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生活すること

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生きるって何だろう?それは生活することなのではないだろうか────30才で伊東市にある海の街へ移住して感じたことを書いています。
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#田舎暮らし

小さな街の小さな物語たち

小さな街の小さな物語たち

もうすぐ冬も終わりだなあと思いながら、ふとスーパーで目に入った大根。そういえば、今シーズンは煮物を作っていない。出汁の染み込んだあの味を想像した途端に食べたくなり、半分に切られた大根を買った。煮物は出来上がるまでに少し時間がかかる。調味料を適当に鍋の中へとぶち込み、ダラダラとYouTubeを見ながら待つ。このダラダラとしている時間が最高に無駄で楽しい。スーパーの惣菜コーナーで大根の煮物を買ってしま

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一度目の春に添えられるいただきもの

一度目の春に添えられるいただきもの

部屋の中で河津桜が咲いている。新井の土産物店で買い物をしたおまけでいただいたものだ。昨年も河津町でもらって部屋が桜まみれだったため、またこの季節がやってきたんだなあと。まだ暖房が必要なくらい寒い日もあるのに、桜が咲いているのは不思議な感じだ。もうじき花びらは落ちて葉桜となり、一度目の春が終わる。そして4月頃にまた別の桜が咲き始める。伊豆は春を二度も楽しめる場所なのだ。

買い物へ出かけようと家の外

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幸せの範囲

幸せの範囲

新井の街は、私の目にはアートのように映っている。斜面に沿って立ち並ぶ家並み、どこへ繋がっているのか分からない入り組んだ細道、坂を登れば登るほど姿を見せる海、辺りから聞こえる無数の鳥の声、時折り風に乗って漂う潮の香り。全てが今までの私の人生の中にはなかったもので、とても新鮮に、繊細に、穏やかに体内へと取り込まれていく。地元の人の目には故郷というフィルターがかかり、過去の思い出と共に今が共存しているか

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暮らしていく街から暮らしている街へ

暮らしていく街から暮らしている街へ

伊東市や伊豆地区などの特産品を集めた物産展「めちゃくちゃ市」へと向かう。毎年1月に行われていて、行くのはこれで2回目。昨年来た時はまだ移住したばかりの頃で、あれから1年経ったのだと実感。季節がぐるっと一周回り、同じ冬がやってきた。だけど、同じ冬でもあの時とは違う季節のように感じる。1年前までは知らない景色しかなく、知り合いもいなかった。それから移り変わっていく季節と共に景色を覚え、名前を呼んでくれ

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ガイドブックを持たずに

ガイドブックを持たずに

散歩へ出かけることにした。暇を見つけては散歩へ出かけるのが日課になってきている。今は腱鞘炎で制作ができないのもあるけれど、そうなる前は制作にのめり込みすぎてしまい、インプットとアウトプットのバランスが崩れたために腱鞘炎というストップがかかったような気がしているため、これからはもう少しインプットの比率を多めにしていきたいと思っている。

近頃、毎週末のように散歩へ出かけている、母から影響を受けている

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海と共に緩やかに漂う

海と共に緩やかに漂う

半月ぶりに伊東へ帰ることにした。右手がまだ使いものにならないため、もうしばらくは生活サポートをしてもらうべきなのだけど、伊東へ帰りたくて帰りたくて仕方がなかった。もともと心の安定を求めて移住したため、伊東にいる限り私の心は安定する。きっとその心地よさを身体が覚えていて、求めてしまうのだろう。

小田原辺りで電車の窓から海が見えた瞬間、私の心は舞い踊った。待ちに待った海だ!こんなにも心が惹かれるもの

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街の向こう側に見える海を探しながら

街の向こう側に見える海を探しながら

クリスマスにサンタさんから腱鞘炎をプレゼントされたため、制作をストップして散歩へ出かけることにした。最近やりすぎだから休めよというメッセージなのだろう。駅前まで自転車を走らせ駐輪場に止めて、そこから歩いて松原の方へと向かった。旅行客らしき人たちとよくすれ違う。冬休みの学生や、すでに仕事納めをしてきた人たちなのかなと想像してみる。

