浦野文孝

千葉市在住、古代史を研究しているアマチュアです。邪馬台国・ヤマト王権を中心に僕なりの説…

浦野文孝

千葉市在住、古代史を研究しているアマチュアです。邪馬台国・ヤマト王権を中心に僕なりの説を紹介しています。一部記事は有料です。アイコンは千葉県市原市出身のイノシシ形埴輪、トップ画は吉野ヶ里歴史公園のそば畑

記事一覧

固定された記事

箸墓古墳は卑弥呼の墓ではない:3つの根拠はいずれも不十分

奈良県桜井市の纏向[まきむく]遺跡にある箸墓[はしはか]古墳は、魏志倭人伝に登場する卑弥呼の墓だと言われることがあります。 ※トップ画像:箸墓古墳(2020年10月撮…

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浦野文孝
1年前
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邪馬台国解決の決定的証拠:封泥は見つかるか?

僕は2024/3/8のnote記事で、邪馬台国問題は現段階では結論は出ないということを書きました。結論は出ないと考える理由は以下のとおりです。 魏志倭人伝は倭国を「遠い南の…

浦野文孝
3週間前

春成秀爾氏・下垣仁志氏の論文を斬る:『古墳・モニュメントと歴史考古学(何が歴史を動かしたのか3巻)』より

本書(雄山閣、2023年12月)は、古墳に関する最新の論文25本を収めています。その中から以下の2本を取り上げます。 「箸墓古墳築造の意義」(春成秀爾) 「巨大古墳の被…

浦野文孝
1か月前
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千葉市土気地区:縄文の落とし穴のメッカ

今回は卑弥呼から離れて、僕が住んでいる千葉市緑区の郷土史がテーマです。 JR外房線の土気[とけ]駅南口には、あすみが丘、あすみが丘東という住宅街が広がり、昭和の…

浦野文孝
1か月前
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Nスペ「ヤマト王権 空白の世紀」を見て

2024/3/24のNスペ「ヤマト王権 空白の世紀」を見ました。特に気になった3点についてコメントします。 トップ写真:奈良県渋谷向山[しぶたにむかいやま]古墳 (2020年10…

浦野文孝
1か月前
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中公ムック『歴史と人物・日本百名墳』「箸墓古墳は卑弥呼の墓か」を読んで

中公ムック「歴史と人物18」『日本百名墳』の「箸墓古墳は卑弥呼の墓か」を立ち読みしました。僕はX(Twitter)やThreadsで感想を投稿しましたが、noteでも投稿します。 …

浦野文孝
2か月前
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Nスペ「邪馬台国の謎に迫る」を見て

2024/3/17のNスペ「邪馬台国の謎に迫る」を見ました。僕はX(Twitter)やThreadsで感想を投稿しましたが、noteでも投稿します。 (トップ写真=イラストAC) 酸素同位体…

浦野文孝
2か月前
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魏志倭人伝は間違いだらけ:短里はなかった

卑弥呼の都がどこにあったのか、長い間、論争が続いていますが、実は、魏志倭人伝には、編者である陳寿なりの答えが書いてあります。 入れ墨の風習や逸話のところに、一…

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浦野文孝
2か月前

朝日新聞記者サロン「すごいぞ!奈良の古墳 富雄丸山古墳と桜井茶臼山古墳に迫る」を聴いて

2024年3月5日午後にオンラインで、朝日新聞記者サロン「すごいぞ!奈良の古墳 富雄丸山古墳と桜井茶臼山古墳に迫る」が開催されました。 福永信哉さん(大阪大学)、岡林…

浦野文孝
2か月前
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イノシシは危険な動物ではありません

ミスリードする報道はやめてほしいイノシシが危険な動物であるかのように誤解させる報道が相次いでいます。 ANN 2023/12/13 イノシシ捕まえようとかまれる 30針縫うけが…

浦野文孝
3か月前
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後漢書郡国志から、魏志倭人伝の方角と1里を考える

魏志倭人伝では、方角の記載が実際とは異なるとか、1里の長さが魏の時代の1里435m※よりもずっと短いといったことがよく議論になります。 例えば、魏志倭人伝は末盧国から…

