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藤波
2020年10月7日 22:26
享楽に溺れたいなら来るが良い。拒む理由など、最初から持ち合わせてはいないのだから。 太陽が欠けて月がたっぷり満ちた夜にでも、来れば良い。ストロベリージャムよりも甘ったるい液体を一滴残らず飲み干したなら、高らかに笑い声を上げて飽きるまでステップを踏もうじゃないか。 目の覚める様な月夜だった。まん丸でも長細くもなく、満月を半分に切り分けた形をしている穏やかな銀色が、濃紺のビロードの空に
2020年10月6日 21:27
案内パークに足を踏み入れた途端、足元のピンヒールが軽やかな音と同時に、白に埋まった。一瞬、驚いた様に艶々した紫を開いてから、不意に苦々しげに口元を歪める。無造作に辺りを見渡せば、自分が立っている場所の他にも白、白、白、それに混じるプラチナ。微かにしか降り注がない日の光に、ダイヤモンド顔負けの輝きを返しつつも、情け容赦なく、その場の温度を殺していく。 辺りでは、一面に歓喜の声が響いている。この
2020年10月6日 21:16
悴んだ手に伝わる 冬の温もり 見ているだけで凍えそうな夜の冬空を見上げながら、一つ二つ瞬く星の数を数え数え、吐く息がやっと白くなったのを再認識にして、「嗚呼、お腹が空いたなぁ。」とこんな風に思える。 ね、そろそろお帰り?小さな背中を押す北風が促すのは、正反対の優しい言葉。暖かい光を持った心安らげる場所に、手を繋いで歩き出そうよ。 ひい、ふう、みい。 夜風に吹かれ、濃厚な色彩を持っ
2020年10月6日 21:10
さぁ、行きましょうか。 何処に? …海に。 涼しげな音を奏でると同時に、海の幸を足元にまで運んで来てくれるのは、寄せ波。手を伸ばせば触れられるのに、捕まえようと掬った掌からは簡単に逃れて行ってしまう。絶対に囚われてはくれない。 逆に、無音で近付いて来ては、一瞬の内に全てを奪ってしまうのは、引き波。直ぐ足元を撫でて行くのに、捕えようと掴んだ指先からは簡単に逃げて行ってしまう。絶対に帰って来
2020年10月6日 21:00
手招きして 誘き寄せて おいでませ。永遠に続く夜の世界へ。何時の間にか迷い込んでいる常夜は、一寸先すら分からぬ闇の世界。これを照らす明かりは、細く棚引く黄金の月光と鋭利な刃の瞳。 ぽっかり、夜空に穴が開いた様に見える頭上だけの真ん丸い空間。僅かに視線を上げれば、蜜色に輝く満月と直に目が合い、その神々しさに魅入られそうになって、思わず眉をひそめた。その結果、漆黒の夜を映した双眸が鋭く尖る
2020年10月6日 20:22
少しだけ 歩きに行こうか。 紅の蓮より少し優しくて、柿色よりも少し辛い。 そんな夕方4時37分の空。甘やかな茜をバックにした紅葉の木の下の地面に生存を許されたのは、背高のっぽの影達だけだった。「…何してんの?」 前方から吹き荒れて来た北風に身震いした途端、何処か投げやりに問い掛けた彼女の声が、やけに近く、耳に届く。音に反応して、ユンク特有の鳥の羽を連想させるほっそりしながらもフワ
2020年10月6日 20:08
ワルツとタンゴ どちらがお好み? 煌びやかなドレス、靡くシルクのリボン。 ぽっかりと、目の前に広がるダンスホールの様な広大な敷地の真ん中で、何をするでもなくボンヤリと立ち竦んでいた。ダンスホールと言っても、広さだけの話だ。優美ながら楽しげな雰囲気に付き物の、豪華なシャンデリアや煌めく大理石のホールは、勿論無い。薄暗く、かろうじて差してくる日光も微量な明かりも頼りない位、淡い。足元も、地面