伊東松原八幡神社の鳥居を横切り、ひたすら坂道を登って行く。歩いてい

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海の街へ移住したら

海の街へ移住したら

伊東へ移住して1年が経ったので、今しかないこの新鮮さをパッケージングしておくためにも、初めの1年で起きたことをまとめておくことにした。

伊東市は約半分が国立公園になっていて、国際観光温泉文化都市にも指定されている自然豊かな街。私が暮らしている「新井」という場所は、特に古い街並みが残っている漁村で、道端で干物が干されているのが当たり前の風景。高齢化が進み、空き家も増えているけれど、私がここでしか感

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静けさと淡さの中で見つける自然界からの便り

静けさと淡さの中で見つける自然界からの便り

朝、目が覚めると心臓がバクバクしていた。昨晩は家が揺れるほど風が強く、ドオッと風音が鳴るたびにドキッとする。まるで台風のようなこの風は、時折りこの街で吹き荒れる。家が吹っ飛ばなかったことに安堵し、いつものようにコーヒーを淹れた。風は少しおさまったようで、鳥のさえずりや、トンビが気持ちよさそうに鳴いているのが聞こえる。観葉植物の葉は静かにカサカサと音を立て、ブラインドから差し込む陽と共に揺れている。

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結果を捨て去った日常は広がり続ける多彩な世界

結果を捨て去った日常は広がり続ける多彩な世界

結果をあまり気にしなくなった。というか結果を想像しなくなった。というか結果が伴うことをしなくなった。今できることを淡々とやって、あとはどうにかなるさとお気楽な感じでいる。もうちょっと考えた方がいいのではないかと思うことはあるけれど、そこには背伸びをした自分か、背伸びが足りないと落ち込む自分か、もっと背伸びをしなくてはいけないと鼓舞する自分がいただけだった。結果のことを考えると、その結果に対して今の

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不便さの中にしか存在しない美しさと暮らす

不便さの中にしか存在しない美しさと暮らす

先輩移住者として、伊東市が主催する「伊東暮らし移住相談ツアー」へ同行した。先輩と名乗れるほど長く住んでいるわけではないけれど、まだ新鮮さが残っている視点での良さなら伝えられるかもしれない。移住にはたくさんの不安が付き纏う。仕事も人間関係も生活のルーティーンも変わり、人生そのものが変わると言っても過言ではない。現状を変えるためには、移住は手っ取り早いだろう。だから変わることを前提にして、それ自体を楽

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細道での繋がりと暮らし

細道での繋がりと暮らし

空が晴れていたため散歩へと向かう。目的地はなく、ただ歩いてみたい場所へ行ってみる。風景画を描くためだったり、新曲をイメージするためだったりもするけれど、単純に街並みが好きで歩いてみたくなるのだ。新井は細い道が入り組んでいて、行ってみないとどこへ辿り着くのか分からないワクワクさがある。家と家の間から時折り海が見えたり、階段を上がってみれば街を見渡せるほどの絶景だったり、直感でここに住んでみたいと思っ

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染まりゆく地平線に向かって

染まりゆく地平線に向かって

コーヒーを淹れてリビングに座っていると、ベランダへいつものにゃんこがやってきた。毎朝同じ場所で、なんとも言えない体勢でくつろいでいる。観葉植物たちは朝日に煌々と当てられ、葉水をした葉っぱが艶やかに光る。植物が増えてきたため、満遍なく陽が当たるように最近配置換えをした。こんなにも小さい鉢植えの中で、少量の土と水があればすくすくと育っていくさまを見ていると元気をもらうと同時に、人間は不便すぎると感じる

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深く息を吸い込めば

深く息を吸い込めば

東京から帰宅。伊東の駅へ降り立った時、引っ越してきたという新鮮さよりも、帰ってきたという安心感が沸くようになってきた。まろやかな伊豆の空気を身体へ取り込もうと、いつもより大きく深呼吸をする。ふと思えば、意識して呼吸をすることが増えた。やっぱり排気ガスにまみれた空気よりも、自然の香りがする空気を取り込みたい。躁鬱が酷かった時、知り合いに呼吸の仕方を教えてもらったことがあり、ゆっくり深く呼吸をすること

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