝に……」
と言って、飲み終わった椀に視線を落としている。
「と言ってみたくて飲んだんだけど、全然朝に……飲みたいと思わないことがはっきりわかった。あんたみたいにめちゃくちゃ色んなもの混ぜて飲むべきだと思った。次はそうしよう」
「そうだね」
「あたし、こんなに自分の名字をだじゃれに使ったことないんだけど」
「はぁ」
「どころか仲間内で言われたらドン引きするレベルで相手のこと見てやるんだけど」
「いいんじゃないの」
「なんであんた相手にしてると自分から名字で笑いを取りに言ってしまうんだろうな」
「笑いが取れてなくて悪いけど」
「そりゃ問題だな。自虐してまで笑わせてやろうとしてるんだから感謝すれば」
「そうやって照らしてくれようとしているのか」
「そう。気がついた」

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