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浦野文孝
3か月前
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須玖岡本遺跡D地点と奴国王墓

福岡県春日市にある須玖[すぐ]岡本遺跡を調べると、「D地点」という場所の名前が出てきます。他の遺跡では聞き慣れない名前です。須玖岡本遺跡D地点とは何なのかを紹介し…

浦野文孝
4か月前
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千葉市昭和の森の野生動物たち

僕は古代史研究とともに、千葉市昭和の森での自然観察を趣味にしています。対象は主に哺乳類です。 ※トップ画像:2024/4/28に出会ったタヌキ(動画からのスクショ) (2…

浦野文孝
5か月前
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埼玉稲荷山古墳鉄剣の辛亥年と榛名山噴火

埼玉稲荷山古墳から出土した金錯銘[きんさくめい]鉄剣の「辛亥[しんがい]年」は「471年」が定説になっています。60年後の「531年」だという説は少数派です。 471年が…

浦野文孝
5か月前
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もし、信秀が竹千代を殺していたら

今回の記事は古代史ではなく、戦国時代です。 歴史では、よく「もし、〇〇が△△だったら…」ということが語られます。たいていは大げさだったり、可能性がないことが多い…

浦野文孝
6か月前
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寺沢薫氏『卑弥呼とヤマト王権』への疑問:纏向には楽浪系土器が皆無

寺沢薫さん(纏向学研究センター)の最新刊『卑弥呼とヤマト王権』(中央公論新社、2023年)にはたくさんの疑問があるのですが、4点に絞って指摘したいと思います。 寺沢…

浦野文孝
7か月前
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箸墓古墳は卑弥呼の墓ではない:3つの根拠はいずれも不十分

箸墓古墳は卑弥呼の墓ではない:3つの根拠はいずれも不十分

奈良県桜井市の纏向[まきむく]遺跡にある箸墓[はしはか]古墳は、魏志倭人伝に登場する卑弥呼の墓だと言われることがあります。

※トップ画像:箸墓古墳(2020年10月撮影)

卑弥呼は239年に中国の魏に使いを送り、247年に魏からの使節を受け入れた頃に死んだことが書かれています。箸墓古墳が卑弥呼の墓なのであれば、3世紀中頃の古墳ということになります。

「箸墓古墳は3世紀中頃」にはどのような根拠

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邪馬台国解決の決定的証拠:封泥は見つかるか?

邪馬台国解決の決定的証拠:封泥は見つかるか?

僕は2024/3/8のnote記事で、邪馬台国問題は現段階では結論は出ないということを書きました。結論は出ないと考える理由は以下のとおりです。

魏志倭人伝は倭国を「遠い南の大国」と誤解した。その背景には西晋王朝への忖度があった。里数・日数・風習・戸数・統治機構・卑弥呼の墓など、内容は誇大で間違いだらけになった

魏志倭人伝からは、どのような遺物・遺構があることがふさわしいかも読み取れない。これま

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春成秀爾氏・下垣仁志氏の論文を斬る:『古墳・モニュメントと歴史考古学(何が歴史を動かしたのか3巻)』より

春成秀爾氏・下垣仁志氏の論文を斬る:『古墳・モニュメントと歴史考古学(何が歴史を動かしたのか3巻)』より

本書(雄山閣、2023年12月)は、古墳に関する最新の論文25本を収めています。その中から以下の2本を取り上げます。

「箸墓古墳築造の意義」(春成秀爾)

「巨大古墳の被葬者」(下垣仁志)

春成秀爾さん(国立歴史民俗博物館)の論文は問題が多いと感じました。下垣仁志さん(京都大学)の論文はおもしろいのですが、疑問が浮かびました。

歴博の箸墓の年代根拠が不十分であることがより明らかに春成さんは較

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千葉市土気地区:縄文の落とし穴のメッカ

千葉市土気地区:縄文の落とし穴のメッカ

今回は卑弥呼から離れて、僕が住んでいる千葉市緑区の郷土史がテーマです。

JR外房線の土気[とけ]駅南口には、あすみが丘、あすみが丘東という住宅街が広がり、昭和の森という自然公園と接しています。

これらの整備に先立って、1970年代から地域全体にわたって発掘調査が行われました。遺跡群は「土気南遺跡群」「土気東遺跡群」「昭和の森遺跡群」と分けて呼ばれています。残念ながら、すべての遺構は開発され、

