![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/127019481/rectangle_large_type_2_c9de83ef1c55a30b1794680465839b16.jpg?width=800)
街の向こう側に見える海を探しながら
クリスマスにサンタさんから腱鞘炎をプレゼントされたため、制作をストップして散歩へ出かけることにした。最近やりすぎだから休めよというメッセージなのだろう。駅前まで自転車を走らせ駐輪場に止めて、そこから歩いて松原の方へと向かった。旅行客らしき人たちとよくすれ違う。冬休みの学生や、すでに仕事納めをしてきた人たちなのかなと想像してみる。
伊東松原八幡神社の鳥居を横切り、ひたすら坂道を登って行く。歩いているだけなのに、息切れしてくるほどの傾斜と距離。途中には工事現場の柵で封鎖された、中身丸出しの廃墟が時の流れを静かに刻む。今と過去が同時に流れているような、不思議な空間。
坂を登りきると、辺りが開けて街を見渡せるスポットがある。登ってきた坂を振り返れば、街の隙間から海がチラリと顔を見せている。ここは私の好きなスポットの一つだ。写真を撮っていると突然、後ろの家のベランダから話しかけられた。「あれは大室山と小室山だよ、今日はいい天気だからよく見えるでしょ〜。」冬の凛とした空気の向こう側には、2つの山がついになってそびえ立っている。この家の人は、この景色を毎日見られるのかと思うと羨ましい。「私は毎日この坂道を歩いて登っているのよ」と話すその姿は、80代とは思えないほどに元気。楽しんで〜!と笑顔で見送られ、ありがとうございますと返しながら手を振った。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/127019596/picture_pc_6f0d77ac717e79efae7cc2c50b45901c.png?width=800)
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/127019523/picture_pc_e24367ac7aa15c2cb4bc15ad8dd9b3a3.jpg?width=800)
奥へ進むと、静かな住宅街が続く。途中、大平の森コースという看板を見つけて、草木が生い茂る細道を進んでみる。横から動物が飛び出してきそうな雰囲気。どうやらこの道は、ハイキングコースの一部分らしい。ハイキングコースを歩かなくても充分、ハイキングな道だらけだけどね。伊東は生活に必要なものは全て揃うくらいには便利なため、時折り忘れてしまうのだけど、こうして歩いてみるとやっぱり田舎なんだなあと思う。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/127019662/picture_pc_1ce51245ffe9dda591b7569608711d88.png?width=800)
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/127019642/picture_pc_a44a952af17f53411139bb7eda97d5cc.jpg?width=800)
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/127019913/picture_pc_e34ad040a2f6b5155a43778ce099bab4.jpg?width=800)
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/127019643/picture_pc_a02195e453df357a38072819830bda5f.jpg?width=800)
また息を切らせながら、坂という坂を登ったり降ったりする。今日は平らな道をほぼ歩いていない。足の筋肉がプルプルとしてきて、明日は筋肉痛になりそうな予感。斜面に沿って作られた伊東の街は、坂を登れば登るほど遠くの景色が見えるようになる。通常ならば遠ざかると見えなくなってしまう海も、登った分だけ顔を出す。土地を切り拓けなかったのか、わざと斜面を残したのかは分からないけれど、この街の家はみんな海を見ている。それもまた、街と自然が共に暮らしているように感じる要素の一つなのかもしれない。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/127019769/picture_pc_17f047459aa4e15412afe141a0fff740.png?width=800)
海の側で育ってこなかった私にとっては、海があるだけで非現実感がある。穏やかで静かな空気に溶け込んでいる人々の生活を見ていると、まるで映画のワンシーンかのよう。捨て去られた廃墟には植物たちが新たに芽吹き、人間界を離れ、自然界へと還ってゆく。私たち人間とはまた違う時間軸の中で息づいていた。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/127034294/picture_pc_95f34bf0f153f92d861130aede79d565.png?width=800)
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/127019764/picture_pc_5624d2d04169b809ac71a4708a14ebcd.jpg?width=800)
風景画に描いたことのある八百屋さんの前を通ると、看板が取り外され、もぬけのからになっていた。もうすぐ店を閉めるという話は、人づてには聞いていた。風景は必ず変化するものであり、絵にして切り取っておくと、その時点で時間を止めて置いておくことができる。線一本一本、色彩一色一色を辿り、紙へと落とし込んだ私の心の中では、八百屋さんは今でも息づいているような感覚がある。自分の描いた風景が変わるという初めての体験をして、人それぞれに見えている風景の時間軸があるのだと知った。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/127019816/picture_pc_01468ff1034bfc92289624c0802c0cfc.jpg?width=800)
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/127019855/picture_pc_f15055960c6454c79c6f033510c86721.png?width=800)
坂道を降り、自転車で海岸へと向かう。さっきまで遠くの方に見えていた海が、目の前に大きく広がった。高台から見る海もいいけれど、やっぱり波の音が聞こえる側で見る方が好きだな。堤防の上で青々とした海と空を眺めながら足を休ませ、帰路へと着いた。
頂いたサポートは活動のために大切に使わせていただきます。そしてまた新しい何かをお届けします!