2020年10月6日 19:53
儚い、春ノ夢ノ如し。 触れれば一瞬で、解けてしまいそう。 自分が落ち葉を踏む音が、木霊する様に当たりに響き渡る。慎重に、でもなるべく速く足を進めて行きながら、メロン色のラヴォクスはゆっくりと、目の前の茂みを掻き開いた。 カサリ、と枯れ葉が擦れ合った音が想像していたよりも大きく耳に届いて、ヒヤリとした緊張感が胸元を圧迫する。一瞬だけ、その感情に戸惑って、前に向けていた視線を足元に落とした
2020年10月6日 19:36
空さえも、ほら 紅よりも色濃く、蒼よりも儚げな色合いに染まる 暗い、光の差さない場所を縫う様にして歩いていた。僅かだが、木の合間合間から零れる薄い日差しが、影を照らす。ダラリ、垂らした片手の中で、大身槍の重さだけがリアルに感じる。薄暗い森の中で、上質なスーツを纏った姿は影法師の様にひっそりと立ち竦みながらも、優美な絵姿にはなっている。 肌や服に染み付いた血痕が、風貌の恐ろしさと美しさ
2020年10月6日 19:25
にんまり、刻まれた笑みが気持ち悪い程、深い。キャンディみたいに真っ赤な唇。赤がゆっくり弧を描いた。振り乱された髪、普通じゃ有り得ない位、細い腕。それがゆっくり伸ばされて―――。 それと同時に、悲鳴を上げ、頭を抱え込む様にして自身をかばう。すると、不思議な事に、伸ばされた腕が闇に溶けた。けど、必死に瞑った瞼の奥には、深い恐怖が残っていた。怯えてしまう程、深くて怖い恐怖。 目を開けたら、伸
2020年10月6日 19:06
続く 続く 続いていく リールの上を歩きながら考えた事がある。この人生は止まる事も無く、ただ滑らかに進んで行く。始まりがある。だが終わりはない。矛盾した点を不信に思う気持ちも無く、只ずっと歩いていた。「後少しで五月も終わり、ですかぁ。」「…後少しで梅雨も来るし。」「…ちょいと、アンタ俺に喧嘩売ってるンですかぁ?」 薄く開いた瞼の内から除く、金色がかった橙色がその言葉をぶつけ
2020年10月6日 18:57
宙に掻き消えたのは、何? その猫は高い高い木の上から、猫は迷い込んだ少女を見下ろしてニンマリと口元を吊り上げました。柔らかな風が頬を撫ぜていく中で、少女が此方をゆっくりと見据えました。透き通ったその瞳を飄々と見つめ返して、頬の笑みをもっと深く刻み込むと軽やかな、踊るような口調で呟きました。―――御機嫌よう。 挨拶なのか、少女は小さくオウム返しに呟きました。それを満足そうに聞いて、猫
2020年10月6日 18:54
世界で一番儚くて 脆い 切っ先で弾いた世界はとうに滅びる物であろうとも。それでも刃に写らぬ表情は何時も 笑みを 笑みを 望んでいた。 ハラリ、と目の前を薄桃色の雪が降る。そんな比喩表現さえピッタリに見える景色を眺めながら、そのムシチョウは嬉しそうに微笑んだ。微笑むと同時に、海の色をそのまま切り取ったような瞳が幸せを表すかの様に、和む。 思わず手を伸ばしてその小さな花弁を一つ、握
2020年10月6日 18:47
壊して 世界も貴方も グシャリ、と壊してしまってから非常に面白味のない物だと思った。地面に転がった物を、冷めた目で見つめてから小さく目を瞑る。そして、「嗚呼、」と軽く溜め息を吐いて名残惜しげに今しがた手にしていた小さな温もりにもう一度、手を伸ばす。 触れた一瞬。拾い上げてやろうと思ったのだけども、その前に気が付いてしまった。自分にはそんな事をしてやれる資格なんてない。そんな事をしてあ