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Nスペ「ヤマト王権 空白の世紀」を見て

Nスペ「ヤマト王権 空白の世紀」を見て

2024/3/24のNスペ「ヤマト王権 空白の世紀」を見ました。特に気になった3点についてコメントします。

トップ写真:奈良県渋谷向山[しぶたにむかいやま]古墳
(2020年10月撮影)

ヤマト王権は統一国家だったのか番組では、ヤマト王権を初の統一国家としていました。今回は登場しませんでしたが、福永信哉さん(大阪大学)も、3/5の朝日新聞記者サロンで、櫻井茶臼山古墳の銅鏡の集積から、「ヤマト王

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中公ムック『歴史と人物・日本百名墳』「箸墓古墳は卑弥呼の墓か」を読んで

中公ムック『歴史と人物・日本百名墳』「箸墓古墳は卑弥呼の墓か」を読んで

中公ムック「歴史と人物18」『日本百名墳』の「箸墓古墳は卑弥呼の墓か」を立ち読みしました。僕はX(Twitter)やThreadsで感想を投稿しましたが、noteでも投稿します。

トップ写真:奈良県東田大塚古墳(2020年10月撮影)

想像で語っているのではないか記事の中で、橋本輝彦さん(纏向学研究センター)は、勝山古墳・東田[ひがいだ]大塚古墳が卑弥呼と台与の墓、箸墓古墳はその後の男王の墓、

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Nスペ「邪馬台国の謎に迫る」を見て

Nスペ「邪馬台国の謎に迫る」を見て

2024/3/17のNスペ「邪馬台国の謎に迫る」を見ました。僕はX(Twitter)やThreadsで感想を投稿しましたが、noteでも投稿します。

(トップ写真=イラストAC)

酸素同位体比による纏向の年代番組では、箸墓古墳の年代は250年前後であり、卑弥呼の墓の可能性が高いことを印象づけていました。

僕は「箸墓は250年前後」には根拠がないことを2023/5/26のnote記事で詳しく解

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魏志倭人伝は間違いだらけ:短里はなかった

魏志倭人伝は間違いだらけ:短里はなかった

卑弥呼の都がどこにあったのか、長い間、論争が続いていますが、実は、魏志倭人伝には、編者である陳寿なりの答えが書いてあります。

入れ墨の風習や逸話のところに、一見唐突に女王国の位置情報が登場します。

会稽郡東冶県というのは、今の中国福建省の福州市付近です。その東方ですから、陳寿は女王国が台湾付近にあると推定したことになります(ここでは魏志倭人伝の「1万2000里」の記述に合わせて「女王国」と記

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朝日新聞記者サロン「すごいぞ!奈良の古墳 富雄丸山古墳と桜井茶臼山古墳に迫る」を聴いて

朝日新聞記者サロン「すごいぞ!奈良の古墳 富雄丸山古墳と桜井茶臼山古墳に迫る」を聴いて

2024年3月5日午後にオンラインで、朝日新聞記者サロン「すごいぞ!奈良の古墳 富雄丸山古墳と桜井茶臼山古墳に迫る」が開催されました。

福永信哉さん(大阪大学)、岡林孝作さん(橿原考古学研究所)、朝日新聞の今井邦彦さん(記者)、清水謙司さん(支局長)が出演して、約1時間半のサロンでした。

全体的にとてもおもしろく、勉強になりました。ただ、もちろん疑問はたくさんありました。

僕の印象に残っ

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イノシシは危険な動物ではありません

イノシシは危険な動物ではありません


ミスリードする報道はやめてほしいイノシシが危険な動物であるかのように誤解させる報道が相次いでいます。

ANN 2023/12/13 イノシシ捕まえようとかまれる 30針縫うけが 罠破って脱出か(トップ画像は閲覧注意)

朝日新聞 2024/2/7 イノシシと遭遇…対策は 被害拡大、けが人は昨年度最多81人

Abema.tv 2023/12/16(?)

どのニュースも2023年12月12日に

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後漢書郡国志から、魏志倭人伝の方角と1里を考える

後漢書郡国志から、魏志倭人伝の方角と1里を考える

魏志倭人伝では、方角の記載が実際とは異なるとか、1里の長さが魏の時代の1里435m※よりもずっと短いといったことがよく議論になります。

例えば、魏志倭人伝は末盧国から伊都国を「東南」と書きますが、末盧国を唐津、伊都国を糸島とすると、実際の方角は東※です。

また、魏志倭人伝は朝鮮半島南部の狗邪韓国から対馬国までを「千余里」と書きますが、直線距離では約93km※ですから、1里は93mにしかなりませ

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須玖岡本遺跡D地点と奴国王墓

須玖岡本遺跡D地点と奴国王墓

福岡県春日市にある須玖[すぐ]岡本遺跡を調べると、「D地点」という場所の名前が出てきます。他の遺跡では聞き慣れない名前です。須玖岡本遺跡D地点とは何なのかを紹介します。

須玖岡本遺跡は奴国[なこく]の王都だったとされています。奴国とは、57年に後漢から「漢委奴国王[かんのわのなのこくおう]」の金印を贈られた奴国です。魏志倭人伝にも登場します。現在の福岡県春日市岡本にあります。

戦前の論文から振

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千葉市昭和の森の野生動物たち

千葉市昭和の森の野生動物たち

僕は古代史研究とともに、千葉市昭和の森での自然観察を趣味にしています。対象は主に哺乳類です。

※トップ画像:2024/4/28に出会ったタヌキ(動画からのスクショ)

(2024/5/19最終更新)

昭和の森で出会った野生動物と回数昭和の森は住宅街に隣接する都市公園ですが、たくさんの哺乳類が住んでいることを、ほとんどの人は知らないと思います。僕が何か特別なことをしているわけではありません。毎日

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埼玉稲荷山古墳鉄剣の辛亥年と榛名山噴火

埼玉稲荷山古墳鉄剣の辛亥年と榛名山噴火

埼玉稲荷山古墳から出土した金錯銘[きんさくめい]鉄剣の「辛亥[しんがい]年」は「471年」が定説になっています。60年後の「531年」だという説は少数派です。

471年が正しければ、第21代雄略天皇の年代には、ヤマト王権の支配が関東まで及んでいた証拠だとされ、第一級の資料として注目されます。

※ちなみに辛亥というのは十干十二支の「かのと・い」のことで、60年に一度巡ってきます。辛亥革命の191

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もし、信秀が竹千代を殺していたら

もし、信秀が竹千代を殺していたら

今回の記事は古代史ではなく、戦国時代です。

歴史では、よく「もし、〇〇が△△だったら…」ということが語られます。たいていは大げさだったり、可能性がないことが多いです。クレオパトラの鼻が1㎝低くても、世界の歴史は変わらなかったと思います。

日本の歴史では、これは変わっただろうなあという最強の「もし」があります。

1547年、今川義元のもとに人質に送られるはずだった竹千代(5才)は、田原城主・戸

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寺沢薫氏『卑弥呼とヤマト王権』への疑問:纏向には楽浪系土器が皆無

寺沢薫氏『卑弥呼とヤマト王権』への疑問:纏向には楽浪系土器が皆無

寺沢薫さん(纏向学研究センター)の最新刊『卑弥呼とヤマト王権』(中央公論新社、2023年)にはたくさんの疑問があるのですが、4点に絞って指摘したいと思います。

寺沢さんの説は、一般的な邪馬台国近畿説とは異質です。僕のnote記事で度々掲載している一覧表を修正して、改めて掲載します(図表1)。

図表1

以下では、長くなりますが、寺沢さんの記述を引用しながら、疑問点を検討したいと思います。出典

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